本当の絶望を

夕浪沙那

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2章

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公園に到着し、食事の準備が整うまで、私は、奥の方にある湖で1人の時間を過ごす。

鳥の鳴き声が冴え渡る綺麗な湖。

地面にしゃがみこみ、湖をボーッと眺める。

デミアン卿が私のことを嗅ぎ回っているとの情報が多く届き、思いついたこの計画。

今のところ順調に進んでいるが、懸念点もある。

1つ、私のことを聞き回っていること。

聞いた話によると、私の荷物の少なさを不審に思っていたり、侯爵家での扱いについて気にしていたりと、デミアン様の着眼点が気になる…

国の未来を背負っていく公爵家の者らしくない。

2つ、デミアン卿に嘘をつく度に胸が痛むこと。

侯爵邸にいた頃は、嘘をつくことが義務だったからか、身内に嘘をついても罪悪感など
一切感じなかった。

それなのに…

デミアン卿は違った。

デミアン卿は、私を1人の人として対等な立場で接してくれる。

誠心誠意、私と向き合おうとしてくれている。

こんなにも人間味に溢れた方なら、むしろラビラくらい冷酷な人の方がよかった。

罪悪感を感じなくて済む。

リスクを承知でも、デミアン卿の気持ちを確かめ、どうにかして協力までお願いしたい。

デミアン卿は絶対に手にしなければならない駒だ。

「お嬢様、ご用意が終わりました。デミアン卿もお待ちです」

ソフィーが私を呼びに来た。

「お弁当は、全員に行き届きましまか?」

「届いています。初めからこうする予定だったのですか?」

「理想でしかなかったですが、御一緒にできてよかったです」

立ち上がると、綺麗な水面に私自身が映し出された。

新たなドレスに身を包み、それに合わせて整えてもらったメイクとヘアスタイル…

自分が自分でないような気がした。

「美しい…
お綺麗です」

お世辞とわかっていても、嬉しかった。

頬にっそっと手を当てる。

「不思議な気分…」

今日は、慣れない感情をよく感じる。

それにもいずれ慣れるだろう。

本質を見失ってはいけない、私は進むしかない。

代償なくして、得るものはない。

利用できるものは、利用する。

デミアン卿に対する、無駄な感情は殺すだけだ。

……

みなで食を取り、その後の自由時間で、デミアン卿と近くにあったキオスクに向かった。
 
「素敵な公園ですね」

心からそう思った。

「そうですか、それはよかったです」

デミアン様は少し嬉しそうに公園を眺めた。

「公園といっても、パドリセンにある公園とは大違いですよね

「私は、こちらの公園の方が好きです。こんな静かで心落ち着く公園はパドリセンにはございません」

「パドリセン…
行事以外で戻ることがないので、もう覚えてません…」

デミアン卿はどこか悲しげな表情だった。

「デミアン様、お聞きしたいことがあるのですが…」

「どうぞ、何でもお答えしますよ」

「ありがとうございます…」

少し言いずらそうな素振りを見せる。

「どうして私にそこまでよくしてくださるのですか?」

「旧王宮での扱いもそうですが、今日だって、服のお金を全てデミアン様が負担なさってくださいましたし…」

想定していなかった質問だったのか、デミアン卿はしばらく考え込む様子を見せた。

だが、しばらくすると、覚悟を決めたように話し始めた。

「先に謝っておきます、ローズ様のことを調べさせてもらいました…」

「似ていたんです、ローズ様の境遇が私の受けた境遇に…」

「言葉では表現しきれないほどの苦痛の日々に、さらされ続けた。それが放っておけなかったのです」

デミアン卿は何を仰っているのだ…

「私は公爵家の三男として生まれた瞬間から、
才能溢れる2人の兄と比べられてきました」

「兄たちと違って、私は不器用で何もできませんでした。だから烙印を押されるの早く、10年ほどローズ様と似たような生活をしてきました。」

デミアン卿の口から告げられた、信じられない言葉の数々。

私のことについて聞き回っていた着眼点、妙に腑に落ちる点が多い。

なによりデミアン卿の表情が、侯爵家にいた頃の私を見ているようだった。

「それでも、アンディークの統治者になることができたではないですか…」

「そうですね、私の場合は希望が叶ったから耐えることができました…」

希望…
過去の自分の姿が脳裏に浮かんできて、つい後ろめたさを感じる。

「ですが、ローズ様は希望まで奪われた。ローズ様の絶望は、私にも想像ができません。」

デミアン卿は、一度話を切った。

そう簡単に答えを出すことはできないが、嘘を言っているようには見えなかった。

デミアン卿は周りを確認し、小さな声で呟いた。

「復讐をされるおつもりですか?」
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