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10.徳義の章_27
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肩を落とすエバンを最寄りの警察署に送り届けた後―――
宿泊場所に使っているオートキャンプ場への帰り道、車内は誰も何も言わず、重苦しい空気に包まれていた。
エバンがこの様な事態に陥った要因の一つとして、煽る形となった自分たちにも、少なからず責任があると感じたから。
そんな中、初めに口を開いたのはコーギーであった。
「政治活動費を私的流用していたのは州首相です。その様な彼を、何故トラビスは命を賭してまで守ろうとしたのでしょうか?」
何事も無かったかのような、いつも通りの表情と物言いに、エラは少し感情がチリつく感覚を覚え、
「なんで、そんなに冷静でいられるんですか……私たちのせいでエバンと、トラビス・ハミルトンは!」
苛立ちを口にした途端、
「お止めなさい、エラ。そんな事(八つ当たり)に何の意味がありますですの」
「…………」
ヴァイオレットに心の的を射られ、思わず黙り込んだ。
するとコーギーが、エラの考え方に苦言を呈する様に、
「自責の念に囚われるのは個人の勝手ですが、元より犯罪は犯罪です。如何な理由があろうと、国民が額に汗して納めた血税を、私的に流用する事は許されないのです」
「…………」
グウの音も出ないエラ。
取締官としての職責も忘れ、感傷に流された事を猛省し、
「……すみません、お二人とも……お二人の言う通りです。自分の中の苛立ちを、お二人に当て擦りしていました……ガーディアン隊員として、ホント情けないです……」
うつむくと、ヴァイオレットが優しく頭を撫で、
「不平不満も隠さず思いの丈をぶつける、それで良いのでございますですよ」
「え?」
「だってあたくし達、親友ではありませんかぁ。親友に遠慮は無しでございますですわよ」
「ヴァイオレット……」
エラが目を潤ませると、コーギーが変わらぬ作り笑顔のまま、
「よくもそんな恥ずかしい事を、真顔で言えますねぇ♪」
からかい口調で指摘すると、改めて言われたヴァイオレットは途端に恥ずかしさが込み上げ、顔を真っ赤に、
「う、ウルサイでございますですわねぇ! イイではありませんことぉ!」
誤魔化す様に、運転中のコーギーに駄々っ子パンチをお見舞い。
「「アハハハハハハハ」」
車内は、やっといつも通りの明るい笑いに包まれた。
笑い過ぎの涙目を拭うエラ。
「アハハハ。でも確かにコーギーの言う通り、ちょっと不自然な感じはしますねぇ。例え一緒にお金を使っていたにしてもぉ」
「ですわねぇ……それにしても、いったい何に使っていたんでございましょうか? 自己の生活も倹約を主として、浮いた女性関係の話もありませんし、高級な飲食店への出入りも聞き及びませんでございましたですわぁ」
未だ「テレの赤み」が消え切らないヴァイオレットも不思議そうな顔をすると、黙考していたコーギーが、靄の向こうに見え隠れする真実を見据える様に、
「どうもその辺りに、(命まで掛けた)謎を解くカギがありそうですねぇ……」
正面を向いて運転していると、運転席と助手席の間の定位置から顔を覗かせていたエラが突如、
「あれ? そう言えば確かぁ!」
何か思い立ち、慌てたように首を引っ込めると、リビングのパソコンのキーボードを激しく叩き、
「あった! 二人の共通点がありましたよ!」
「「え!?」」
コーギーは思わず急ブレーキ。
コケそうになった二人の物言いたげなジト目に、いつも通りの作り笑顔に苦笑いを滲ませ、車を歩道に寄せて静かに停車させると、ヴァイオレットと共にパソコン画面の前に顔を並べ、
「なるほど……確かに、世間的に認知されていない共通点ではありますが……」
「ですわねぇ。そもそも、この共通点が(犯行の)理由に成り得ますですの?」
「ちょっと待って下さぁい……」
エラは続けてパソコンを操作。
「これだ!」
犯罪の「証拠と理由」を見出した三人。しかしその三人の表情は、一様に暗かった。
「「「…………」」」
画面を見つめたまま、しばし黙り込む三人。
するとヴァイオレットがおもむろに、
「気付いているのは、あたくし達だけでございますですわ……あたくし達が黙り、見逃しても……」
「…………」
珍しくコーギーも答えにためらい、返事を返さずにいると、
「それは出来ません」
エラが、躊躇する二人の迷いを切って落とし、
「コーギーが言っていたじゃないですか。犯罪は犯罪です、如何な理由があろうとも。それにトラビスが死してエバンが出頭した今、事が公になるのは時間の問題です!」
「……そうでございますですわね……」
「そうですね……」
二人は頷き合い、
「「ただ……」」
「ただ?」
「エラに問いただされた事ダケが、いささか腑に落ちませんがぁ」
「ですわねぇ」
苦笑し合うと、
「何でですかぁ! もぅ!」
憤慨するエラを二人はくすくす笑い、その「小さな笑い」が心を少し軽くした。
これから三人がする事は、「大きな悲しみ」を呼び、「激しい心の痛み」が伴う行為であるから。
宿泊場所に使っているオートキャンプ場への帰り道、車内は誰も何も言わず、重苦しい空気に包まれていた。
エバンがこの様な事態に陥った要因の一つとして、煽る形となった自分たちにも、少なからず責任があると感じたから。
そんな中、初めに口を開いたのはコーギーであった。
「政治活動費を私的流用していたのは州首相です。その様な彼を、何故トラビスは命を賭してまで守ろうとしたのでしょうか?」
何事も無かったかのような、いつも通りの表情と物言いに、エラは少し感情がチリつく感覚を覚え、
「なんで、そんなに冷静でいられるんですか……私たちのせいでエバンと、トラビス・ハミルトンは!」
苛立ちを口にした途端、
「お止めなさい、エラ。そんな事(八つ当たり)に何の意味がありますですの」
「…………」
ヴァイオレットに心の的を射られ、思わず黙り込んだ。
するとコーギーが、エラの考え方に苦言を呈する様に、
「自責の念に囚われるのは個人の勝手ですが、元より犯罪は犯罪です。如何な理由があろうと、国民が額に汗して納めた血税を、私的に流用する事は許されないのです」
「…………」
グウの音も出ないエラ。
取締官としての職責も忘れ、感傷に流された事を猛省し、
「……すみません、お二人とも……お二人の言う通りです。自分の中の苛立ちを、お二人に当て擦りしていました……ガーディアン隊員として、ホント情けないです……」
うつむくと、ヴァイオレットが優しく頭を撫で、
「不平不満も隠さず思いの丈をぶつける、それで良いのでございますですよ」
「え?」
「だってあたくし達、親友ではありませんかぁ。親友に遠慮は無しでございますですわよ」
「ヴァイオレット……」
エラが目を潤ませると、コーギーが変わらぬ作り笑顔のまま、
「よくもそんな恥ずかしい事を、真顔で言えますねぇ♪」
からかい口調で指摘すると、改めて言われたヴァイオレットは途端に恥ずかしさが込み上げ、顔を真っ赤に、
「う、ウルサイでございますですわねぇ! イイではありませんことぉ!」
誤魔化す様に、運転中のコーギーに駄々っ子パンチをお見舞い。
「「アハハハハハハハ」」
車内は、やっといつも通りの明るい笑いに包まれた。
笑い過ぎの涙目を拭うエラ。
「アハハハ。でも確かにコーギーの言う通り、ちょっと不自然な感じはしますねぇ。例え一緒にお金を使っていたにしてもぉ」
「ですわねぇ……それにしても、いったい何に使っていたんでございましょうか? 自己の生活も倹約を主として、浮いた女性関係の話もありませんし、高級な飲食店への出入りも聞き及びませんでございましたですわぁ」
未だ「テレの赤み」が消え切らないヴァイオレットも不思議そうな顔をすると、黙考していたコーギーが、靄の向こうに見え隠れする真実を見据える様に、
「どうもその辺りに、(命まで掛けた)謎を解くカギがありそうですねぇ……」
正面を向いて運転していると、運転席と助手席の間の定位置から顔を覗かせていたエラが突如、
「あれ? そう言えば確かぁ!」
何か思い立ち、慌てたように首を引っ込めると、リビングのパソコンのキーボードを激しく叩き、
「あった! 二人の共通点がありましたよ!」
「「え!?」」
コーギーは思わず急ブレーキ。
コケそうになった二人の物言いたげなジト目に、いつも通りの作り笑顔に苦笑いを滲ませ、車を歩道に寄せて静かに停車させると、ヴァイオレットと共にパソコン画面の前に顔を並べ、
「なるほど……確かに、世間的に認知されていない共通点ではありますが……」
「ですわねぇ。そもそも、この共通点が(犯行の)理由に成り得ますですの?」
「ちょっと待って下さぁい……」
エラは続けてパソコンを操作。
「これだ!」
犯罪の「証拠と理由」を見出した三人。しかしその三人の表情は、一様に暗かった。
「「「…………」」」
画面を見つめたまま、しばし黙り込む三人。
するとヴァイオレットがおもむろに、
「気付いているのは、あたくし達だけでございますですわ……あたくし達が黙り、見逃しても……」
「…………」
珍しくコーギーも答えにためらい、返事を返さずにいると、
「それは出来ません」
エラが、躊躇する二人の迷いを切って落とし、
「コーギーが言っていたじゃないですか。犯罪は犯罪です、如何な理由があろうとも。それにトラビスが死してエバンが出頭した今、事が公になるのは時間の問題です!」
「……そうでございますですわね……」
「そうですね……」
二人は頷き合い、
「「ただ……」」
「ただ?」
「エラに問いただされた事ダケが、いささか腑に落ちませんがぁ」
「ですわねぇ」
苦笑し合うと、
「何でですかぁ! もぅ!」
憤慨するエラを二人はくすくす笑い、その「小さな笑い」が心を少し軽くした。
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