小町のひとりごと

夢酔藤山

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あなめ小町

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 わたしの魂魄(こんぱく)は彷徨っている……死してなお未練に縛られるわたしの業は、ああ、なんと深きことか。もう見知る者たちすべてが死に絶えたにも関わらず、肉体もないわたしの魂魄だけが、風に晒され陽と月の光だけに照らされる。
 声を聞いて……わたしが小野小町。
 されど生けとし全ての耳には、わたしの声は一切届かない。
人が人が往来する地の傍らに、無造作に転がるのは髑髏。ええ、ええ、そうですとも、わたしの苔生す髑髏(しゃれこうべ)です。
 春は草木に覆われ、夏は苔に包まれ、秋は枯れ葉に囲まれて、冬は雪の底に沈む……。ああ、だけど、わたしの魂魄は未だ去ることなく留まっている。
 誰か、誰か、わたしを救って欲しい。
 わたしが男を手玉にしたのは、それほどの罪と仰せちや。
 死してなお荒野に捨てられる罰に興じる程の罪か。
 死したなら彼岸へ渡り、懐かしき宮様にお会いしたいというに、それさえも叶わぬと仰せちや。
 ああ、これこそ深草少将平義宜というその御方の呪いと申されるか。千年も万年も、孤独で震えよと申されるか。
 わたしの生けとし刻の半分は、あなたさまへの贖罪の放浪。浮かれし刻は瞬く間の出来事というに、その贖罪の刻では足りぬと申されますのか。名のみこの世に残し、身の栄華も捨てたこのわたしに対する怨念は、まだまだ足りぬと申されるのですか。
 さりとて、ああ、寂しい……寂しい。
 薄の穂が、丁度髑髏の目の穴から生えて、風にそよぐのです。死したにも関わらず、わたしの目はその都度に、あな痛し、泪も涸れし瞳が痛くて堪りません。
 あなめ、あなめ。
 あな目が痛しと、わたしは泣き叫ぶのに、誰一人耳を傾けてはくれません。
 ねえ、そこの若いお坊さん。どうかわたしの目から、この薄を抜いて下さいな。後生にござります、ねえ、ねえ、ねえ。
 この独り言が、ああ、いつまで続くのでしょう。
 千年も、万年も、わたしは独り、独り言の無間地獄。

                                    了
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