CLOUD(クラウド)

青木 森

文字の大きさ
上 下
280 / 535

9.黎明の章_10

しおりを挟む
 幼き諍いが一応の決着を迎えつつあった頃、ブリッジにも新たなる風が吹こうとしていた。
『CALLだよぉん♪』
 通信長ナタリーの席のモニタが着信を知らせ、
「艦長ぉ! 暗号化レーザー通信による、コール(呼び出し)っスぅ!」
「うむ。南極基地からか?」
「ハイ、スぅ!」
 気の抜けたナタリーの返答に相反し、ブリッジ内に緊張が走る。
 南極基地を出港して以降、連絡は一度も無かった上に、現行技術において傍受と解読が不可能な、特殊暗号化されたレーザー通信で連絡を送って来たのであるから、クルー達の緊張も当然と言える。
 艦長は気持ちを改める様に帽子を被り直し、
「繋いでくれたまえ」
「了解っス。正面の大型モニタに映すッス」
 固唾を呑み、見つめるブリッジクルー達の前に姿を現したのは、
「艦長、みんな、久しぶり」
 笑顔のマシューであった。
 特徴的であった赤髪のツンツン頭を綺麗に切りそろえ、身なりも綺麗に整え、そこはかとなく大人びた雰囲気を醸し出していた。
 ナクアに代わり、南極基地総司令として働くマシュー。
(立場が人を成長させるのか……)
 懐かしい顔の成長した姿に、艦長は帽子の下で微かな笑みを浮かべたが、凛然とした表情でモニタを見上げ、
「それでマシュー君、秘匿回線を使用してまで連絡をするとは、余ほどの事が起きたのかね?」
 緊張した眼差しを向けたが、
「安心して下さい艦長、緊急事態じゃありません」
 マシューは含んだ所のない笑顔で、
「秘匿回線を使ったのは、あくまで用心の為。クローザーが動き回ってますからねぇ」
「そうか」
 ひと先ずホッした表情を見せる艦長と、ブリッジクルー達。
「マシュー君、艦内クルーにも通信を見せても構わんかね? クルー達も喜ぶと思うのだが」
「構いません。俺も、みんなの顔を見たいし」
 見せた笑顔は、ルークが生きていた頃と変わらない屈託のない、悪ガキのままであった。
 ナタリーは自席の端末を操作し、
「映像回線を、艦内モニタとつなぐっスぅ」
 艦内各所に設けられているモニタ付き通信機に、マシューの姿が映し出され、
「マシューじゃねぇかぁ!」
「アイツ、何を大人ぶってやがんだぁ~」
「ましゅーだぁ! ましゅーだぁ!」
 ムードメーカーだったマシューが見せる懐かしい笑顔に、ソフィアの一件で張り詰め気味であったブリッジ内、そして艦内が温かな空気に包まれる中、
「それでマシュー君、要件は何かね?」
 連絡をして来た目的を改めて尋ねると、
「クローザーが仲間になったそうですね」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
 驚くクルー達。その様な連絡を南極基地に送った経緯は無く、
「良く知っている」
 平静を装う艦長に、マシューは微かな笑みを浮かべ、
「此方でも色々調べてますからねぇ」
「……それで?」
「ナクアが話を聞きたいそうなんで、一度、南極基地に戻って来て欲しいそうなんです」
「話を聞くだけ、でかね?」
 以外そうな顔をすると、マシューは少し奥歯にものが詰まった物言いで、
「い、いやぁ、実はそれだけじゃなく……」
 視線を画面の外に送り、
「ほらぁナク、こっちに来いってぇ。恥ずかしがってても、いつかバレるんだからぁ」
 画面の外に手を伸ばした。
((((((((((はっ、恥ずかしいぃ!?))))))))))
 ナクアとは無縁と思われる言葉に、驚きを隠せないヤマト、ジゼ、マリア、ジャック、シャーロットとガルシアクルー達。
 そんな中、マシューに引かれた「小さなナクアの右手」が画面に一瞬だけ映ったが、左手が伸びて来て、掴む手を無言でパシパシぺちぺち叩き、
「い、痛ぇ! こ、こらぁナク、叩くんじゃねぇよ!」
 大人びた空気は何処へやら、昔と変わらない物言いでナクアの「手だけ攻撃」を受けつつ、
「じゃ、じゃあ、艦長ぉ! 迎えはもう送ったんでぇ、また後で。痛ぇ、痛てぇ! 止めろってナクアぁ、止めろぉってぇ」
 映像はそのまま、なし崩し的に切られた。
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
 映像の消えたモニタを、懐かしい余韻に浸るが如く見つめるブリッジクルー達。
 するとソフィアが、
「大人っぽくなったと思ったのに、昔と変わりませんでしたねぇ、艦長」
「まったくだ」
 以前の様な笑顔を見せ合う二人であったが、ハッと我に返り、再び気まずく視線を逸らし合った。
「「「「「「…………」」」」」」
 そんな二人の融和を、無言で待ちわびるブリッジクルー達。
 しかしそんな時間は、一瞬にして打ち破られた。
 レーダーモニタに突如映し出される大型の何かと、接近を知らせる緊急アラート(警告)。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...