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青木 森

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13_流転の章_6

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 数日後―――
 長旅の疲れ出たのか、少女は熱を出して寝込んだ。
「ご、ごめんなさい……シショー……」
 少し赤らんだ「熱っぽい顔」をした少女が、申し訳なさげに医師を見上げると、
「気にする事はありません。私の旅は急ぐモノではありませんし、終わりのない旅です」
「ごめんなさ……」
「今は体を休める事に集中しなさい」
「はい、なぉぅ…………」
 寝かしつけはしたが、ここはサバンナのど真ん中。風を遮る壁も無ければ、日差しを遮る屋根も無い。
(これでは体を休めるどころではありませんね)
 医師は黙考し、
(そう言えば、近くに大きな町があったような……)
 リュックから地図を取り出すと、周囲を見回し、
(向こう側のようですね)
 一点を見つめると荷物を背負い、
「少しのあいだ辛抱して下さい」
 少女を毛布で蓑虫状に巻くと、軽々お姫様抱っこ。
 地図に見つけた町を目指し、少女を揺さぶらない様に気を配りつつも、まるで手ぶらの様な軽い足取りで歩き始めた。

 数時間後―――
 少女を抱きかかえた医師は数十キロと言う道のりを、姿勢を崩さず、休憩もとらず、疲れた様子さえ見せずに歩き続けていた。
かつて警備兵により厳重に守られていた国境を、易々と通り過ぎる医師。
 『国境』など、もはや地図上にしか存在しない。その様な物を守っている余力があったら、町の守りを強化する事こそ重要であり、必須であった。しかしそれはアフリカに限った話ではない。地球上の総人口は、それほどまでに減少していた。
 そして辿り着いた目当ての町は、数百人規模の野盗集団と交戦中であった。が、その戦いは「交戦」と言って良いか、微妙な様相を呈していた。
 籠城戦を展開する町に対し、野盗たちは町の内と外を隔てる高い塀に、辿り着く事さえ出来ずにいた。近づこうモノなら塀の上から潤沢な量の銃弾が容赦なく、雨、霰と降り注ぎ、攻めるたびに死傷者ばかりが増え、攻めあぐねていたのである。
 強固な塀と武器で固められたこの町は、軍事産業を主軸に栄えた町であり、今も海上交易により外貨を稼ぎ、武器、衣、食、とも尽きる事は無く、弾道ミサイルでも持ち出さない限り難攻不落な、籠城戦において最強の町であった。
「クソがァ!」
 悪態を吐く野盗たちのリーダー。意を決して敢行した「大人数による攻め落とし」があっさり弾き返され、苛立ち露わにしていると、
「ボス! ヘンなのがいまずぜぇ!」
 手下の一人が、戦場を指差した。
「?」
 そこには、銃弾飛び交う中を悠然と歩く一人の男の姿が。
 病床に伏す少女を抱きかかえた医師である。
「(長引く戦争で)気でもフレやがったんだろォ! 死にたがりは放っておけぇ!」
 素気無く言い放つ野盗のリーダー。対して町を守る「塀の上の兵士たち」は、無防備に、無作為的に近づいて来る男に薄気味悪さを感じ、
「また近づいて来るヤツがいるぞォ!」
「撃てぇ撃てぇーーー!」
 血気に逸り自動小銃を乱射したが、少女を抱えた医師には当たらなかった。
「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」
 おののく兵士たちと、攻めあぐねていた野盗たち。
 銃弾は当たらなかったのではない。当てられなかったのである。
 何事も起きていないかの様に、悠然と町へ向かって歩き続ける医師。その身は、青いフィールドに包まれていた。
 彼は『アフリカ大陸のスティーラー』であった。
 銃弾をモノともしない(野盗たちにとっての)救世主の登場に、野盗たちは調子づき、
「ヤツの後に続けぇーーーーーー!」
 医師を盾代わりに町へ迫った。
 塀の上の兵士たちは「銃が効かない」などと言う常識外れの人間の登場に動揺、精神的に追い込まれ、
「バケモノがァ!」
「撃てぇ撃てぇ! 撃ち続けるんだぁ!」
「門に近づけさせるなぁ!」
 医師の後に続く野盗たちへの攻撃も忘れ、「この男さえ倒せば」と思い込み、医師にばかりに攻撃を集中させたが、艦砲射撃の砲弾すら弾くスティーラーの「青いフィールド」に包まれた医師が、手持ちの豆鉄砲ごときで倒れる筈もない。
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