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青木 森

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8.朋友の章_13

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 時は少しさかのぼり、廃ビルの一室にある、自警団の本部事務所―――
 アントンが幹部たちを前に、襲撃失敗の言い訳を懸命にしていた。
「本当なんですってぇ! あのババァ、よそ者と組んでぇ! しかもソイツ等の武装した車は、バールでブン殴っても傷一つ付かねぇんですよ! そんな連中相手に、下っ端の俺が敵う訳ないじゃないですかぁ!」
「ハッハッハッ! 婆さんに良い様にあしらわれたからって、吹かしてんじゃねよ、アントン!」
「ぎゃはははは、良いからさっさと金取ってこいや、アントンちゃん♪」
「キィシシシシ! 頑張ってぇアントンちゃん!」
 爆笑の中、体よく部屋から追い出された。
 無情に閉ざされた扉を背に、
「全部あのババァのせいだァ!」
 悪態を吐きながら仄暗い廊下の奥の、闇の中へと消えて行く。
 室内では爆笑が続く中、
「団長、今の話どう思います?」
 幹部クラスの一人が、タンクトップを破りそうなほどの大胸筋を持った、ひと際ガタイの良い大男に声を掛けた。
 彼が、メラニー婆ちゃんの話していたアレックスであり、自警団の団長である。
 アレックスはニヤリと笑い、
「アイツ(アントン)は馬鹿だが、嘘を吐く奴じゃねぇ」
「それじぁ……」
「あぁ。壊せねぇ車……面白ぇじゃねぇ~かぁ!」
 すると唐突に、勢いよく扉が開き、
「団長ォ! リアン(マフィア)とこの連中が銀行を襲撃してます!」
 団員が駆け込んで来た。
 勇ましく立ち上がるアレックス。
「メンツを集めて追い払え!」
「ハイ!」
 慌ただしく駆けだそうとすると、
「ただし深追いはするな! 奴らのテリトリーに入ったら、ケガじゃ済まねぇからなぁ!」
 団員は気遣いに感動し、
「分かりましたぁーーー!」
 部屋から飛び出して行った。
(フッ、銀行強盗……ねぇ……)
 不敵な笑みを浮かべるアレックス。

 同時刻ガーディアン本部―――
 先発隊が送って来た資料を、クロエはタブレット端末上でまとめ、
「隊長、先発隊から送らて来た第一報です」
 自席で、複数のモニタを見つめていたルーカスに手渡した。
「うむ」
 タブレット画面で資料内容を確認するなか、
「町の現状は、おおむねエラが報告して来た通りのようです」
「……そのようだな」
 画面をスクロールさせながら確認していくと、クロエが怪訝な表情を浮かべ、
「ただ……」
「?」
「…………」
「何か不審な点があるのか?」
 見上げるルーカスに、
「資料を見る限り、自警団とマフィアのチカラ関係が、均衡し過ぎている印象を受けます」
「何かしらの意図を感じる……と?」
「いえ、すみません出過ぎた事を」
 クロエが頭を下げると、再び資料に目を通し、
「確かに……その事を彼女(エラ)には?」
「いえ、まだ何も」
「ならば、しばらく黙っておこう」
「それはいったい……」
 エラに対する信頼の置き方に、嫉妬心すら覚えるクロエであったが、
「彼女には余計な先入観を持たせず、表立って調べ回ってもらう」
(調べ回ってもらう?)
「なるほどぉ!」
 ルーカスの一言から、思うところを自分なりに察したクロエはパッと明るい表情になり、
「つまりそれは、エラを「囮(おとり)」に注意をそちらに仕向け、先発隊の捜査をカモフラージュすると言う事ですねぇ、隊長ぉ♪」
「た、確かにその通りだが……何故に嬉しそうなのだね?」
 指摘を受け、ハッと我に返るクロエ。誤魔化す様な咳払いをゴホンと一つし、凛然とした表情に戻すと、
「かような事はありません」
 平静を装った。
 エラが「囮扱い」された事で、自分の方が上位と、優越感を感じたのである。
 心の中で、ニヘラと笑うクロエ。
「ところで少尉」
「ハイ、隊長ぉ! 何でありましょうぅ!」
 少々浮足立っていると、
「私は「隊長」ではない」
「し、失礼しましたァ、隊長ォ! あっ……」
「…………」
 もはや何とツッコんで良いのか分からないルーカスであった。

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