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13_流転の章_38
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村から十分距離を取り、対峙する二人―――
さほど緊張感も無く向かい合い、
「先ずは素手での一勝負でござるぅ!」
「良いでありんすぇ」
何となくで始まった稽古試合は、稽古と呼ぶには不適当であった。
男が軽く右拳を突き出せば激しい砂塵が舞い上がり、女が軽くいなせば、よけた砂の地面に大穴が開く。遠目で見れば、銃弾爆撃炸裂する真ん中で格闘戦を繰り広げている様相と化し、戦いは激しく、周りの被害が拡大するのにつれ二人も徐々にヒートアップ。
互いに満面の笑顔で拳を撃ってはかわして撃ち返し、
「楽しいぞ! 楽しいでござるぅぅぅうぅうぅ!」
「良いでありんす! 良いでありんすぅ! もっと激しくぅうぅぅぅうぅ!」
一つ間違えば即死モノであろうはずの格闘戦を存分に楽しむ中、激しい爆発音と地響きに、
「う……うぅん……」
ファティマは目を覚まし、
(なんなぉぅ……)
変わらず体を動かす事は出来なかったが、
「なぉぅ!?」
まるで爆撃機が無差別に爆弾を投下しているかの様な音と振動に驚き、飛び起きようとした。
「イタイなぉぅ!」
全身を駆け巡る激しい痛み。
しかし痛みを感じると言う事は「生きている証」でもあり、
(ナニがおきてるのか、みるなぉぅ!)
ファティマは使命感の様な物に駆られ、先ずは痛む体の中で動かせる場所を探してみた。
指先、手首、肘と一ヶ所ずつ、動くかどうか慎重に確認し、首から上と膝から下は動かせる事が分かった。クローザーの女の「傷口が開かない様に」との配慮からであったかも知れないが、ムスカムアを失って間もないファティマにそこまでの考えを巡らせる余裕はなく、
「いけるなぉぅ!」
意を決すると、仰向けのまま両足の踵と後頭部を使い、ひっくり返った尺取虫の様にテントから這い出た。上半身が固定されている為か、思いのほか痛みは少なかったが、両足で歩けば何の苦も無く乗り越えられる小さな丘さえ、今の彼女にとっては断崖絶壁。
「(傷が)イタむなぉぅ……(砂が)熱いなぉぅ……」
それでも進みは止めなかった。今は亡きムスカムアに代わり、見届けなければいけない気がしたから。
緩やかな勾配を、亀の歩みの如き速度で這い上がり、
「あとすこしなぉぅ……」
頂上に辿り着いた彼女が目にした物は、
「セカイのおわり……なぉぅ……」
無数の隕石でも落ちたかのように、砂漠の大地はいたる所にクレーターが出来あがり、戻り始めた砂が流砂を作って激しい渦を巻き、地球上とは思えない光景を作り出し、その様な大地の真ん中で、二人は満面の笑みを浮かべて肉弾戦を繰り広げていたのであった。
さほど緊張感も無く向かい合い、
「先ずは素手での一勝負でござるぅ!」
「良いでありんすぇ」
何となくで始まった稽古試合は、稽古と呼ぶには不適当であった。
男が軽く右拳を突き出せば激しい砂塵が舞い上がり、女が軽くいなせば、よけた砂の地面に大穴が開く。遠目で見れば、銃弾爆撃炸裂する真ん中で格闘戦を繰り広げている様相と化し、戦いは激しく、周りの被害が拡大するのにつれ二人も徐々にヒートアップ。
互いに満面の笑顔で拳を撃ってはかわして撃ち返し、
「楽しいぞ! 楽しいでござるぅぅぅうぅうぅ!」
「良いでありんす! 良いでありんすぅ! もっと激しくぅうぅぅぅうぅ!」
一つ間違えば即死モノであろうはずの格闘戦を存分に楽しむ中、激しい爆発音と地響きに、
「う……うぅん……」
ファティマは目を覚まし、
(なんなぉぅ……)
変わらず体を動かす事は出来なかったが、
「なぉぅ!?」
まるで爆撃機が無差別に爆弾を投下しているかの様な音と振動に驚き、飛び起きようとした。
「イタイなぉぅ!」
全身を駆け巡る激しい痛み。
しかし痛みを感じると言う事は「生きている証」でもあり、
(ナニがおきてるのか、みるなぉぅ!)
ファティマは使命感の様な物に駆られ、先ずは痛む体の中で動かせる場所を探してみた。
指先、手首、肘と一ヶ所ずつ、動くかどうか慎重に確認し、首から上と膝から下は動かせる事が分かった。クローザーの女の「傷口が開かない様に」との配慮からであったかも知れないが、ムスカムアを失って間もないファティマにそこまでの考えを巡らせる余裕はなく、
「いけるなぉぅ!」
意を決すると、仰向けのまま両足の踵と後頭部を使い、ひっくり返った尺取虫の様にテントから這い出た。上半身が固定されている為か、思いのほか痛みは少なかったが、両足で歩けば何の苦も無く乗り越えられる小さな丘さえ、今の彼女にとっては断崖絶壁。
「(傷が)イタむなぉぅ……(砂が)熱いなぉぅ……」
それでも進みは止めなかった。今は亡きムスカムアに代わり、見届けなければいけない気がしたから。
緩やかな勾配を、亀の歩みの如き速度で這い上がり、
「あとすこしなぉぅ……」
頂上に辿り着いた彼女が目にした物は、
「セカイのおわり……なぉぅ……」
無数の隕石でも落ちたかのように、砂漠の大地はいたる所にクレーターが出来あがり、戻り始めた砂が流砂を作って激しい渦を巻き、地球上とは思えない光景を作り出し、その様な大地の真ん中で、二人は満面の笑みを浮かべて肉弾戦を繰り広げていたのであった。
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