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青木 森

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12.胎動の章_18

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 数日後―――
 ガルシアサード上甲板で体育座りをして空を見上げ、何事か考えるエラと、そんな彼女を艦橋の出入り口から不安げに見つめるジゼとナヤス。
 するとジゼが意を決し、
「(能天気な)私はシリアスなのキャラじゃないから、ナヤスお願い! 様子を見に行って来てぇ!」
 拝んだものの、
「ウッチだって無理でぇす! 空気が読めたら、遥か昔に嫁に行ってまぁす! ジゼこそ、その明るさでぇ!」
 どっちが様子を窺いに行くかでモメていると、声が聞こえたのか聞こえていないのか、エラがスクッと立ち上がった。
((!))
 しかもこちらにクルリと向きを変え、
((ひゃあぁぁぁああぁ、こっちに来るぅうぅぅぅぅ!))
 大いに慌てる二人。今更隠れる場所などなく、その場で慌てふためいていると、
「どうかしたんですか?」
 二人の不安をよそに、一見するといつも通り。
 しかし先程までの姿を目撃していた二人は顔を見合わせ頷き合うと、
「何か悩み事ぉ!?」
「悩み事ならお聞きします!」
 詰め寄ったが、エラはあっけらかんと、
「その事でしたら、答えはもぅ出ました。ご心配お掛けしたみたいですね」
「「……?」」
「では、私はこれから人と会わないといけないのでぇ」
 笑顔を残し、艦内の奥へと消えて行った。
「放っておけないよねぇ……?」
「当然です!」
 再び頷き合い、エラの後を追った。向かった先は調査班ブース。
 エラは部屋に入るなり、
「陛下ぁ!」
 テーブルを囲む椅子に座るマリアの傍らに立った。
 少し硬い物言いに、
「ふふふふ。元、ですわぁ」
 マリアは、そっと本を閉じ、
「どうしましたのぉ? 初めて会った時の様な、緊張した声をしてますわよぉ」
 微笑みと共に顔を見上げたが、エラはいつになく真剣な表情を緩める事無く、何かしらの決意を持ってジッと見つめていた。
 その様子から、同席していたヤマトは不安を感じ、場を少しでも和まそうと、
「珍しく真剣だなぁ。雨でも降るんじゃないのかぁ?」
 ジャックもノリに乗っかり、
「果たし合いにでも来たのかぁ、男オンナぁ。立ち合いが必要なら、俺がやってやるぜぇ。何なら手を、」
 からかう様な笑みを浮かべたが、エラはマリアを見据えたまま、微動だにしなかった。周囲の気遣いを耳に入れる余裕さえ、今の彼女には無かったのである。
 エラは腹を括る様に、ゴクリと一息飲み込み、
「私と一緒に、オーストラリアに戻って下さァい!」
「な!?」
 この熱願には、流石のマリアも驚いた。その場にいたヤマト、ジャック、シャーロット、ブレイクは当然のこと、後を追い、駆けつけたジゼとナヤスも。
「…………」
 あまりに唐突な申し出に頭の中の整理が追い付かず、無言でエラを見上げるマリア。心の何処かに、その様な思いが無かったとは言はないが、片隅に秘めた思いを観衆の前に曝け出された感覚に陥り、絶句したのである。
「国は今、タカ派が優勢を強め、「世界秩序を守る為」を大義名分に、徐々に、それでいて確実に、侵略戦争へと傾倒しています! 歯止めとなる人が必要なんです! お願いします、陛下ァ!」
 国を思い、必死に訴えかける姿に、
(チッ! 余計な事を!)
 密やかに舌打ちするジャック。心揺れ惑うマリアを追い詰めないよう、あえてその事に触れずに来たのだが、エラがえぐり出した事で、そうも言っていられなくなり、
「コイツを見限ったのは他の誰でもねぇ、オメェ等じゃねぇか! それを、旗色が悪くなったから「救え」たぁ、虫が良過ぎじゃねぇか! コイツがどれほど悩んだと思ってやがる! 都合のイイ事言って、今更惑わせてんじゃねぇ!」
 自分の事のように憤慨し、喚き散らす様に言い放った。
 自らの言葉でハッキリと、見守っている事を公言する姿に、
(ジャック……)
マリアは微かな喜びを口元に浮かべたが、
「確かにエラの言う通り、歯止めになる人物は必要ですわぁ」
「「!」」
 二者二様の驚きを見せ、
「それじゃ!」
「マリア! てめぇ!」
 エラがパッと笑顔になる一方、裏切られてなお義理立てするセリフに、ジャックが怒りを露わにすると、マリアはそれを笑顔で制し、
「ですが、その役目は「わたくし」ではありませんわぁ」
「陛下ぁ!」
 天国から地獄に落とされた様な落胆を露わにするエラ。するとマリアは優しく両手を握り、
「ジャックが言った通りですわぁ。わたくしは国民の皆様に「NO」を言い渡された身。そして旧世界の人間ですわ。結果がどうであれ、今を生きる人々の暮らしに、わたくしが口出しするべきではなかったのですわぁ」
 申し訳なさげな色を滲ませた笑顔を見せると、
「そんな事はありません!」
 エラは身を乗り出し、
「陛下に国を治めて頂いた頃が「一番良かった」のは周知の事実でぇす!」
「!」
 圧に気圧され、驚くマリアであったが、
「そう言っていただけるのは嬉しい限りですわ。ですが、とかく過去は美しく見えがちなモノ、」
「そんな事はありません! 現に未だ陛下を崇める人々が沢山、!」
 ヒートアップするエラに、
(黙って聞いてりゃ調子に乗りやがってぇ!)
 堪りかねたジャックが、「熱」に対して「熱を以って」割り込もうとすると、ヤマトが「火に油を注ぐだけ」と制し、
「ちょっと待った、エラぁ!」
 別な角度の空気を以って、話に割り込んだ。
「何ですか、ヤマトさん。私は陛下と話をしているんです」
 珍しく露骨な不快感を露わにするエラ。それほど国を憂いているとヤマトは理解しつつ、
「まず落ち着けってぇ」
 笑顔で平静を促すと、マリアの方へ向き直り、
「なぁ、マリア」
「?」
「マリアは、急に国を出る事になったろぅ?」
「え、えぇ……ですわぁ」
「何か、国のみんなに「伝えておきたかった事」とか無いのか?」
「それは……」
 心の一部を国に残し、泣く泣く出国したが故に心惑うマリアに、心残りが無い筈がなく、
「ヤマトぉ、テメェ何を!」
 裏切られたと感じたジャックが身を乗り出したが、ジゼが「まぁまぁ」と制し、
「怒るのは、もう少し話を聞いてからでも良いんじゃない?」
「……チッ」
 道理を射られ、反論も出来ず、不愉快そうに横向くジャックにヤマトは苦笑を浮かべ、
「サンキュー、ジゼ」
「どういたしましてぇ」
 心が通じているかのように、ジゼと笑い合うと、
(恨めしやぁ~)
 口惜し気にハンカチの端を齧り、二人を凝視する嫉妬神ナヤス。
((は、話が進まない……))
 苦笑いを浮かべたが、改めてマリアに向き直り、
「あるなら言いに行ってみないか? 一度だけ」
「一度だけ……」
 黙考する間、
「エラも、それでどうだ?」
「一度だけ……ですか……」
 黙するエラ。
(冷静に考えれてみれば、陛下も、私も、国にとって犯罪者。帰国して無事に済む筈がありません……。でももし……もしチャンスが一度でもあると言うなら、国民の皆さんに、そのタイミングで陛下のお言葉を耳にしてもらい、心で何かを感じ取って……)
 見出した微かな希望の光に、こわばっていた表情を少し緩め、
「分かりました」
 頷き、
「それで、どうやって?」
「え?」
「「「「「え?」」」」」
「…………」
(((((考えてなかったのかよ……)))))
 ジャック達が心の中でツッコミを入れ、ヤマトが気マズそうに視線を泳がせる中、
「イイ案があるよぉ!」
 ジゼが何事か閃き、声を上げた。

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