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10.徳義の章_10
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取締官として鍛えた両の拳をギュッと握り込み、右拳を怒り任せに振り被ると、
パシッ!
いつも通りの作り笑顔のコーギーがその手を掴み、
「エミリーが「手」と「心」を痛めてまで殴る価値も無いですよ、こんなヤツ。自分の大切な物を「全て金に換えた輩」など」
言わんとする所は、頭で理解は出来ていた。
「でも!」
失われた動物たちの命を、共に命がけで働く同僚たち想いを考えると怒りが収まらず、刺す様な視線でニコラスを睨み付けた。しかし当のニコラスは、いつかこうなる事を覚悟はしていたのか、まるでエミリーの心を逆なでするが如く、
「それじゃ、そろそろ警察署に連れて行ってもらえるかぁ?」
「「「「!?」」」」
「今更ぁ逃げも隠れもしやしない」
反省の色も見せない元相棒に、エミリーがキレた。
「ニコラァーーースゥ!」
怒りの形相で殴り飛ばすが先か、
パァン!
「!」
ヴァイオレットがニコラスの横っ面を引っ叩き、
「貴方と言う人はァ! 貴方を信頼して下さっていた方々や動物たちの信頼を、どれほど裏切り、傷つけたのか御分りにならないのでございますですのォ!」
「…………」
(何を今更言ってやがる……)
「貴方は! 何故この仕事を選んだのでございますですのォ!」
「なんでって……」
(!)
ハッとする、左頬を赤く腫らしたニコラス。太々しい表情が初めて変化の色を見せた。
幼少期、動物たちとの触れ合いの中で、当たり前のように動物たちの事が好きになり、動物たちと関わりを持った仕事に就く事を夢みた。やがて成長すると共に密猟や乱獲による惨状を知り、傷ついた動物たちの「命を救う側」である獣医を目指したが、学位の低かった彼は獣医の道を諦め、代わりに生まれ持った体格と身体能力を生かした「命を守る側」になる事を選び、保護管となった。
(俺は長く務めるうち……いや、違うな……目先の金に目が眩み、そんな大事な事も忘れていたのか……)
初心を思い出し、今更どれほど後悔しても、奪われた命が戻る事は決してない。
ニコラスは深い懺悔を心の中に押し止め、変わらぬ不敵を装い、
「忘れたよぉ」
皮肉った笑みを浮かべると、ライフル銃をヴァイオレットに手渡した。
不法入国者であるコーギーとヴァイオレットに代わり、証拠のビデオと資料を携え、ニコラスを連れて警察に出頭するエラ。太々しい態度を貫くニコラスは口にこそ出さなかったが、司法取引などによる減刑を受けるつもりはなく、全ての刑罰を受ける道を選んでいた。彼なりの贖罪であった。
しかしここで、誰も予想しなかった事態が起きた。
出頭したニコラスが証拠不十分として、その日のうちに釈放されたのである。
エミリーたちがその事を知ったのは、釈放されてから数時間のち。傷心のエミリーを元気づけようと、エラ達がキャンピングカー内でささやかなパーティーを開いている最中であった。
羽目を外した空騒ぎの中、保護センターからの携帯着信に出たエミリーは絶句した。
四人が、釈放されたニコラスと再会したのは二日後。
警察署内にある、遺体安置所であった。
「「「「…………」」」」
寒々しい金属製の台に乗せられた物言わぬニコラスを、身元確認の為に見つめる四人。
肉親は既に他界、天涯孤独と言う事で、相棒で、付き合いの長かったエミリーが呼ばれたのである。コーギー達は彼女の付き添い。
激しい暴行にあったのか、全身アザだらけ。
警察官の話では、酔っ払いグループに「肩がぶつかった」と因縁をつけられ、集団で暴行を受けた結果だと言う話であった。
パシッ!
いつも通りの作り笑顔のコーギーがその手を掴み、
「エミリーが「手」と「心」を痛めてまで殴る価値も無いですよ、こんなヤツ。自分の大切な物を「全て金に換えた輩」など」
言わんとする所は、頭で理解は出来ていた。
「でも!」
失われた動物たちの命を、共に命がけで働く同僚たち想いを考えると怒りが収まらず、刺す様な視線でニコラスを睨み付けた。しかし当のニコラスは、いつかこうなる事を覚悟はしていたのか、まるでエミリーの心を逆なでするが如く、
「それじゃ、そろそろ警察署に連れて行ってもらえるかぁ?」
「「「「!?」」」」
「今更ぁ逃げも隠れもしやしない」
反省の色も見せない元相棒に、エミリーがキレた。
「ニコラァーーースゥ!」
怒りの形相で殴り飛ばすが先か、
パァン!
「!」
ヴァイオレットがニコラスの横っ面を引っ叩き、
「貴方と言う人はァ! 貴方を信頼して下さっていた方々や動物たちの信頼を、どれほど裏切り、傷つけたのか御分りにならないのでございますですのォ!」
「…………」
(何を今更言ってやがる……)
「貴方は! 何故この仕事を選んだのでございますですのォ!」
「なんでって……」
(!)
ハッとする、左頬を赤く腫らしたニコラス。太々しい表情が初めて変化の色を見せた。
幼少期、動物たちとの触れ合いの中で、当たり前のように動物たちの事が好きになり、動物たちと関わりを持った仕事に就く事を夢みた。やがて成長すると共に密猟や乱獲による惨状を知り、傷ついた動物たちの「命を救う側」である獣医を目指したが、学位の低かった彼は獣医の道を諦め、代わりに生まれ持った体格と身体能力を生かした「命を守る側」になる事を選び、保護管となった。
(俺は長く務めるうち……いや、違うな……目先の金に目が眩み、そんな大事な事も忘れていたのか……)
初心を思い出し、今更どれほど後悔しても、奪われた命が戻る事は決してない。
ニコラスは深い懺悔を心の中に押し止め、変わらぬ不敵を装い、
「忘れたよぉ」
皮肉った笑みを浮かべると、ライフル銃をヴァイオレットに手渡した。
不法入国者であるコーギーとヴァイオレットに代わり、証拠のビデオと資料を携え、ニコラスを連れて警察に出頭するエラ。太々しい態度を貫くニコラスは口にこそ出さなかったが、司法取引などによる減刑を受けるつもりはなく、全ての刑罰を受ける道を選んでいた。彼なりの贖罪であった。
しかしここで、誰も予想しなかった事態が起きた。
出頭したニコラスが証拠不十分として、その日のうちに釈放されたのである。
エミリーたちがその事を知ったのは、釈放されてから数時間のち。傷心のエミリーを元気づけようと、エラ達がキャンピングカー内でささやかなパーティーを開いている最中であった。
羽目を外した空騒ぎの中、保護センターからの携帯着信に出たエミリーは絶句した。
四人が、釈放されたニコラスと再会したのは二日後。
警察署内にある、遺体安置所であった。
「「「「…………」」」」
寒々しい金属製の台に乗せられた物言わぬニコラスを、身元確認の為に見つめる四人。
肉親は既に他界、天涯孤独と言う事で、相棒で、付き合いの長かったエミリーが呼ばれたのである。コーギー達は彼女の付き添い。
激しい暴行にあったのか、全身アザだらけ。
警察官の話では、酔っ払いグループに「肩がぶつかった」と因縁をつけられ、集団で暴行を受けた結果だと言う話であった。
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