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青木 森

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9.黎明の章_2

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 南端の漁師町と言う事であったが、クルーズ船の寄港地と言う事もあり、町の中は昔ながらのカラフルな木造建築が立ち並ぶも清潔感があり、ビルが乱立する事も無く、都会とはまた違った、穏やかな時間が緩やかに流れている様であった。
 しかし、そこは漁師町。車を降り、港の近くに一歩足を踏み入れれば、漁から戻った漁船から荷降ろしする男達の威勢よい声が轟き、立ち並ぶ朝市の屋台からは活気溢れる口上が飛び交っていた。
 初めて目にした光景に感心し切り、せわしなく右見て、左見て、御上りさん状態で歩くヤマト達。
「凄いねぇ、アリアナちゃん」
 ジゼが傍らに視線を降ろすと、アリアナが居ない。
「アリアナちゃん!?」
 慌てて周囲を見回すと、アリアナは漁師が荷揚げした大きなカニに興味津々。
 屈み込み、食い入る様に見つめていた。
 その愛らしい姿に、海焼けした屈強なオヤジは目じりを下げ、
「お嬢ちゃん、指を出すんじゃねぇぞぉ♪」
「おふぅ?」
「指をちょん切られちまうぞぉ♪」
「!」
 青ざめ後退ると、漁師のオヤジ達は「ガハハ」と大笑い。
 するとそこへ、
「アリアナちゃん! はぐれちゃううよぉ!」
 慌てたジゼが駆け寄ると、漁師のオヤジ達は愉快そうな顔のまま、
「良かったなぁ、嬢ちゃん!」
「嬢ちゃん! 母ちゃんの手を放すんじゃねぇぞぉ!」
(かぁ、かぁちゃぁん!?)
 地味にショックを受けるジゼ。
 打ちひしがれつつ笑顔を絶やさず、オヤジ達に会釈していると、
「いこう、ジゼぇ、みんな、まってるぅ」
 アリアナが手を掴み、複雑な笑顔のジゼを引っ張ると、
「じゃあなぁ、嬢ちゃぁん! あんまり母ちゃんに心配かけんじゃねぇぇぇぞぉ!」
 オヤジ達は満面の笑顔で手を振り、二人を見送った。

 ジゼの手を引き、ヤマト達の下に戻るアリアナ。ジャックは「ケッ」と軽い舌打ちし、
「ガキが、手間取らせてんじゃねぇ」
 悪態吐くと、アリアナは素直に頭を下げ、
「ごめんなちゃい」
 その姿にハートを射貫かれるジャック。しかし表面上、努めて平静を装い、
「つっ、次からはぁ気を付けぇろぉ!」
 照れ顔に、クスクス笑うマリアと、満面の笑顔で、無言で見つめるシャーロット、そしてナヤスはいつもの仄暗い、少しズレたニヤリ顔で、
「ジャックのツンデレ、中々気持ち悪いですねぇ」
「笑顔のキショイテメェが言ってんじゃねぇ!」
 ツッコみ返すジャックに、軽くショックを受けるナヤス。
 そんな気の置けないやり取りを笑って見ていたヤマトは、アリアナの目線まで屈み、
「アリアナは可愛いから、悪い奴が狙ってる。だから連れ去られない様に、ジゼの手をしっかり握ってんるんだぞ」
「かわいい……ウン! わかったぁ!」
 ジゼの手を両手で握り、愛らしい姿にヤマトが目を細め、満足げにウンウン頷いていると、それまで黙っていたジゼが急に、
「ヤマトォ!」
 訴えかける様な必死の眼差しに、
「な、なに!?」
 気おされ思わず後退ると、
「私って幾つに見えるぅうぅ!?」
「へ?」
 唐突な話にキョトンとすると、
「ジゼは、アナのママなんだってぇ。りょうしのオジサンがいってたぁ」
「「「「「…………」」」」」
 一瞬の沈黙の後、
「「「「「アハハハハハハハ!」」」」」
 ヤマト達は大爆笑、しかし勘違いされたジゼは納得いかず、
「笑い事じゃないもん! 私ってぇ、そんなに所帯染みて見えるのぉおぉ!?」
 必死顔に、ジャックは涙目で、
「たっ、確かにオメェは、なりはツインテでガキ臭ぇのに、妙に落ち着いてババくせぇ所はあんよなぁ!」
「酷いよ、ジャック!」
「うふふふふ。大人びて、落ち着いてるって事ですわよぉ、ジゼぇ」
「そんな風に聞こえないよぉ!」
 マリアに不平を訴えると、
「いっそヤマトと三人、本当の家族になったら良いニャ!」
 シャーロットの一声に、ヤマトとジゼが一瞬目を合わせ、気恥ずかしそうに視線を逸らすと、ナヤスがより一層仄暗い顔してシャーロットの背後に仁王立ちし、
「馬鹿姉ぇ、何をとち狂っているのですかぁ。ぶち殺しますよ」
「にゃははは。「ぶち殺す」って言われたにゃ」
 ケタケタ笑う姿を、マリアとジャックが苦笑いで見つめていると、朝市の売り子の威勢の良い掛け声に混じり、
「おぉーーーいっ! そこの兄ちゃん達ぃいぃ! 俺の所の魚を買ってってくれよぉ!」
 漁船の方から、漁師のオヤジに売り込みを掛けられ、
「ケッ、うぜぇ!」
 面倒臭げに悪態吐くジャック。ヤマトは「まぁまぁ」と宥め失笑しつつ、
「ゴメン、オジサン! また今度ぉおぉ!」
 申し訳なさげに手を振ると、
「つれねぇ事を言うなよぉおぉ! 俺とアンタ達の仲だろぉおぉぉ!」
「え?」
 聞き覚えのある声に、改めてよく見ればガルシアサードの操舵長。
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