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10.徳義の章_23
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ふとコーギーが思い出したように、
「そう言えば……随分あっさりペンカメラを返しましたね、ヴァイオレット」
するとヴァイオレットは「うふふ」と笑い、
「内部のカメラ機能はデータが復元できない程、徹底的に破壊しておきましたからぁ」
「「!」」
驚く二人に笑顔を見せ、
「あたくし「カメラも返す」とは、一言も言っておりませんでございますですわぁ。それに……コーギーなら、聞かなくとも分かっていましたでしょ?」
「まぁ、ね」
二人は顔を見合わせ、
「「ふふふふふふふふふふふふふ」」
悪い顔して笑いだし、
(この二人は悪党だぁ……)
困惑笑いで見つめるエラは、
(エバンさん、かわいそうに……相手が悪かったですねぇ……)
同情を禁じ得なかった。
「では「行きましょう」でございますですわぁ!」
「ですね」
先陣切って歩き出すヴァイオレットと、いつも通りの作り笑顔で後に続くコーギー。
「へ? えぇ!? ど、何処へですかぁ?」
キョトン顔のエラが慌てて後に続くと、
「そんなの、決まっていますよ」
「ですわぁ。エラが警察での事情説明を終えた事で、「誘拐事件」も一先ずの決着を見たのですから、当然……」
「とうぜん?」
「「観光(ですよ・でございますですわぁ)!」」
事件が起きた郊外から、事情説明の為に移動した三人が現在居るのは『ポート・オーガスタ』。この町はスチュアート・ハイウェイの南に位置し、真南から内陸を大きくえぐった様な形をした入り江の最も奥にあり、大きな川と湖を持ち、水と自然が豊かでありながら、南オーストラリア州の中では比較的人口の多い町である。
そのような町で、ウインドウショッピングや美術館など、観光名所をひとしきり巡った三人は、幅が数百メートルはあろうかと言う、大きな川に沿うように続く歩道をしばし散策していたが、コーギーがおもむろに振り返り、
「今日は、いつもより随分と口数が少ないんですねぇ」
そこには二人(コーギーとヴァイオレット)から少し遅れ、ぼんやり歩くエラの姿が。
心ここにあらずのさ中、唐突に声を掛けられたエラは大いに慌て、
「そ、そんな事は無いですよ! 私はいつも、もの静かじゃないですかぁ!」
((はぁ?))
物思いにふける彼女の心中を察し、ツッコミはあえて心の中に押し止め、
「「…………」」
何かを訴えかける様に、ジッと見つめるコーギーとヴァイオレット。
その心まで見透かされそうな二人の瞳に、
「…………」
逃れる様に思わず下を向くと、
「そんなに『ケビン・ウォーカー』の事が気になりますか?」
「!」
ギクリと驚き、コーギーの顔を見た。
するとヴァイオレットが穏やかな笑みを浮かべ、
「分かりますですわよぉ。だってぇ、あたくし達のお付き合いも、随分と長くなりましたですものぉ」
「あはははは……お付き合いってぇ……でもホント、そうですよねぇ……」
エラは複雑な笑みを浮かべると共に、少し照れ臭そうに頬をポリポリ掻くと、
「その……百歩譲ってエバンの言っていた事が真実だったとして……その時、セブリナちゃんはどうなってしまうのかと思うと……」
うつむき加減で呟く様にこぼすと、二人の視線にハッと顔を上げ、無理に作った笑顔で、
「す! すみません! せっかく観光を楽しんでいる時に!」
「そんな事、ありませんでございますですわぁ」
「え?」
「ですね。その優しさは、エラの長所ですよ」
「お二人ともぉ……」
感動して目を潤ませると、
「「「ドジな所」と「巻き込まれ体質」は別としてぇ」」
「酷いですよぉ、お二人ともぉ~! 私の感動を返して下さぁ~い!」
憤慨するエラを、ヴァイオレットとコーギーはケラケラと笑い、
「そう言えば、セブリナちゃんのお母様って確かぁ……」
「もう亡くなられているんですよね?」
「ハイでぇす。それから男手一つで育てて来たそうです。縁者も、遠縁の者が数名離れて暮らしているだけだそうです」
「何やら聞けば聞くほど、汚職などとは無縁の方に思えますでございますですわねぇ」
「ですね。やはり眉唾なのではないですか?」
訝し気な表情で見合ったが、間違いだと言う確証のないエラは不安を拭い去れず、
「そうだとイイんですけどぉ……」
思い迷った表情で、川に掛かる長い橋を見つめた。
(気にはなる……でもお二人を、私事の面倒に巻き込む訳にはいかない……それに私にも、お二人から離れる訳にはいかない任務がある……)
「…………」
想いの狭間で葛藤するエラに、
「そんなに気になるなら調べてみましょうか?」
「え?」
「ですわねぇ」
「良いんですかぁ!?」
二人の唐突な提案に、パッと笑顔を弾けさせると、
「これもまた何かの『縁』ですよ♪」
「乗り掛かった舟でございますですものぉ♪」
「ありがとうございますお二人ともぉ! 大好きでぇす!」
エラは満面の笑顔で両腕を広げ、二人に飛びついた。
その日から三人は、セブリナの父親であり、現州首相『ケビン・ウォーカー』の身辺調査を開始した。
エラはガーディアンの特権を使用し、国のデータベースにアクセス。彼の経歴などを徹底的に調べ上げ、コーギーとヴァイオレットは観光客を装い、表沙汰になっていない小さな話を町で拾って歩いた。
「そう言えば……随分あっさりペンカメラを返しましたね、ヴァイオレット」
するとヴァイオレットは「うふふ」と笑い、
「内部のカメラ機能はデータが復元できない程、徹底的に破壊しておきましたからぁ」
「「!」」
驚く二人に笑顔を見せ、
「あたくし「カメラも返す」とは、一言も言っておりませんでございますですわぁ。それに……コーギーなら、聞かなくとも分かっていましたでしょ?」
「まぁ、ね」
二人は顔を見合わせ、
「「ふふふふふふふふふふふふふ」」
悪い顔して笑いだし、
(この二人は悪党だぁ……)
困惑笑いで見つめるエラは、
(エバンさん、かわいそうに……相手が悪かったですねぇ……)
同情を禁じ得なかった。
「では「行きましょう」でございますですわぁ!」
「ですね」
先陣切って歩き出すヴァイオレットと、いつも通りの作り笑顔で後に続くコーギー。
「へ? えぇ!? ど、何処へですかぁ?」
キョトン顔のエラが慌てて後に続くと、
「そんなの、決まっていますよ」
「ですわぁ。エラが警察での事情説明を終えた事で、「誘拐事件」も一先ずの決着を見たのですから、当然……」
「とうぜん?」
「「観光(ですよ・でございますですわぁ)!」」
事件が起きた郊外から、事情説明の為に移動した三人が現在居るのは『ポート・オーガスタ』。この町はスチュアート・ハイウェイの南に位置し、真南から内陸を大きくえぐった様な形をした入り江の最も奥にあり、大きな川と湖を持ち、水と自然が豊かでありながら、南オーストラリア州の中では比較的人口の多い町である。
そのような町で、ウインドウショッピングや美術館など、観光名所をひとしきり巡った三人は、幅が数百メートルはあろうかと言う、大きな川に沿うように続く歩道をしばし散策していたが、コーギーがおもむろに振り返り、
「今日は、いつもより随分と口数が少ないんですねぇ」
そこには二人(コーギーとヴァイオレット)から少し遅れ、ぼんやり歩くエラの姿が。
心ここにあらずのさ中、唐突に声を掛けられたエラは大いに慌て、
「そ、そんな事は無いですよ! 私はいつも、もの静かじゃないですかぁ!」
((はぁ?))
物思いにふける彼女の心中を察し、ツッコミはあえて心の中に押し止め、
「「…………」」
何かを訴えかける様に、ジッと見つめるコーギーとヴァイオレット。
その心まで見透かされそうな二人の瞳に、
「…………」
逃れる様に思わず下を向くと、
「そんなに『ケビン・ウォーカー』の事が気になりますか?」
「!」
ギクリと驚き、コーギーの顔を見た。
するとヴァイオレットが穏やかな笑みを浮かべ、
「分かりますですわよぉ。だってぇ、あたくし達のお付き合いも、随分と長くなりましたですものぉ」
「あはははは……お付き合いってぇ……でもホント、そうですよねぇ……」
エラは複雑な笑みを浮かべると共に、少し照れ臭そうに頬をポリポリ掻くと、
「その……百歩譲ってエバンの言っていた事が真実だったとして……その時、セブリナちゃんはどうなってしまうのかと思うと……」
うつむき加減で呟く様にこぼすと、二人の視線にハッと顔を上げ、無理に作った笑顔で、
「す! すみません! せっかく観光を楽しんでいる時に!」
「そんな事、ありませんでございますですわぁ」
「え?」
「ですね。その優しさは、エラの長所ですよ」
「お二人ともぉ……」
感動して目を潤ませると、
「「「ドジな所」と「巻き込まれ体質」は別としてぇ」」
「酷いですよぉ、お二人ともぉ~! 私の感動を返して下さぁ~い!」
憤慨するエラを、ヴァイオレットとコーギーはケラケラと笑い、
「そう言えば、セブリナちゃんのお母様って確かぁ……」
「もう亡くなられているんですよね?」
「ハイでぇす。それから男手一つで育てて来たそうです。縁者も、遠縁の者が数名離れて暮らしているだけだそうです」
「何やら聞けば聞くほど、汚職などとは無縁の方に思えますでございますですわねぇ」
「ですね。やはり眉唾なのではないですか?」
訝し気な表情で見合ったが、間違いだと言う確証のないエラは不安を拭い去れず、
「そうだとイイんですけどぉ……」
思い迷った表情で、川に掛かる長い橋を見つめた。
(気にはなる……でもお二人を、私事の面倒に巻き込む訳にはいかない……それに私にも、お二人から離れる訳にはいかない任務がある……)
「…………」
想いの狭間で葛藤するエラに、
「そんなに気になるなら調べてみましょうか?」
「え?」
「ですわねぇ」
「良いんですかぁ!?」
二人の唐突な提案に、パッと笑顔を弾けさせると、
「これもまた何かの『縁』ですよ♪」
「乗り掛かった舟でございますですものぉ♪」
「ありがとうございますお二人ともぉ! 大好きでぇす!」
エラは満面の笑顔で両腕を広げ、二人に飛びついた。
その日から三人は、セブリナの父親であり、現州首相『ケビン・ウォーカー』の身辺調査を開始した。
エラはガーディアンの特権を使用し、国のデータベースにアクセス。彼の経歴などを徹底的に調べ上げ、コーギーとヴァイオレットは観光客を装い、表沙汰になっていない小さな話を町で拾って歩いた。
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