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青木 森

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10.徳義の章_9

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 歩きで定期巡回を行うコースの入り口に車を止めるエミリー―――
 車から降り、警備用のライフルを肩に携えるエミリーとニコラス。
 前をエミリーが警戒して歩き、後ろをニコラスが警戒して歩く。平時のお約束である。
 ひと気の無い巡回コースをしばし歩き、エミリーは額に薄っすらかいた汗を拭い、
「今日も暑いわねぇ」
「だなぁ」
 背後から返るいつもと変わらぬ口調に何の気なし、周辺警戒は怠らず、
「もぅ少し楽をしたいわぁ~。先住民の人達への差別がなくなって彼らの収入が増えたら、私達の仕事も軽減されるのかしらぁ」
 冗談交じりにぼやくと、
「ソイツはどうかな」
 カチャリ!
「え?」
 銃を構え直すような音に振り返り、
「どうして……」
 笑顔であったエミリーの顔は、悲しみに溢れていた。
 彼女の視線の先、
「人間は、欲深い。例え収入が増えたとしても状況は変わらんさぁ」
 平静な顔で銃口を向けるニコラスの姿が。
「悪いな、エミリー。金が要るんだ。国からの予算を減らされ続ける、先細りな「この仕事」に見切りをつけるにはなぁ。密猟者との銃撃のうえ殉職した事になってもらう」
 しかしエミリーは動じた様子を見せなかった。
「…………」
(何故、驚かない……)
 銃口を向けたまま、違和感を感じ始めるニコラス。
 いつ発砲されてもおかしくない状況下、エミリーは悲しみに眉を歪め、
「残念だわぁ、ニコラス……間違いであって欲しいと思っていたの……」
「思っていた? それはどう言う意味だ?」
 怪訝な顔をすると、
「こういう意味でございますですわぁ!」
 物陰からヴァイオレットとコーギー、そしてビデオカメラを構えたエラが姿を現した。
「……なるほどねぇ……」
 口元に自嘲するかのような笑みを浮かべ、銃口を下げるニコラス。もはや逃げも隠れも、言い逃れすら出来ないと悟り、悪びれる様子もなく、
「何故、俺が裏切っていると分かった……」
「最近、密猟者たちが先回りする様な行動が目立っていたから、センターに内通者がいないか三人に調べてもらっていたの」
「それで俺がぁ?」
「銀行口座の入出金記録からスグに判明したわ」
「…………」
 ニコラスは悲し気なエミリーの視線から逃れる様に、コーギー、ヴァイオレット、エラを見回すと、皮肉る様な笑みを浮かべ、
「流石は元女王の番犬、ガーディアンと言ったところかぁ」
 するとカメラを回していたエラは「番犬」と皮肉られた事も含めてか、必要以上に強い口調で、
「貴方にお金を渡して「スパイの真似ごと」をさせていたのは誰なんです! よほど慎重な黒幕らしく、履歴ログからは辿り着けませんでした」
 カメラ越しに責める様な視線を向けたが、
「知らんな」
 悪びれた様子もなく言い放ち、
「何の前触れもなく家に手紙が届いて、前金を振り込んだ事と、密猟取り締まりに関する情報を漏らせば、つど金を振り込むとだけ書いてあった。実際、指定されたメールアドレスに情報を送るたびに金は入って来たからなぁ」
 ひょうひょうと言ってのける元相棒に、悲しみに暮れていたエミリーの表情が一変。
「動物たちを守る「保護管としての誇り」は何処へやってしまったのォ!」
 しかしニコラスはヘラッと薄ら笑いを浮かべ、
「『誇り』だけで飯は食えんよぉ」
「ッ!!」
 一瞬にして怒髪天を突くが如く激昂するエミリー。
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