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青木 森

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13_流転の章_24

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 廊下の奥の部屋からはメイド達も飛び出して来て、鉢合わせた二組が部屋に飛び込むと、窓が枠ごと派手に壊されカーテンが夜風になびき、部屋の片隅には怯え切った表情した少女たちが一塊になり震えていた。
「どうした!?」
「何があった!」
 血相を変えて詰める修道士たちに、少女たちは震える唇で、
「き、キョウきたコが、いっしょににげようってぇ!」
「イヤだっていったら、おこってイスをふりまわしてきたの!」
「なんだと!」
 部屋を見回すが、彼女の姿だけ見当たらない。
「何処へ行った!」
 怒鳴る修道士に、怯えた表情の少女たちは震える指先で割られた窓を指差し、
「ここは三階よぉ!?」
 メイド達が駆け寄ると、
「!」
 タオルケットやシーツを繋いで縄とした物が、窓枠から地面に向かって降ろされていた。
「手の込んだ事をしやがってぇ!」
 毒づく女性。メイドとは思えない素が露呈する。
 しかしその様な事を気にしている場合ではなく、
「ボスが居ない間に「あのガキ(高値で売れるはずのガキ)」に逃げられたと知れたら、アタシ等の身がヤバイわよ!」
「どうすんのさぁ!」
 我が身可愛さに、青い顔して取り乱すと、
「所詮はガキの浅知恵だ! まだ遠くには行ってねぇ筈だ!」
「そうだな! ボスが戻るまでに総出で探すんだ!」
 本来のガラの悪さを隠す余裕もなくなった修道士風とメイド風の男女たちは、血相を変えて部屋から飛び出していった。
 やがて慌ただしい足音は遠ざかり、部屋に静寂が戻ると、
「みんな、ありがとうなぉぅ」
 ベッドの下の暗がりの中から、逃げた筈の少女が埃まみれの姿で這い出て来た。
「これでよかったの?」
「ほんとうに、ヒトリでいくの?」
「カワイイふくとか、おいしいゴハンがマイニチたべられるんだよ?」
 不思議そうな顔で引き留める少女たちに、静かに首を横に振って答え、
「……みんな……ゲンキでなぉぅ……」
 涙ながらに別れを告げ、部屋から駆け出した。これから彼女たちを待ち受ける過酷な現実を思うと、それしか掛ける言葉が見つからなかった。
 周囲を警戒しながら廊下を駆け抜け、
(カミサマぁ! どぅか、どぅかみんなが、すこしでもイイヒトにかってもらえますようにぃ!)
 夜闇に姿を消して行った。
「「「「「「「…………」」」」」」」
 不思議そうな顔を見合わせ見送る少女たち。
 何故に彼女はそうまでして目の前に提示された「良い暮らし」を捨て、「路上生活」を選ぶのか理解出来ずにいたが、欲望と言う名の人の悪意に追い立てられた経験のなかった彼女たちは、やがてその身を以って知る事となる。なぜ彼女が、あれほど逃走を促したのか、その意味を、そして人の持つ狂気の恐ろしさを。
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