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14_歪の章_21
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ホテルへ向かい、一人歩くアナクス――
二輪バラを背負った黒ジャージ姿で町中を歩く。
恐れ慌て道を開け、端による人々。
その光景は、名うてのレディースのリーダーが街を闊歩しているかの様。
町の人々の反応は、ともすれば不快に思われ、機嫌を損ねかねない過剰反応ではあったが、アナクスは気にする素振りも見せず、ホテルへの帰路を歩き続けていた。
いつもの事だから気にしないのか、今日は「気にする余裕が無い」のか。
そもそもの原因は、先日のアナスの大立ち回りである。
不用意に外出して案の定、もめ事を起こした彼に、アナクスは遠回しに苦言を呈したのであるが、アナスも遠回しにではあるが苦言を素気無くあしらい、そこへ納得がいかないファティマも参戦し、朝からギクシャクしていたのであった。
(強き者との戦いを望んでいただけの、妾とヌシ……ヌシは、いつから暴君となりんした……)
純粋に競い合い、互いの力量を高め合っていた過去を思い起こすと、突如背後から、
「あのぉ」
聞き覚えのある声に呼び止められ振り返り、
「……男の子(おのこ)かぇ」
見知った顔に表情を少し緩めた。
「如何したでありんすぅ?」
「そ、その……少し「お話を」と……」
いつも通りの裏表を感じさせない笑顔で話の切り出し口を探り探りしていると、アナクスもいつも通りの妖艶な笑みに、悪戯っぽい笑みを交え、
「浮気でありんすかぇ?」
「違いまぁす!」
恥ずかし気に、赤い顔して否定するコーギー。
その初々しい反応に、アナクスは口元を隠して「コッコッコ」と笑い、
「冗談でありんすぅ。妾とて修羅場は望みませんぇ」
からかわれた事を理解したコーギーは赤い顔を、なお赤く染め、
(色恋沙汰を言われるのは、どうにも苦手ですねぇ)
戸惑いつつ、
「そのぉ……皆さんが、いつもと違う「先生」の様子を、心配されていて……」
(妾への気遣い?)
「差し出がましいとは思いましたが、皆さんには御用があるようでしたので、代わりに僕がお話でもと……」
言葉を丁寧に選ぶ様子から、門下の女性たちの胸中を感じたアナクスは、
(「妹たち(門下生の女性たち)」とは言え、妾と直に膝を並べるは、流石に怖いでありんしょう……)
気付かれない程の微かな、自嘲する様な笑みを口元に浮かべると、
「良きにありんすぇ。妾も気晴らしを欲していたでありんすぅ」
快諾。周囲で聞き耳を立てていた町の人々が軽くざわつく中、
「場所を変えましょうか、先生」
コーギーが「それとなく」の気遣いを見せたが、
「…………」
無言で、フイと横を向くアナクス。
「先生?」
「…………」
「先生、どうかしましたか?」
「御姉様でありんすぅ」
「へ?」
「妾の事は『御姉様』と呼ぶようにと言った筈でありんすぅ」
少しすねたように見せる横顔に、
「あはは……ブレませんねぇ」
コーギーが笑って見せると、本気で憤慨していた訳でもないアナクスも、フッと小さく笑い返した。
彼女なりにコーギーの緊張を解きほぐそうと気遣った、ユーモアである。
二輪バラを背負った黒ジャージ姿で町中を歩く。
恐れ慌て道を開け、端による人々。
その光景は、名うてのレディースのリーダーが街を闊歩しているかの様。
町の人々の反応は、ともすれば不快に思われ、機嫌を損ねかねない過剰反応ではあったが、アナクスは気にする素振りも見せず、ホテルへの帰路を歩き続けていた。
いつもの事だから気にしないのか、今日は「気にする余裕が無い」のか。
そもそもの原因は、先日のアナスの大立ち回りである。
不用意に外出して案の定、もめ事を起こした彼に、アナクスは遠回しに苦言を呈したのであるが、アナスも遠回しにではあるが苦言を素気無くあしらい、そこへ納得がいかないファティマも参戦し、朝からギクシャクしていたのであった。
(強き者との戦いを望んでいただけの、妾とヌシ……ヌシは、いつから暴君となりんした……)
純粋に競い合い、互いの力量を高め合っていた過去を思い起こすと、突如背後から、
「あのぉ」
聞き覚えのある声に呼び止められ振り返り、
「……男の子(おのこ)かぇ」
見知った顔に表情を少し緩めた。
「如何したでありんすぅ?」
「そ、その……少し「お話を」と……」
いつも通りの裏表を感じさせない笑顔で話の切り出し口を探り探りしていると、アナクスもいつも通りの妖艶な笑みに、悪戯っぽい笑みを交え、
「浮気でありんすかぇ?」
「違いまぁす!」
恥ずかし気に、赤い顔して否定するコーギー。
その初々しい反応に、アナクスは口元を隠して「コッコッコ」と笑い、
「冗談でありんすぅ。妾とて修羅場は望みませんぇ」
からかわれた事を理解したコーギーは赤い顔を、なお赤く染め、
(色恋沙汰を言われるのは、どうにも苦手ですねぇ)
戸惑いつつ、
「そのぉ……皆さんが、いつもと違う「先生」の様子を、心配されていて……」
(妾への気遣い?)
「差し出がましいとは思いましたが、皆さんには御用があるようでしたので、代わりに僕がお話でもと……」
言葉を丁寧に選ぶ様子から、門下の女性たちの胸中を感じたアナクスは、
(「妹たち(門下生の女性たち)」とは言え、妾と直に膝を並べるは、流石に怖いでありんしょう……)
気付かれない程の微かな、自嘲する様な笑みを口元に浮かべると、
「良きにありんすぇ。妾も気晴らしを欲していたでありんすぅ」
快諾。周囲で聞き耳を立てていた町の人々が軽くざわつく中、
「場所を変えましょうか、先生」
コーギーが「それとなく」の気遣いを見せたが、
「…………」
無言で、フイと横を向くアナクス。
「先生?」
「…………」
「先生、どうかしましたか?」
「御姉様でありんすぅ」
「へ?」
「妾の事は『御姉様』と呼ぶようにと言った筈でありんすぅ」
少しすねたように見せる横顔に、
「あはは……ブレませんねぇ」
コーギーが笑って見せると、本気で憤慨していた訳でもないアナクスも、フッと小さく笑い返した。
彼女なりにコーギーの緊張を解きほぐそうと気遣った、ユーモアである。
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