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14_歪の章_1
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育ての親の仇であるクローザーの女と、その女に命を救われたファティマ。
話しは、クローザーの男がファティマを殺傷しようとした事をきっかけに、二人の関係に新たな変化の兆しが見え始めた今より、少し前にさかのぼる―――
育ての親であったムスカムアの仇を取ろうと、クローザーの男女を言葉巧みに完全武装化された町へといざなうファティマ。
しかし計略は、強大なチカラを持った二人の前に頓挫。
それどころか多くの死傷者を生む結果を招き、ファティマは自身の浅はかさに愕然とする。
贖罪と称して、ケガを負ってしまった人々の治療の手伝いを始めるファティマ。
そして時を同じく、クローザーの女が「生きる術を身に付ける為」と称して、彼女に格闘戦などの修行を強制し始める。
医療行為と同時進行で、甘んじて修行を受けるファティマ。チカラを欲し、仇を取るチャンスを窺い、稽古に食らいつく。
稽古は一見すると虐待ともとれる厳しいモノであったが、周囲の人々の反感を招くどころか、乱世の世で「生きる術」を求めていた町の女性たちの心を動かし、一人、また一人と稽古に参加する様になり、クローザーの女とファティマの心の距離は、当人に自覚があるかは別として、町の人々と同様に徐々に近づき始めた。
クローザーの男がファティマを殺傷しようとした日の数日前―――
闇夜の暗がりに乗じ、修理工事中の足場を隠れ蓑に、警備兵の監視の目をかいくぐり、ファティマたちの居る町へ侵入する二つの人影。
建物の物陰に二人並んで身を潜め、
「武装された町と聞いておりましたのに、容易いモノでございましたですわねぇ」
フードで顔を隠した下から聞こえた声は、ヴァイオレット。
「入り口周辺の破損が酷かったですからね。クローザーとスティーラーが派手に暴れて荒らしてくれたお陰ですよ」
同じく、フードで顔を隠した下から聞こえたのはコーギー。
二人は、序列一位と二位を倒す為に造られたクローザーの男女が、同型のクローザーを破壊した信号を受信し、この地へやって来た。
無論、二人を破壊する為である。
元より「暴走スティーラーの破壊」以外に与えられていた任務ではあったが、憎しみを抱いていた兄や姉との融和を果たした現在、むしろ兄や姉、そしてその仲間たちを守る為の戦いと、主旨は変わっていた。
「これからどうするで、ございますですのぉ?」
「向こうはコチラの顔を知らないので近づくのは容易ですが、何より僕たちには、圧倒的に情報が足りません」
クローザーの男女の暴走を危惧していた先人たちは保険として、他のクローザー達にのみ、二人の顔などのパーソナルデータを記憶させ、「謀反を起こした」と判断された時には、共闘して事に当たるシステムを構築していた。
「ではまず『情報収集』、でございますですわねぇ?」
「ソレなんですが……」
「何か気がかりな点でも?」
「僕たちはよそ者です。知らない顔が色々尋ねて回っていると……」
町の人々に警戒されたり、下手をして動きが知られてしまう事を懸念すると、
「ですわねぇ」
ヴァイオレットも同意であるのか頷き、
「しばらくは遠巻きに静観する事になりますですわねぇ」
「止むを得ませんね」
「では、一先ずホテルを探しましょうでございますですわ」
その場に長居は無用とばかり、歩き始めたが、
「…………」
動かないコーギー。
いつもの作り笑顔のままではあったが、バツが悪そうに顔を背けた。
「?」
立ち止まって振り返るヴァイオレット。
「どうかしましたで、ございますですのぉ?」
(……が……ないん……です……)
蚊の鳴く様な囁きに、
「何でございますですのぉ?」
「ですから、無いんです」
「は??」
「この町で使える「お金」が無いんですよぉ!」
するとヴァイオレットは、そんな事かと言わんばかり、
「いつも通り換金すれば良いではございま……まさか手持ちの宝石などがぁ!?」
「それは大丈夫です」
その言葉にホッと胸を撫で下ろし、
「でしたらぁ、」
「換金所の場所が分かりません」
「え……? ならば道行くどなたかに……」
「こんな夜更けに、異国の容姿を持った僕たちが、銀行ではなく、換金所の場所を聞くんですか?」
世間一般論的に考え、怪しさ満載、不審者以外の何者でも無い行為に、
「…………」
思わず黙るヴァイオレット。
「少なくとも明日一日、町の様子を窺ってから動く方が無難です」
(……イヤですわぁ……)
「え!?」
「もぅイヤでございますですわぁ! 湯あみをしたいんでございますですのぉ! 何日入浴してないとお思いでございますですのぉ!」
「僕たちクローザーは皮脂汚れの心配は、」
「そぅ言うモンダイではございませんでございますですわぁ! レディーとしての「たしなみ」と言うモノでございますですのぉ! 意中の殿方の隣に、すすけた姿でいつまで居ないといけませんですのぉぉ~!」
ゴネ始めるヴァイオレットの声に「何だ何だ」と通行人たちがざわつき始め、
(こ、これはマズイですねぇ……)
コーギーは冷静を装いつつ、
「分かりましたからぁ。ホラ行きますよぉ!」
強引に手を引くと、
「お風呂に入りたいでございますですわぁぁあぁぁっぁぁぁ……」
泣き言の尾を引くヴァイオレットと共に、暗がりの奥へと姿を消して行った。
話しは、クローザーの男がファティマを殺傷しようとした事をきっかけに、二人の関係に新たな変化の兆しが見え始めた今より、少し前にさかのぼる―――
育ての親であったムスカムアの仇を取ろうと、クローザーの男女を言葉巧みに完全武装化された町へといざなうファティマ。
しかし計略は、強大なチカラを持った二人の前に頓挫。
それどころか多くの死傷者を生む結果を招き、ファティマは自身の浅はかさに愕然とする。
贖罪と称して、ケガを負ってしまった人々の治療の手伝いを始めるファティマ。
そして時を同じく、クローザーの女が「生きる術を身に付ける為」と称して、彼女に格闘戦などの修行を強制し始める。
医療行為と同時進行で、甘んじて修行を受けるファティマ。チカラを欲し、仇を取るチャンスを窺い、稽古に食らいつく。
稽古は一見すると虐待ともとれる厳しいモノであったが、周囲の人々の反感を招くどころか、乱世の世で「生きる術」を求めていた町の女性たちの心を動かし、一人、また一人と稽古に参加する様になり、クローザーの女とファティマの心の距離は、当人に自覚があるかは別として、町の人々と同様に徐々に近づき始めた。
クローザーの男がファティマを殺傷しようとした日の数日前―――
闇夜の暗がりに乗じ、修理工事中の足場を隠れ蓑に、警備兵の監視の目をかいくぐり、ファティマたちの居る町へ侵入する二つの人影。
建物の物陰に二人並んで身を潜め、
「武装された町と聞いておりましたのに、容易いモノでございましたですわねぇ」
フードで顔を隠した下から聞こえた声は、ヴァイオレット。
「入り口周辺の破損が酷かったですからね。クローザーとスティーラーが派手に暴れて荒らしてくれたお陰ですよ」
同じく、フードで顔を隠した下から聞こえたのはコーギー。
二人は、序列一位と二位を倒す為に造られたクローザーの男女が、同型のクローザーを破壊した信号を受信し、この地へやって来た。
無論、二人を破壊する為である。
元より「暴走スティーラーの破壊」以外に与えられていた任務ではあったが、憎しみを抱いていた兄や姉との融和を果たした現在、むしろ兄や姉、そしてその仲間たちを守る為の戦いと、主旨は変わっていた。
「これからどうするで、ございますですのぉ?」
「向こうはコチラの顔を知らないので近づくのは容易ですが、何より僕たちには、圧倒的に情報が足りません」
クローザーの男女の暴走を危惧していた先人たちは保険として、他のクローザー達にのみ、二人の顔などのパーソナルデータを記憶させ、「謀反を起こした」と判断された時には、共闘して事に当たるシステムを構築していた。
「ではまず『情報収集』、でございますですわねぇ?」
「ソレなんですが……」
「何か気がかりな点でも?」
「僕たちはよそ者です。知らない顔が色々尋ねて回っていると……」
町の人々に警戒されたり、下手をして動きが知られてしまう事を懸念すると、
「ですわねぇ」
ヴァイオレットも同意であるのか頷き、
「しばらくは遠巻きに静観する事になりますですわねぇ」
「止むを得ませんね」
「では、一先ずホテルを探しましょうでございますですわ」
その場に長居は無用とばかり、歩き始めたが、
「…………」
動かないコーギー。
いつもの作り笑顔のままではあったが、バツが悪そうに顔を背けた。
「?」
立ち止まって振り返るヴァイオレット。
「どうかしましたで、ございますですのぉ?」
(……が……ないん……です……)
蚊の鳴く様な囁きに、
「何でございますですのぉ?」
「ですから、無いんです」
「は??」
「この町で使える「お金」が無いんですよぉ!」
するとヴァイオレットは、そんな事かと言わんばかり、
「いつも通り換金すれば良いではございま……まさか手持ちの宝石などがぁ!?」
「それは大丈夫です」
その言葉にホッと胸を撫で下ろし、
「でしたらぁ、」
「換金所の場所が分かりません」
「え……? ならば道行くどなたかに……」
「こんな夜更けに、異国の容姿を持った僕たちが、銀行ではなく、換金所の場所を聞くんですか?」
世間一般論的に考え、怪しさ満載、不審者以外の何者でも無い行為に、
「…………」
思わず黙るヴァイオレット。
「少なくとも明日一日、町の様子を窺ってから動く方が無難です」
(……イヤですわぁ……)
「え!?」
「もぅイヤでございますですわぁ! 湯あみをしたいんでございますですのぉ! 何日入浴してないとお思いでございますですのぉ!」
「僕たちクローザーは皮脂汚れの心配は、」
「そぅ言うモンダイではございませんでございますですわぁ! レディーとしての「たしなみ」と言うモノでございますですのぉ! 意中の殿方の隣に、すすけた姿でいつまで居ないといけませんですのぉぉ~!」
ゴネ始めるヴァイオレットの声に「何だ何だ」と通行人たちがざわつき始め、
(こ、これはマズイですねぇ……)
コーギーは冷静を装いつつ、
「分かりましたからぁ。ホラ行きますよぉ!」
強引に手を引くと、
「お風呂に入りたいでございますですわぁぁあぁぁっぁぁぁ……」
泣き言の尾を引くヴァイオレットと共に、暗がりの奥へと姿を消して行った。
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