麒麟児の夢

夢酔藤山

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第6話 したしる天(あめ)

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第6話 したしる天(あめ)②


 天正九年(1581)四月、 福地伊予守宗隆・耳須弥次郎具明が安土城へ参じ
「伊賀への道案内を仕る」
と申し出た。信長は北畠信意を総大将とする五万の兵で伊賀攻めを敢行した。
 各攻め口より包囲するように、織田勢は侵攻した。
 このとき蒲生忠三郎賦秀は耳須弥次郎の先導で北方の甲賀口から南下した。玉滝寺に本営を置き、脇坂甚内安治等を併せた七千の軍勢で攻め入った。織田勢は努めて進軍先の村人を攻撃しなかった。しかし、伊賀衆は一向一揆のように、兵でなくとも敵だった。そのため耳須弥次郎が村人に襲われて殺された。伊賀勢は上忍・藤林長門を中心に戦ったが、夜になり退却した。周辺部落は蒲生勢によって焼き尽され、女子供も容赦のなく刃にかかった。
「嫌な戦いだ」
 蒲生忠三郎賦秀は呟いた。
 これは、ただの殺戮でしかない。一向一揆の戦いと何が異なるというのだろう。反面、戦場にあっては仏に遇ってもこれを斬るものだ。泣いて許しを請う者を斬らねば、次の瞬間、己が討たれる。綺麗事などない。
 その壮絶さ、のちに伊賀に残されたのは
「蒲生が来る!」
という忌み言葉だ。
 この言葉を聞くと、泣いた子も黙るという。
 それほどの惨劇を忠三郎賦秀が行ったこと。鬼手仏手の心は、だれ知る処ではない。
 比自山裾野に布陣した蒲生忠三郎賦秀は、伊賀勢の夜襲を受けた。このとき攻撃を仕掛けた伊賀衆は、比自山の七本槍とも称される猛者だ。
 この夜襲にも蒲生勢は崩れることはなかった。
 比自山を本丸にした伊賀衆は櫓を設け反撃に抵抗したが、激しい攻防戦の末、ついに落城した。城にいた伊賀衆は蒲生を恐れ逃散した。
 九月三日にはじまった天正伊賀の乱は、早々に決着した。『信長公記』に記載される停戦は九月一一日とある。一〇月九日、信長は伊賀国を直接訪れ、戦後処理を見聞した。
「三七」
 北畠信意は恐る恐る父を見上げた。
「大義でや」
 それきり、不始末は詰られなかった。このことを不思議に思った信意は、近くにいた蒲生忠三郎賦秀に疑問を口にした。忠三郎賦秀は思わず微笑み
「失敗を失敗で終わらせることこそ罪、その罪を挽回することこそ大義。上様はそう仰せなのでしょう」
「そうなのか?」
「はい」
 こののち信長は、阿拝郡・伊賀郡・名張郡を北畠信意に与えた。それが大義という言葉に対する答えだった。忠三郎賦秀のいうとおりだったと、信意は目を丸くした。
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