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1章
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しおりを挟む「ラビラとの婚約を破棄することになった。
2年間も次期国王と婚約できたのだ、誇るべきことだ」
いつものように、国王べギール・オーガストは、顔色一つ変えず要件を淡々と口にした。
「この決定は絶対だ、異論は認めん」
子息であり私の元婚約者、べギール・ラビラ王子そっくりで、何を考えているのかがわからない。
「承知しました…」
国王のお言葉だ、私に拒否する権利などない。
王室に呼ばれた時点で、こうなることは察しがついていた。
近頃、ラビラ様と会う頻度が少なくなっていた。
多忙ということだったが、会うことができても、婚約当初のような優しさはなく、素っ気ない態度だけが目立っていた。
私の住むピアール侯爵邸でも、婚約が破棄になるかもしれない、そのようなことをメイドたちが話している場面に幾度となく遭遇した。
覚悟はしていた。
だが、実際に面と向かって口にされると想像以上に胸にくるものがあった。
ラビラ様との婚約のために、私はかけられるものを全て投資してきたというのに…
そんな中でも、私を深い闇に突き落とす言葉たちは、私の気持ちなんて関係なしにやってくる。
「ラビラの再婚約者だが…
ローズ、お主の妹、ミカエラに決定した。私もラビラも一切不満はない」
「そんな…」
よりによって、どうしてミカエラが…
これほどの屈辱…
どうしたらラビラ様と婚約していたことを誇るという発想にいたるのか。
涙が出てきそうだった。
その場に膝から崩れ落ちたかった、このまま死んでしまいたかった。
私は我慢した、いや我慢せねばならなかった。
侯爵邸に戻ればお父様が私を待っている。
私もお父様に聞かなければならないこと、言いたいことがある。
それまではなんとしてでも耐えなければならない。
最後の力を振り絞ってお父様の元へ向かう。
……
侯爵邸に入ると、婚約破棄のことをもう聞きつけたのか、私に向けた笑い声が絶えず聞こえてくる。
灰色と化した視界の中でもわかる、家政婦や使用人たちのいつも以上に白い目線。
この家では、私は居場所のないただの不純物でしかない。
以前なら気にしていたことだろうが、もうそんなことはどうでもよかった。
とにかく足を進めた。
「お嬢様、きっと大丈夫です、侯爵様がなんとかしてくれます」
侍人のソフィーが辛そうな表情で何度もそう呼びかける。
ソフィーも、もうどうにもならないことに気づいているのだろう。
それでも慰めようと必死になってくれていることが、唯一の救いだった。
「15年間ずっと私のそばにいてくれたけど…
最後の最後までありがとう」
どんなことがあっても、ソフィーはいつも私の味方でいてくれた。
ソフィーがいたらから、今までやってこれた。
「ローズ様がどうなっても、私が必ず貴方の味方になります」
20年間生きていて、私は初めて、自ら誰かを抱きしめた。
ソフィーは体を震わせた。
私は涙を堪えるのに必死だった。
1度流してしまったら、もう止まらないような気がした。
……
いざ侯爵室の扉の前に来ると、先ほどまでの勢いは消え去っていた。
恐怖が怒りを上回ったからか、急に冷静になってしまう。
繰り返し頭の中で吐き出していた言葉たちを、
お父様にぶつけられるか不安になる。
それでも、もう引き返すことはできない。
気持ちの整理もつかぬままの状態で、私は扉を開いた。
「失礼します」
「待っておったぞ、ローズ」
パイプ式の煙草を吸いながら、お父様は侯爵専用の椅子に深く腰かけていた。
お父様と目が合った瞬間、過去のトラウマが思い出され、私を余計に縛り付けた。
「国王より、私と王子の婚約を破棄する旨を伝えられました。再婚約者はミカエラになるそうです」
「そうか」
お父様は全てを知っているようだった。
おそらく初めからミカエラにするつもりだったのだろう。
私はミカエラが15歳になるまでのただの代役。
「ローズよ…」
「いきなりで驚くだろうが、すぐに荷物をまとめて西の都・アンディークへ向かってくれ」
「そこでしばらくの間、休んでいなさい」
「それは追放ということでしょうか…」
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