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青木 森

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7.岐路の章_39

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 車で北東へ五時間ほど、平坦で広大な痩せ地にある空軍基地―――
 この地域一帯の小・中規模の基地群を統轄する大規模な基地であり、核戦争後の混乱に乗じ、本部の目を盗んで麻薬取引や人身売買などの悪事を働く、悪の親玉である。
 基地の内外を隔てるフェンスが見える物陰に車を止めるヤマト。
 意を決したように、
「ジゼ」
 助手席に振り向き、
「ジゼは、ここでアリアナを守っててくれ」
「え?」
 納得いかない面持ちのジゼ。後部座席のマリアの膝の上で眠るアリアナを見て、
「誰かがアリアナちゃんを守らなきゃだけど……私が、この中で一番弱いから?」
「それは違う」
「なら(実戦経験を積む為にも)……」
 ジゼが口籠ると、
「今回の戦闘は私怨だ。ジゼは、その手で人を殺めた事が無いだろ?」
「!」
 ジゼは父親代わりであり生みの親でもあった、ジョセフ博士の遺した「人を殺めてはいけない」との最期の言葉を、今も守り続けていた。
 ヤマトはその想いを尊重し、今回の作戦から外す事にしたのである。
「普通の人間の命を、たくさん奪う事になりかねない」
「…………」
「身勝手な、キレイごとを言ってると思われるかも知れないけど……ジゼには俺の様に、人の血で染まって欲しくないんだ」
 自嘲したような、穏やかな笑みを見せ、
「ごめん、みんな。そんな訳だから、今回の作戦からジゼを外す」
 後部座席のマリア達に促した。
 今は亡き両親の事を考えてくれていた事に感動し、嬉しそうにヤマトの横顔を見つめジゼの姿に、
「仕方ないですわねぇ~」
 言葉とは裏腹に微笑むマリアと、
「ケッ! 好きにしろやぁ!」
 素直に頷けず、不機嫌を装うジャックに、
「ありがとう二人ともぉ」
 微笑むジゼ。
 何だかんだで付き合いも長くなり、気心の知れた間柄である。
 しかし中にはそうでない者も。
 最後部の座席で、仄暗い顔したナヤスが悔し気にハンカチの端をかじりつつ、
「キィイィィィ!」
 恨めしそうな眼をしてジゼを睨んでいた。
 ジゼに対するヤマトの優しさに、嫉妬していたのである。
(あははははは……)
 心の中で苦笑いするジゼと、状況が理解出来ず、キョトンとするヤマト。
 すると突如、何の前触れも無く、
「シャーロットちゃん! 復活にゃーーーーーー!」
 先程まで顔が見えないくらいうつむき、一言も発していなかったシャーロットが、満面の笑顔で立ち上がり、
「倍返しにゃーーーーーーーーーーーー!」
 車から飛び降りると、フェンスに向かって猪突猛進。走りながら、
「リストォ! ロードにゃ!」
 体の大きさとは不釣り合いな、中世の騎士が持っていたようなランスをクラウドから呼び出し両手で握り、切っ先から青い炎が噴き出し全身を包み込むと、勢いそのままフェンスを突き破り、基地めがけて一直線、定規で線を引いたように突っ込んでいった。
 地域を統轄するほどの能力と規模を持つ基地を襲撃すると言うのに、作戦も何もあった物ではない。
「あの馬鹿姉はァ!」
 慌てて車から飛び降り後を追うナヤスと、今に始まった「考え無しの暴走」ではないのか、呆れ顔して、おっとりがてら後に続くジャック。
 マリアも慌てる様子も無く、眠るアリアナを膝の上からそっと降ろし、お姫様抱っこすると、
「アリアナちゃんをお願いしますわ」
 ジゼに託してジャックの後を追い、ヤマトも、
「俺も行って来る」
「うん。気を付けてね」
 アリアナを抱いたジゼの笑顔を背に、走り出した。

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