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13_流転の章_47
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ホテルの近くにある公園にやって来た二人―――
「いつもの様に「体ほぐし」からでありんす」
クローザーの女は手首、足首、腰などをフリフリ揺すり、体中の可動部に潤滑液を染み出させる様な動きをすると、ファティマも後に続いた。
稽古の内容は「体ほぐし」から始まり、指導組手、筋力強化トレーニングと続き、柔軟で締め。
二週間ほど前、急に「稽古をつけるでありんす」と言いだされ、ムスカムアの仇を取るチャンスを窺う為にも快諾したファティマではあったが、本格的な稽古前に行うこの時間(体ほぐし)だけは、未だに慣れる事が出来なかった。
周囲に親子連れなど来園者たちの目が普通にある中、
(は、ハズカシイなぉぅ……)
幼いながらも恥じらいを覚えていたが、動きを止める事は出来なかった。何故なら動きを止めようものならすかさず、
『町がどうなっても良いでありんすかぁ?』
妖艶な笑みと共に女の一声が、耳元で囁かれるから。
一分一秒がやたらと長く感じ、
(はやくおわりたいなぉぅ)
恥ずかしさを必死に堪えていると、
「良いでありんすぇ」
その一声で羞恥心から解放され、ホッとするファティマ。
しかし次に待っているのはクローザーの女を相手にした組手であり、稽古の指導を買って出た彼女が手柔らかな筈も無く、
ファティマが「エイッ」と突きを出せば、女は「狙いが甘い!」と容赦なく払いのけ、小さな体に一撃。むろん途方もなく手加減した一撃ではあるが、ファティマにとっては強烈な一撃。苦痛に顔を歪めると、
「体の造りは敵も同じでありんす! 痛む部位を体で覚え、そこに有効打を打ち込むでありんす!」
「なぉぅ!」
歯を食いしばり、再び殴り掛かるも、
「狙っている部位を睨んでは、次の一手がバレバレでありんすぇ!」
手厳しい指導は続き、やがてダッシュなどの筋力強化へと移り、ヘトヘトになった頃、汗一つかいていない女が妖艶な笑みを浮かべ、
「柔軟の時間ぇ」
「なぉぅ……」
カリキュラムの最後だと言うのに浮かない表情のファティマ。
理由は簡単。幼さゆえの柔軟性を持ち合わせない彼女の体は、異様に硬かったから。
「いっ、イタイなぉぅうぅぅ」
開脚状態の背に腰掛けられ、苦悶の表情を浮かべるファティマに、
「これもファティ坊の為でありんすぅ。しっかり息を吐きんすぇ」
愛情を以っての指導である事をアピールする女であったが、その表情は言葉とは裏腹に、性癖的悦びを感じている様な緩んだ笑顔。
やがて稽古が一通り終わると……そこには真っ白に燃え尽きたファティマが横たわっていた。
一方、ファティマ成分を十二分に補充出来た女は艶々した笑顔で、
「今日はここまでにしんしょう」
立ち上がったが、ふと、いつもと違う周囲の雰囲気に気付き、
「なにやら視線が熱いでありんすなぁ……」
周りを見回した。
打掛を羽織って稽古してナマ足をチラつかせる姿に、男性陣が遠巻きに熱視線を送る事は毎度の事であったが、今日はむしろ女性陣からの視線を強く感じ、
(なんでありんしょう?)
さほど深刻に受け止めている訳ではなく、不思議そうにしていると、足元に転がる「灰と化したファティマ」と同じくらいの女子達が意を決した様に駆け寄って来て、
「「「「「せんせぇ! ワタシタチにもタタカイカタをおしえてぇ!」」」」」
「!?」
その様子を遠巻きに窺っていた女性たちも。
意外な展開に少々面を食う女であったが、
「妾の事が怖くはないでありんすかぇ? 妾はあの男と同じ……」
言いかけた言葉は、向けられた真剣な眼差しに愚問である事を悟った。
「…………」
(なるほどのぉ……か様な乱世、弱きオナゴは泣き寝入るしかありんせんか……)
女性たちの「強くありたい」と願う胸中を察し、
「良いでありんしょう! 泣いて寝入るは、今日までにしんしょう!」
「「「「「「「「「「ッ!」」」」」」」」」」
女性たちがパッと笑顔を弾けさせると、
「今より妾の事は『御姉様』と呼ぶでありんすぅ!」
「「「「「「「「「「ハイッ! 御姉様ぁ!」」」」」」」」」」
霧雲が晴れた様な返事を返し、
「うんうん、良きにありんすぅ」
女は満足げな笑顔で頷いた。
そんな彼女たちのやり取りを、うつ伏せたまま、
「なんなぉぅ、このチャバン……」
呆れ顔で見上げるファティマ。
「いつもの様に「体ほぐし」からでありんす」
クローザーの女は手首、足首、腰などをフリフリ揺すり、体中の可動部に潤滑液を染み出させる様な動きをすると、ファティマも後に続いた。
稽古の内容は「体ほぐし」から始まり、指導組手、筋力強化トレーニングと続き、柔軟で締め。
二週間ほど前、急に「稽古をつけるでありんす」と言いだされ、ムスカムアの仇を取るチャンスを窺う為にも快諾したファティマではあったが、本格的な稽古前に行うこの時間(体ほぐし)だけは、未だに慣れる事が出来なかった。
周囲に親子連れなど来園者たちの目が普通にある中、
(は、ハズカシイなぉぅ……)
幼いながらも恥じらいを覚えていたが、動きを止める事は出来なかった。何故なら動きを止めようものならすかさず、
『町がどうなっても良いでありんすかぁ?』
妖艶な笑みと共に女の一声が、耳元で囁かれるから。
一分一秒がやたらと長く感じ、
(はやくおわりたいなぉぅ)
恥ずかしさを必死に堪えていると、
「良いでありんすぇ」
その一声で羞恥心から解放され、ホッとするファティマ。
しかし次に待っているのはクローザーの女を相手にした組手であり、稽古の指導を買って出た彼女が手柔らかな筈も無く、
ファティマが「エイッ」と突きを出せば、女は「狙いが甘い!」と容赦なく払いのけ、小さな体に一撃。むろん途方もなく手加減した一撃ではあるが、ファティマにとっては強烈な一撃。苦痛に顔を歪めると、
「体の造りは敵も同じでありんす! 痛む部位を体で覚え、そこに有効打を打ち込むでありんす!」
「なぉぅ!」
歯を食いしばり、再び殴り掛かるも、
「狙っている部位を睨んでは、次の一手がバレバレでありんすぇ!」
手厳しい指導は続き、やがてダッシュなどの筋力強化へと移り、ヘトヘトになった頃、汗一つかいていない女が妖艶な笑みを浮かべ、
「柔軟の時間ぇ」
「なぉぅ……」
カリキュラムの最後だと言うのに浮かない表情のファティマ。
理由は簡単。幼さゆえの柔軟性を持ち合わせない彼女の体は、異様に硬かったから。
「いっ、イタイなぉぅうぅぅ」
開脚状態の背に腰掛けられ、苦悶の表情を浮かべるファティマに、
「これもファティ坊の為でありんすぅ。しっかり息を吐きんすぇ」
愛情を以っての指導である事をアピールする女であったが、その表情は言葉とは裏腹に、性癖的悦びを感じている様な緩んだ笑顔。
やがて稽古が一通り終わると……そこには真っ白に燃え尽きたファティマが横たわっていた。
一方、ファティマ成分を十二分に補充出来た女は艶々した笑顔で、
「今日はここまでにしんしょう」
立ち上がったが、ふと、いつもと違う周囲の雰囲気に気付き、
「なにやら視線が熱いでありんすなぁ……」
周りを見回した。
打掛を羽織って稽古してナマ足をチラつかせる姿に、男性陣が遠巻きに熱視線を送る事は毎度の事であったが、今日はむしろ女性陣からの視線を強く感じ、
(なんでありんしょう?)
さほど深刻に受け止めている訳ではなく、不思議そうにしていると、足元に転がる「灰と化したファティマ」と同じくらいの女子達が意を決した様に駆け寄って来て、
「「「「「せんせぇ! ワタシタチにもタタカイカタをおしえてぇ!」」」」」
「!?」
その様子を遠巻きに窺っていた女性たちも。
意外な展開に少々面を食う女であったが、
「妾の事が怖くはないでありんすかぇ? 妾はあの男と同じ……」
言いかけた言葉は、向けられた真剣な眼差しに愚問である事を悟った。
「…………」
(なるほどのぉ……か様な乱世、弱きオナゴは泣き寝入るしかありんせんか……)
女性たちの「強くありたい」と願う胸中を察し、
「良いでありんしょう! 泣いて寝入るは、今日までにしんしょう!」
「「「「「「「「「「ッ!」」」」」」」」」」
女性たちがパッと笑顔を弾けさせると、
「今より妾の事は『御姉様』と呼ぶでありんすぅ!」
「「「「「「「「「「ハイッ! 御姉様ぁ!」」」」」」」」」」
霧雲が晴れた様な返事を返し、
「うんうん、良きにありんすぅ」
女は満足げな笑顔で頷いた。
そんな彼女たちのやり取りを、うつ伏せたまま、
「なんなぉぅ、このチャバン……」
呆れ顔で見上げるファティマ。
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