小町のひとりごと

夢酔藤山

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……黄昏の果てに刻む無情(9)

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 わたしにとっての時の流れは、まさしく春の甘美と夏の輝き、秋の肌寒さと冬の孤独でした。もうすぐわたしの四季は終わりそうです。
 冬の先は、何が待っているのでしょう。
 都の権力者たちは死した、死したる先も己だけの平安を望んで
「上辺の仏心」
に縋り、寄進や施行に勤しみます。
 しかしわたしは、寄る辺なき身。
 なんで上辺の繕いが出来ましょうや。
 わたしに出来るのは、ただただ過去への贖罪と後悔のみ。あのとき宮様と結ばれたなら……心を射止めることが叶うたなら……他にもございます。宮様への未練を綺麗に拭い捨て、外の男の愛を受け止めることが出来たなら。
 そう、例えば、深草少将平義宜というその御方の愛。
 遍昭僧正が果たして深草少将平義宜というその御方か否かは、もはやどうでもいいことなのです。あのとき確かに、わたしは深草少将平義宜というその御方を殺した。あの御方は死んだのです。
 ならば冬を生きるわたしの孤独は、彼の呪い?
 老いて醜き醜態をさらけ出して彷徨うのは、彼の怨霊の為せる障り?
 虚しい妄想ではありませんか。
 わたしは何故こうまで自虐的な想いに取り憑かれてしまうのでしょう。そのように責め続けても救われないのは判っています。
 誰とでもいい、親しく歌を交わしたい。
 いえ、嘘です。
 わたしは、わたしの見知ってきた、懐かしき人々に触れたいだけ……歌を交わし言葉を交わしたいのです。ああ、皆すべて彼岸の向こうへ旅立ってしまったというのに。決して叶わぬ夢というのに。
 わたしは誰?
 わたしは小野小町?
 嘘……嘘!
 誰も信じてくれないのに、わたしが小野小町ということを、誰が信じてくれるというの?
 わたしに残されたただひとつの確かなもの、それは小野比古という自分でも忘れていた本当の名のみ。
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