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青木 森

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10.徳義の章_18

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 セブリナ救出から数時間後―――
 町に入る直前から早々騒ぎに巻き込まれたコーギー達は、今更ながら目立つ事を嫌い、町外れに見つけたオートキャンプ場に車を止め、早めの夕食を取っていた。
 パスタを乗せた皿を前に、
「はぁ~~~」
 大きく深い、ため息を吐くコーギー。
「どうしましたですのコーギー? ため息なんて吐いてぇ? 幸せが逃げてしまいますですわよ」
 隣に座るヴァイオレットがスプーンの上でパスタを上品にクルリと巻き、からかう様な笑みを浮かべると、
「僕は常々思うんですが……」
「?」
「もう少し、静かに、穏やかに旅が出来ないものですかねぇ……僕は今回こそ、平安に町へ入りたかったんですけどぉ……」
 愚痴る様にこぼすと、向かい合って座るエラが「セブリナの王子様」から程遠く、無造作にパスタを頬張りながらケラケラ笑い、
「トラブルに好かれているお二人に、そんな事が出来る筈無いじゃないですかぁ」
((オマエが言うな!))
 心の中でツッコム、コーギーとヴァイオレット。
 するとエラの携帯が突如コール、着信音と共にテーブルの上で小刻みに揺れ、
「まったくぅ食事中に失礼ですねぇ。誰ですかねぇ?」
 呆れ顔して通話をタップ。
((マナーモードにしてないオマエもなぁ))
 苦笑する二人の思いを知ってか知らずか、
「はい、はぁ~い! エラでぇす!」
 悪びれた様子も見せずに応じた途端、
『キサマと言うヤツはァ! いったい何をやっているのかァアァァァァァァア!』
 スピーカーを破壊しそうな女性の怒鳴り声。
「くぅ、クロエ副隊長ぉお!?」
 慌てて通話をスピーカーに切り替えテーブルに置くと背筋を伸ばし、
「ど、どうかされたのでありますかぁ!」
『どうかされたのではなァい! 貴様の任務は「秘匿を旨とする諜報活動」ではなかったのかァ! それが……それが町中でド派手な救出劇にカーチェイスとは何事かァーーーーーー!』
「すっ、すみません! 行きがかり上、よんどろない事情と言う物がありましてぇ!」
『言い訳するなぁ!』
「もぉ、申し訳ありませしぇん!」
 直立不動で引きつるエラを、コーギーとヴァイオレットが「可哀想」と思いつつ、姿が可笑しくてクスクス笑っていると、
『貴様は、明朝「マルハチ、マルマル」地元警察署にガーディアンとして出頭せよ!』
「え?」
『ガーディアンを名乗って暴れたのだァ! 事情を説明するのは当然であろうォが!』
「い、イエスぅマァムぅ!」
『因みに、その場で州首相がマスコミ向けに「感謝と表彰」を表明したかったそうだが、隊長の御意向で謝意は受けるが、ガーディアンの名前は伏せ、全て警察の功績とする事とした。その旨、しかと心しておくように』
「へ? それはまた何故ぇ?」
『ガーディアンの名を政治利用させない為の、隊長の御配慮に決まっているであろうがぁあぁぁぁぁ!』
「しっ、失礼しましたぁ!」
『復唱はァ!』
「エラ・エリスぅ! 明朝マルハチマルマルに地元警察署へ出頭いたしまぁす!」
『結構ぅ!』
 必死に笑いを堪えるコーギーとヴァイオレットの傍ら、クロエの納得した声が返り、エラが少し安堵した顔になった瞬間、
『それとエラ・エリスぅ!』
「はっ、ハイ! 何でありましょう、クロエ副隊長殿ォ!」
 慌てて背筋を伸ばし直して敬礼まですると、
『そ、それと……なんだ……』
 急に意味不明なトーンダウン。
「「「?」」」
 三人が顔を見合わせると、
『こ、この国の未来を担う子供たちを救ってくれて……か、感謝……する……』
 携帯越しでも分かる、クロエの照れ声がスピーカーからこぼれ、三人は笑顔を見合わせたが、エラがつい調子乗り、
「クロエ副隊長ぉ~、ルーカス隊長代行は、「隊長」ではありませんよぉ♪」
『!』
 携帯の向こうでギョッとするクロエ。
 そして関係者でなくても分かる、エラの放った地雷の一言に、
((余計な一言をぉ!))
 コーギーとヴァイオレットが「マズイ」と思った次の瞬間、
『上官の揚げ足を取るとは何事かぁあぁぁぁっぁぁっぁぁっぁ!!!!!!』
 激怒の一言ともに、通話はブツリと一方的に切断された。
 プーップーップーッ
 妙に静まる車内に、やけにこだまして聞こえるビジートーン(話中音)。
「…………」
(や、やっちゃった……)
 しでかしてしまった事に今更気付き、血の気が引いた青い顔で振り返るエラと、その視線からバツが悪そうに、そっと目を逸らすコーギーとヴァイオレット。

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