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青木 森

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12.胎動の章_8

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 するとジゼが明らかな怒りを以って、
「ちょっと待って、マリア!」
 二人を呼び止めた。
「ジゼぇ!」
 慌てて割って入るヤマト。しかしジゼは容赦なく、
「ヤマトは黙っててぇ!」
 短く一喝。猛る表情で仲間たちを見回し、
「みんな、おかしいよぉ! あの二人が「他人想いの良い人」みたいに言われて何で黙ってるのぉ!」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 物言いたげな表情でうつむくガルシアクルー達。ジゼの怒りは最もであるが、事情を知らないであろう第三者のエラにぶつけても「仕方のない事」と頭で割り切り、我慢していたのである。イサミ、トシゾウ、ソウシの三人も、幼いながらオリビアとルークの死に理不尽を感じつつ、大人たちの空気を敏感に感じ取り、涙をグッと堪えていた。子供らしからぬ反応と言えなくもないが、置かれた環境がそうさせたのか、それとも乱世のせいか、はたまた両方か。
 そんな中、
「ジゼ、それは、」
 擁護しかけたマリアの言葉を、エラが制し、
「あの二人が、過去に重大な過ちを犯した事は薄々気付いていました。でも二人は今、毎晩うなされるほど悔やみ、後悔し、贖罪かも知れませんが旅の中で多くの人を困難から救い、私はそれを見て来ました」
「だから何ぃ!? 許せって言うの! 謝ればそれで帳消しなの! それならルークは! オリビアは! 二人の死は何だたって言うのぉ! いくら謝っても二人は、もぅ帰って来ないんだよォ!」
 ジゼの叫びに、涙をグッと堪えていたイサミ、トシゾウ、ソウシが堰を切ったように泣き出した。泣きじゃくる三人を、そっと抱きしめるアリアナ。幼い彼女がその様な優しさを見せる事が出来たのは、近親者を失う者の痛みを、痛いほど知っていたから。
「ジゼェ!」
 言葉短くも、強く詰責するヤマト。
 幼いイサミ達ですら理不尽を飲み込もうと必死に我慢していた中、感情任せに怒りをぶちまけたジゼを叱責したのである。
「!」
 しかし納得する事が出来ず、大粒の涙を浮かべて唇を悔し気に噛み締め、
「みんな、おかしいよ……」
 飛び出す様に部屋から走り去り、
「ジゼぇ!」
 ヤマトは後を追い、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 イサミ達が泣き続ける中、誰もが語る言葉を見い出せないでいた。
「……私の……言い方が良くなかったのでしょうか……」
 エラがおずおずと、申し訳なさげに呟くと、艦長がベッドの傍らに立ち、
「君の責任ではない。指揮官でありながら、二人の死と、真正面から向き合おうとしなかった私の責任だ……それに、」
 自省する様に帽子を被り直し、
「……彼女の……ジゼ君の反応の方が普通なのかもしれない」
 悲しみと共に走り去った背中を見つめると、ソフィアが寄り添う様に立ち、
「艦長、それはいったい……」
 艦長は小さく頷き、
「……我々の手は、あまりに多くの者の血に染まっている。故に、戦場における人の生き死にを、当たり前の様に受け止め過ぎているのだ……しかし彼女は違う。彼女は、その手で人を殺めた事がない。御父上の遺言を遵守しているそうではあるが」
 心中をおもんばかったが、ジャックは「ケッ」と切り捨て、
「長く生きてりゃ、誰だってテメェの知らねぇ所で迷惑かけてるだろうし、間接的に誰かを死に追いやってるかも知れねぇ。テメェだけは「人に迷惑かけてねぇ」とでも思ってやがんのかぁ? 何様エラぇんだぁ、ジゼのヤツぁ」
 あからさまに不愉快そうな顔をしたが、
「確かに、理屈としてはジャック君の言う通りかも知れないが、人としての人生経験が浅く、亡き父の言葉を胸に、誠実に生きて来た彼女にそれを強いるのは、いささか酷な話なのかも知れない」
「それが甘ぇっってんだぁ!」
「ジャック」
 優しく自制を促すマリア。
「皆様にご迷惑をお掛けした二人(コーギーとヴァイオレット)の肉親であるわたくし達に、それを言う権利はありませんわぁ」
「!」
 真理を射られたジャックは「分かっている」と言わんばかりに舌打ちすると、苦々し気にソッポを向いた。

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