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2章
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しおりを挟む「1つ、まがままを言ってもよろしいですか?」
「というと?」
「リビーフ大橋の爆破もお願いしたいのですが、」
「これはまた大胆なことを…
わかりました、それも引き受けましょう」
「依頼するのが、パシー家でなければ、このようなわがままは言いません」
サレットは品定めをするかのように私を見つめた。
「ローズ様、そしてこの先のアンディークが楽しみでもあります」
「サレット様が直接手を下すのですか?」
「いえ、せがれに任せようと思います。私が今まで見てきた中であそこまで才能に恵まれたものは見たことがありません」
「心配はしてないです、よろしくお願いします」
「すぐに準備に取りかかるよう、伝えておきます」
「お願いします。パウロ様、他に何かオドールについてわかった事実はありますか?」
パウロの顔色が曇った。
「オドールとは厄介なやつです。デミアン様ともかなり親密な関係を築いているようです」
オドールの名前を出したときのデミアン様の反応、やはりそうだったか…
おそらく、デミアン様からの信用を得るためオドール自ら近ずいたのだろう。
「皮肉なものです。オドールの正体が兄であるロバート・ロッキー卿の学友とは…」
「それは本当ですか?」
私はつい大きな声で反応してしまった。
「ええ、間違いないでしょう。ロッキー卿、オドール、そして王家の次男、べキール・ロミナ卿、この3人は学園時代、いつも一緒に過ごしていたそうです」
「裏には王家と公爵家ですか…
アンディークが成長しないはずです」
「…」
べキール・ロミナ卿、ラビラと婚約していた頃何度か会ったことがある。
わかりやすく冷酷な人間だと思った記憶がある。
ラビラは、冷酷さを隠そうとするが、ロミナは隠さない。
王家に公爵家、周りを見渡せば敵しかいない。
1つずつ、小さな勝ちを繰り返していくしかない。
「パウロ様、農業一家・サニー家の当主の方に挨拶をしたいのですが…」
「トンゼなら、今頃酒場で飲んでるはずです」
……
入り口の看板はCLOSEなはずなのに、店内でお酒を浴びるように飲む2人の男がいた。
大声で話す2人をパウロが一旦落ち着かせ、事の経緯を話した。
「オドールのやろう、裏でそんなことを…」
この少し小太りの方が、サニー家当主で農業の専門家、サニー・トンゼ。
「そんな奴が、アンディークの統括者とは笑わせる…」
この少し痩せ気味の方が、貿易一家・オクール家当主のオクール・ザビラ。
「ローズ様、農業のことは私にお任せ下さい。農地の管理は怠っていないので、いつでも農業を開始できます」
「輸入・輸出、貿易、交渉などは私に任せてください」
「2人とも酔っていますが、四大名家の当主です。その腕はたしかです。その道のプロとして、仕事でヘマをすることはないと約束しましょう」
サレットの言葉には説得力があった。
「引き受けていただきありがとうございます」
「王妃様のこともありますが、サレットが引き受けたなら、引き受ける以外の選択肢は残っていません」
トンゼがボソッと呟いた。
文献には、四大名家の中ではパシー家が1番高い序列に位置すると書かれていたが、その通りのようだ。
たった1日でサレットだけでなく、この2人にまで会えるとは、私はついている。
お父様に会う以上に疲れる心労を1回で済ますことができるとは…
寿命が伸びたような気もする。
3つの駒が1日で手に入った。
「ローズ様の狙いが知りたいものですなぁ、あまりにも遠い世界を見ている気がするのですが…」
この人たちからの質問はいつも鋭い。
油断できる瞬間なんてない。
「いずれわかることになります。それに、私の見えている世界はある程度共有されているはず、でなければ引き受けなかったはずです」
「なるほど…
パウロとサレットが引き受けた理由が、なんとなくわかりました」
納得した様子のザビラは、新たに3つグラスを用意し、余っていたウィスキーを注いだ。
「久しぶりの、面白そうさ依頼に乾杯」
5人でグラスを重ねた。
以前なら、ウィスキー1杯でも酔ってしまっただろうが、今となっては1杯で酔うはずがない。
家系的には、お酒に強いはずだったが、侯爵邸にいた頃は、その強さは眠っていた。
アンディークに追放され、その強さは目を覚ましたようで、日に日に強くなってきている。
強くなっていく度、血の繋がりを嫌でも実感させられ、いたたまれない気持ちになる。
……
このままシエル庭園に寄って、唯一の息抜きである植物への水やりをしようと思ったが、
変装を解くため1度旧王宮に戻ることにした。
「すごい…」
パウロに教わった変装、自分が自分に見えない。
復讐を成し遂げるため、一時でも自分以外の誰かになるため、パウロに認めてもらえるくらいまで極めたい。
自室に戻り、変装を解き始める。
いつもの自分に戻っていく過程で、ピアール家の血が流れていることを実感する。
全ての工程を終え、完全にピアール・ローズに戻ったときだった、
「大変です、ローズ様」
使用人の1人がノックも忘れて、部屋に入ってきた。
明らかに動揺し、顔からは血の気が感じられなかった。
大事が起きたことは、間違いない。
一体何が待っているというのか…
「そんなに慌ててどうしたのですか?」
「ローズ様…
こ、侯爵夫人ががいらっしゃいました」
「お母様が…」
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