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親父のギャグ
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魔王の洞窟の前に到着すると、入り口には大きな木の看板が立っていた。
【魔王の洞窟。推奨レベル50】
「推奨レベル50って本当に大丈夫なのか?」
高過ぎる推奨レベルに不安な気持ちが募る。
「大丈夫大丈夫! 今は昼寝の時間だからよっぽどの事がない限り起きないよ! 戦う事はまずないわ!」
ここまでリッキーが言うならと、俺と親父は洞窟に足を踏み入れた。
洞窟の内部にはたいまつが所々に置かれていてそんなに暗い印象は無かった。
そして歩く事1分。魔王の目の前に到着した。
「グーグーグー」
大きな椅子に座りながら眠る魔王。
その姿は、成人男性の1.5倍くらいはある巨体で黒いローブに身を包んでいた。
ぱっと見、魔術師っぽいがこの巨体なら肉弾戦も相当強いはずだ。
寝ていながらも物凄い殺気が体中から溢れ出ている。
絶対に起こしてはいけない……。
「見て! 魔王の横に置いてあるあの装置が体外受精装置だよ!」
リッキーの指差した場所には、直径30センチほどの球体の装置が置いてあった。
「拓也! 魔王が寝ている今なら気付かれないで取れるかもしれないぞ!」
そう言って親父がそろぉりそろぉりと、狂言師のように体外受精装置の前まで足を運んだ。
すると次の瞬間。
「ゲホッゲホッ……くっさー! 何これくっさー!!」
ま、魔王が親父の臭さにむせて目を覚ましてしまった。親父の臭さとはリッキーの言うよっぽどの事に値したのだ。
鬼の形相で俺達を凝視する魔王。
推奨レベル50。絶体絶命だ……。
「我の眠りを妨げおって!! その愚行、私が魔王バドラーと知ってのことか! お前達、何者だ!」
完全に怒っている。もう言い逃れなんて出来ない……。
そう思って下を向いていると、
「眠りを妨げてしまった事、本当に申し訳ございません。私達は各地をまわっている旅芸人でございます。今日はバドラー様に貢ぎ物と言いますか、楽しい余興をお見せする為に参りました」
間一髪のところで親父が機転を利かせ魔王の怒りを鎮めた。
さすが社会人! よっ、見直したぞ部長!
「ほう? そこまで言うならさぞ楽しい余興なんだろうな? 楽しくなければその命で償え!」
余興ってなんだ? 魔王を楽しませるような事、俺には出来ないぞ!?
「勿論ですとも」
そう親父が魔王に返事をした後、小さな声で俺に呟く。
「任せなさい拓也。父さんだってなぁ、だてに社会人を30年も続けていないんだ! 必ず笑わせてみせる」
そう力強く話してくれた親父の口からは、やはりう○この匂いがした。
てかその自信どこからきてるんだ?
てかてか社会人はみんな余興というか一発ギャグみたいなものをもっているのか?
てかてかてか社会とは一体どんなところなんだー?
高校を卒業したばかりの俺には社会の仕組みなど皆目見当もつかなかった。
「ごちゃごちゃうるさい! ほら、さっさとやれ!」
大きな椅子に偉そうに片肘をついている魔王バドラー。
その目の前に立たされ余興をやらされる親父。
今俺が目の当たりにしているこの光景こそ社会の仕組みそのもので、多分これが俗に言う『パワハラ』なのだろう。
「バドラー様、音楽はお好きでしょうか?」と親父が唐突に質問した。
ん? 音楽? どしたの急に!?
「馬鹿にしているのか貴様! 好きに決まっているだろ! TATSUYAで毎週レンタルして聴いてるわ! ライブDVDだってよく観るしだなぁ」
おい魔王……。TATSUYAって人の名前やろ絶対!
「ば、馬鹿になどしておりません! 少し確認したかっただけですので。まぁでも良かった。音楽を嗜むのであればきっと喜んでくれるはずです! では、ミュージックスタートッ!」
親父の合図と共に洞窟には、あのお馴染みの音楽が流れ始めた。
そう、日曜日の夕方に聴くことが出来る、あの国民的アニメ『シャジャエしゃん』のエンディング曲が!
「なぁお前ら、今日で全国ツアーもラストなんだぞ! お前らの全力、まだまだ全然たんねぇよ。まだいけんだろ? まだいけんだろ埼玉スーパーア○ーナぁぁぁぁ!!! 全員で伝説残しまshow。put your hands up。最後の曲です。『どこにある? ここにある! アナール』」
お、親父が魔王を……否、オーディエンスを煽り始めた……。
しかもあんなにキャッチーでゆっくりした曲でだ!
もう何が起きているのか分からない……。
考えたくない……。
だけど、胸の高鳴りが抑えきれない。
体中に広がる熱いグルーヴ。
気付くと俺は両手を上げていた。そして魔王もリッキーも。
「はいっ♪ はいっ♪ はいっ♪ はいっ♪ アナ~ルでゴザ~ル~♪ …………ウギャッ」
一瞬の静寂の後、俺は上げていた手で親父の頬を全力で殴った。
胸の高鳴りを。熱いグルーヴを。日本国民が愛して止まないあの音楽を……馬鹿にしたことがどうしても許せなかった。
「そんなギャグで魔王が笑うわけないだろ! 音楽を馬鹿にするんじゃねぇクソ野郎!!! そして全国民に土下座しろ!」
「急に殴るなんて酷い奴だなぁ拓也は。まぁ仕方ない……謝るか。ゴホンゴホン、音楽を愛する皆様、そして全国民の皆様……本当にメンゴ! このワシのキレイなアナールに誓ってお詫び申しあげマッシュポテト!」
なぁ親父。俺現実世界に戻りたいんだぜ? たださぁ、親父という化け物を現実世界に戻してはいけない気がするんだ……。
俺と一緒に魔王に殺されよう。
うん。それが世界の平和の為なんだ。
あまりに下世話な謝罪。誠実さのカケラもないこの態度に私、拓也は息子として責任をとり、この世界で親父と心中する覚悟を決めました。
そして恐る恐る魔王を見る。
「さぁて、どんな死に方が希望かな?」
うわぁー完全に殺す目してるやーん!
目、血走ってるーん!
いざ死ぬとなるとやっぱ怖いわぁー!
あまりの恐怖に早速死ぬ覚悟が揺らいだ。とその時、再び親父が口を開く。
「やだなぁ魔王様~! さっきのはほんの冗談です。本番はこ・こ・か・ら! ですよ!」と甘えた仔犬のような声で話しかけた。
【魔王の洞窟。推奨レベル50】
「推奨レベル50って本当に大丈夫なのか?」
高過ぎる推奨レベルに不安な気持ちが募る。
「大丈夫大丈夫! 今は昼寝の時間だからよっぽどの事がない限り起きないよ! 戦う事はまずないわ!」
ここまでリッキーが言うならと、俺と親父は洞窟に足を踏み入れた。
洞窟の内部にはたいまつが所々に置かれていてそんなに暗い印象は無かった。
そして歩く事1分。魔王の目の前に到着した。
「グーグーグー」
大きな椅子に座りながら眠る魔王。
その姿は、成人男性の1.5倍くらいはある巨体で黒いローブに身を包んでいた。
ぱっと見、魔術師っぽいがこの巨体なら肉弾戦も相当強いはずだ。
寝ていながらも物凄い殺気が体中から溢れ出ている。
絶対に起こしてはいけない……。
「見て! 魔王の横に置いてあるあの装置が体外受精装置だよ!」
リッキーの指差した場所には、直径30センチほどの球体の装置が置いてあった。
「拓也! 魔王が寝ている今なら気付かれないで取れるかもしれないぞ!」
そう言って親父がそろぉりそろぉりと、狂言師のように体外受精装置の前まで足を運んだ。
すると次の瞬間。
「ゲホッゲホッ……くっさー! 何これくっさー!!」
ま、魔王が親父の臭さにむせて目を覚ましてしまった。親父の臭さとはリッキーの言うよっぽどの事に値したのだ。
鬼の形相で俺達を凝視する魔王。
推奨レベル50。絶体絶命だ……。
「我の眠りを妨げおって!! その愚行、私が魔王バドラーと知ってのことか! お前達、何者だ!」
完全に怒っている。もう言い逃れなんて出来ない……。
そう思って下を向いていると、
「眠りを妨げてしまった事、本当に申し訳ございません。私達は各地をまわっている旅芸人でございます。今日はバドラー様に貢ぎ物と言いますか、楽しい余興をお見せする為に参りました」
間一髪のところで親父が機転を利かせ魔王の怒りを鎮めた。
さすが社会人! よっ、見直したぞ部長!
「ほう? そこまで言うならさぞ楽しい余興なんだろうな? 楽しくなければその命で償え!」
余興ってなんだ? 魔王を楽しませるような事、俺には出来ないぞ!?
「勿論ですとも」
そう親父が魔王に返事をした後、小さな声で俺に呟く。
「任せなさい拓也。父さんだってなぁ、だてに社会人を30年も続けていないんだ! 必ず笑わせてみせる」
そう力強く話してくれた親父の口からは、やはりう○この匂いがした。
てかその自信どこからきてるんだ?
てかてか社会人はみんな余興というか一発ギャグみたいなものをもっているのか?
てかてかてか社会とは一体どんなところなんだー?
高校を卒業したばかりの俺には社会の仕組みなど皆目見当もつかなかった。
「ごちゃごちゃうるさい! ほら、さっさとやれ!」
大きな椅子に偉そうに片肘をついている魔王バドラー。
その目の前に立たされ余興をやらされる親父。
今俺が目の当たりにしているこの光景こそ社会の仕組みそのもので、多分これが俗に言う『パワハラ』なのだろう。
「バドラー様、音楽はお好きでしょうか?」と親父が唐突に質問した。
ん? 音楽? どしたの急に!?
「馬鹿にしているのか貴様! 好きに決まっているだろ! TATSUYAで毎週レンタルして聴いてるわ! ライブDVDだってよく観るしだなぁ」
おい魔王……。TATSUYAって人の名前やろ絶対!
「ば、馬鹿になどしておりません! 少し確認したかっただけですので。まぁでも良かった。音楽を嗜むのであればきっと喜んでくれるはずです! では、ミュージックスタートッ!」
親父の合図と共に洞窟には、あのお馴染みの音楽が流れ始めた。
そう、日曜日の夕方に聴くことが出来る、あの国民的アニメ『シャジャエしゃん』のエンディング曲が!
「なぁお前ら、今日で全国ツアーもラストなんだぞ! お前らの全力、まだまだ全然たんねぇよ。まだいけんだろ? まだいけんだろ埼玉スーパーア○ーナぁぁぁぁ!!! 全員で伝説残しまshow。put your hands up。最後の曲です。『どこにある? ここにある! アナール』」
お、親父が魔王を……否、オーディエンスを煽り始めた……。
しかもあんなにキャッチーでゆっくりした曲でだ!
もう何が起きているのか分からない……。
考えたくない……。
だけど、胸の高鳴りが抑えきれない。
体中に広がる熱いグルーヴ。
気付くと俺は両手を上げていた。そして魔王もリッキーも。
「はいっ♪ はいっ♪ はいっ♪ はいっ♪ アナ~ルでゴザ~ル~♪ …………ウギャッ」
一瞬の静寂の後、俺は上げていた手で親父の頬を全力で殴った。
胸の高鳴りを。熱いグルーヴを。日本国民が愛して止まないあの音楽を……馬鹿にしたことがどうしても許せなかった。
「そんなギャグで魔王が笑うわけないだろ! 音楽を馬鹿にするんじゃねぇクソ野郎!!! そして全国民に土下座しろ!」
「急に殴るなんて酷い奴だなぁ拓也は。まぁ仕方ない……謝るか。ゴホンゴホン、音楽を愛する皆様、そして全国民の皆様……本当にメンゴ! このワシのキレイなアナールに誓ってお詫び申しあげマッシュポテト!」
なぁ親父。俺現実世界に戻りたいんだぜ? たださぁ、親父という化け物を現実世界に戻してはいけない気がするんだ……。
俺と一緒に魔王に殺されよう。
うん。それが世界の平和の為なんだ。
あまりに下世話な謝罪。誠実さのカケラもないこの態度に私、拓也は息子として責任をとり、この世界で親父と心中する覚悟を決めました。
そして恐る恐る魔王を見る。
「さぁて、どんな死に方が希望かな?」
うわぁー完全に殺す目してるやーん!
目、血走ってるーん!
いざ死ぬとなるとやっぱ怖いわぁー!
あまりの恐怖に早速死ぬ覚悟が揺らいだ。とその時、再び親父が口を開く。
「やだなぁ魔王様~! さっきのはほんの冗談です。本番はこ・こ・か・ら! ですよ!」と甘えた仔犬のような声で話しかけた。
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