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青木 森

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13_流転の章_13

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 初めての村を出て数年後―――
 ムスカムアは終わりのない、贖罪と言う名の「医療の旅」を続けていた。
 次なる町や村を求め、砂嵐が吹きすさぶ中を黙々と歩き、
(今日はまた一段と酷いですねぇ)
 数メートル先も見えない状況に当惑しつつ、物ともせずに歩き続ける。普通の人間であれば前後左右が分からなくなり、歩き難い砂地には体力を奪われ、遭難必死であるが。
 そんな中、彼は砂に埋もれかけた大きな麻袋に遭遇した。俗に言う「行き倒れ」である。
 うつ伏せに倒れ、性別は分からないものの、体格から推察して子供の様ではある。
 様々な理由で逃げ場を求めているうちに砂漠地帯に迷い込み、そのまま行き倒れとなってしまうケースはしばしば見受けられる「過酷な時代」ではあったが、子供一人は珍しく、
(このような場所に子供の死体? ブービートラップでしょうか?)
 死体に爆弾を括りつけ、助けに来た人ごと爆破する、人の良心を逆手に取った非人道的罠を警戒しつつ、一先ず生死を確認する為に、その辺に転がっていた枯れ枝でツンツン突いてみた。
「う、うぅ……」
 微かな呻き声を上げる。
(生きてはいるようですね)
 すると奇しくも砂嵐は収まり、砂漠は落ち着きを取り戻し始め、
「過ぎましたかぁ」
 ムスカムアは青空を仰ぐと、カバンからパンを一つ取り出し、麻袋の顔らしき部分に差し出し、
「食べなさい」
 言い終わるが先か、麻袋はガバッと起き上がり大口を開けてパンに一口齧りついたが、ハッと何かに気付いたように動きを止め、慌てた様子でペッと吐き出した。
「?」
(口に合わなかったんでしょうか?)
 不思議そうに麻袋を見つめていると、麻袋は体をゴソゴソと動かし、自身の体に異変が起きていないか確認している様であった。
(なるほど、そう言う事ですか)
 吐き出した理由に合点がいくムスカムアは平静な口調で淡々と、
「毒や眠り薬などは入っていません。安心してゆっくりお食べなさい」
 その言葉に、麻袋はよほど空腹であったのか、早食い競争の様な勢いで食べ始め、
「急いで食べては体に悪いですよ。パンならまだあります」
 落ち着かせる為に、もう一つカバンから取り出して見せると、食べ終わる前にも関わらず、麻袋はムスカムアの手からパンをむしり取り、両手に持った状態で食べ続けた。
(余ほど空腹だった様ですね)
 淡々と、状況分析でもするかの様に見つめるムスカムア。
 麻袋から伸びる手足は小さく、肌ツヤから推察して幼児である事は容易に想像出来たが、頭の天辺からスッポリ麻袋を被り、背筋を過剰に丸めている上に、一言も声を発しない為、男児であるか、女児であるかは分からなかった。
 そんな中、一陣の強い風が二人の下を駆け抜けた。
 フードが剥がされ、露わになる麻袋の素顔。
(小麦色の肌に、透き通るような青い瞳、そして黒のストレートショートヘア……)
 意外な容姿にムスカムアが少し驚く中、麻袋の少女は慌ててフードを被り直し、頭を両手で抱え込み、小さい体を尚一層小さく縮めて怯え、カタカタと震え始めた。
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