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2章
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しおりを挟む「どうしてそう思いに?」
「私が同じ立場なら真っ先に復讐を考えます」
デミアン卿の言葉は堂々としていて自信のようなものを感じた。まだ何か隠して…
「それだけですか?」
「服屋で、寒色のドレスを購入していましたね」
「見られていたのですか?」
「使用人に監視させていました」
「そうですか…」
マリーに似合うと言われた暖色のドレスは、私にとっては仮面のような存在で、侯爵家令嬢としての表面的な私を取り繕ってくれる。
寒色のドレスは仮面は外した本来の私。復讐に駆られた哀れな令嬢。
1着ほど持っておきたかった。
思ってもみなかった方向に話が進んでいっているが、目標を達成する上では、決して悪くない進み方だ。
「ローズ様が復讐を望むなら、私に協力させてください」
「私の復讐は危険です、失敗に終わるかもしれませんし、命を失うリスクもあります」
「それはわかっています…」
デミアン卿から伝わる緊張感が、私まで緊張させる。
人生の岐路に立たされているようだ。
「1つ伺ってもよろしいでしょうか」
髪の隙間から見える鋭い眼差しに、首を縦に振らざる負えなかった。
「ローズ様の復讐の過程で、私たちロバート家は没落しますか?」
「何かしらの被害を被ることにはなりまが、没落まではいかないかと」
「そうですか…
協力する上で、1つお願いしたいことがあります」
「お願いですか?」
「ロバート家を没落させてください」
デミアン卿は拳を強く握りしめた。
緊張感にも勝り、デミアン卿の瞳には希望が満ち溢れていた。
「諦めかけていた私の夢です。公爵家の人間は不幸を味わなければなりません」
嘘をついてまで、自分の家門の没落を口にする貴族など存在するのだろうか…
私にはデミアン卿のその言葉が、心からの願いのように感じた。
「本来なら私がデミアン様にお力添えをお願いする立場でした…」
あっという間に話が進んでいく。
「デミアン様の夢は私が叶えて差し上げます」
「ありがとうございます」
瞳から涙を流し始めたデミアン卿は、膝をつき、私に忠誠を誓った。
デミアン卿の復讐に対する執着がここまでとは思わなかった…
けれど決して信用はできない。
しばらく様子を見つつ、タイミングが来たら婚約という形に持っていく。
「すでに計画はできあがっています。明日の朝、旧王宮に来てもらうことは可能ですか?」
「デミアン邸は色々と人が多いですから…」
「もちろんです」
……
私にはもう1つ予定の入っていたこともあり、
デミアン様たち一行とはここでお別すせることとなった。
「デミアン様、今日はありがとうございました」
「こちらこそです。では、、」
デミアン様は何か言いたいげだったが、その言葉は喉の奥に飲み込んだようだ。
馬車が見えなくなるまで送り届け、今日、帯同してくれた使用人たちを集めた。
「今日は、急な出来事にも臨機応変に対応してくださり助かりました」
「これからデミアン様一行と関わることが増えると思います。今後とも、今日のような素晴らしい対応をお願いします」
公爵家のご子息と関わりが増える、それが意味することは1つしかない。
使用人たちは驚いたような顔を見せたが、すぐに明るく嬉しそうな顔に変わった。
私がデミアン様と婚約することになれば、使用人たちは今よりも、もっといい生活ができることが確約される。
婚約の可能性、そのことを喜んでもらおうとは思わない。
私の狙いは、期待値を上げることだ。
期待させておけば、使用人たちの士気がいっそう引き締まる。
「その日が来るまで、改めてよろしくお願いします」
本当にありがとう。その言葉は、いつか復讐が叶った日にとっておこう。
最後まで残ってくれた人たちへの、見返りは絶対に忘れない。
……
公園を出発し、街の一角にある、とある酒屋へと向かった。
「お嬢様、本当に1人で大丈夫ですか?」
「大丈夫ですソフィー、ここは私1人で行かなければなりません」
「わかりました…」
酒屋というものは、耳馴染みはないものの、どのような場所かは知っている。
1部の貴族は、酒屋を裏から経営したり、大量の口止め料を払って通っているという噂もあるが、多くの貴族には馴染みの薄い場所だ。
行っていることがバレたりしたら、大事に発展しかねない、そんな場所だ。
私も訪れるのは初めてだ。
「では、行ってきます」
マジック酒場・ヴァン。ここに私が求めている駒となりえる人物がいる。
「いらっしゃい」
店内には、カウンター席とホール席が同じ数用意されていた。
多種類のワインとマジックで使われる道具が綺麗に並べられた、シンプルな内装だ。
店内には店主が1人、グラスを丁寧に拭いていた。
「おっと…」
笑顔で向かい入れた店主だったが、私の服装を見てすぐに顔色を変えた。
「俺は店主のパウロだ、お嬢様はちょっと歓迎できないな、後で面倒なことになりたくないからね」
この人だ。
「テキーラをロックで2つ、
ウォッカをロックで4つ、
ラムをロックで4つ、
ラムだけ持ち帰りで」
仕事を依頼する際の隠語、これであってるはずだ。
「ほほぅ」
パウロは拭いていたグラスを、軽く中に浮かせた。
そこからは一瞬だった。
私がグラスに気を取られているうちに、肩を捕まれ、そのまま引き寄せられる。
中に浮かせていたグラスをキャッチし、私の首に突きつける。
身動きが取れない…
いつの間にか、グラスはアイスピックへと変わっていた。
「ここはマジック酒場、こんなことが平然と起きちゃう場所」
「お嬢ちゃん、なんでその隠語を知ってる?」
血が首筋をゆっくりと流れていくのを感じた。
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