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7.岐路の章_27
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数週間後―――
マリアの姿は入国管理局の収容所にあった。
当初、大量殺人の罪で軍から警察へ引き渡されたマリアは黙して何も語らず、拘禁は長引くかに思われた。
しかしマリアの行いを妥当とする圧倒的世論が政治を動かし、世論と政治、そしてマリアが救ったセレブ階級の人々の圧力に遭った警察は四面楚歌で対応に苦慮していたが、マリアにパーソナルデータが無く、身分証を持っていなかった事に着目。それを口実に、不法入国者として即座に入国管理局送りにした。
いわゆる『丸投げ』である。
押し付けられる形となった入国管理局は、当然頭を抱える事になった。
これまでと同様、マリアがいっさい何も話さなかったからである。
長引く拘留に批判が高まる中、強制送還しようにも、どこの誰とも分からない者を送る事は出来ず、まして何も語らない者を移住者として扱う訳にもいかない。
どうしたものかと苦悩する中、彼らの下に救世主が舞い降りた。
「入りなさい」
職員に促され、面談室へ入るマリア。
「…………」
仕切られた強化ガラスの向こうには、見覚えのある顔が二つ並んでいた。
「やぁ、こうして直接会うのは初めてだね。私達の事は覚えているかな?」
「…………」
笑顔のミスターウィルソンに小さく頷いて見せ、席に座るマリア。
「(黙秘して)職員達を困らせているらしいねぇ」
からかう様な笑みを浮かべるも、
「…………」
マリアは応えず無表情。
ウィルソン夫妻は困った笑顔を見合わせ、
「そこで、私達からの提案だ」
「?」
「私達の養女にならないかい?」
「!?」
笑顔の申し出に、ギョッとするマリアはおずおすと、
「素性の知れないわたくしを養女にして、貴方方に何の得がありますのぉ……?」
「やっと話してくれたぁ」
ミスターウィルソンは嬉しそうな笑顔を見せ、
「交換条件さぁ」
「交換条件?」
「なぁに難しい話じゃない。私達は上院議員をしていてね、次も当選するには支持票がいる。君がココを出るには身元引受人が必要で、私達は君を娘にすれば国民から圧倒的支持票が得られる。お互いに損はない話だと思うんだけどねぇ~」
にこやかなウィルソン夫妻に対し、マリアは硬い表情を崩さず、
「理屈は分かりましたわ。ですがわたくしは、身の上を明かすつもりはありませんですわ」
「構いませんわぁ」
憂い無く微笑むミセスウィルソンと、
「記憶を失くした事にでもしておけば、良いんじゃないかい?」
軽やかに笑って見せるミスターウィルソン。
「あ、貴方方はそれで構いませんですの?」
戸惑うマリアを前に、ミスターウィルソンは小さな笑みを浮かべ、
「ここから先の話は私の勝手な妄想、独り言だから、笑ってくれて構わないよ」
「?」
「あの船のセキュリティーは万全で、外部から不審者が侵入するとスグに分かるようになっていてね、乗員、乗客全てのデータも管理されていた。なのに君のデータだけは、どれだけ探しても出てこなかった」
「…………」
「その話を念頭に置いた上で不思議なのが、好事家があの船に乗せていた棺型のオーパーツさ」
「!」
「聞いた話によると、外見は普通の石棺なのに、どんな物理的外力にも破損する事無く、またMRIやエックス線などの透過装置でも中身を確認する事が出来なかったそうなんだ。それがあの事故後、保管庫を調べてみたら石棺は壊れ、中身は空だったそうなんだ」
(この方達は……)
顔や態度には出さず、心で身構えるマリアに、
「そうそう、君が横たわるには丁度良い大きさだよねぇ~」
(騒ぐつもりはありませんでしが……この二人は危険ですわぁ! 二人を消し、この施設も破壊して逃走を)
腹を括った途端、
「イタズラもほどほどになさってぇ」
ミセスウィルソンが、夫を笑顔でたしなめた。
「ごめんごめん、彼女の反応が可愛くて、つい」
(え?)
照れ笑いに、毒気を抜かれるマリア。
ミスターウィルソンは笑顔で小さく一呼吸置き、
「君が何者だって構わないさ。私達夫婦は、君の事が気に入ったんだ。信用出来ないならそれでも良いよ。先ほども言った通り、交換条件と思って私達を利用すれば良い」
二人の笑顔に、嘘は感じられなかった。
※ ※ ※
「それからわたくしは二人の申し出を受け入れ、娘となりましたの。お二人はわたくしを実の娘の様に、いえそれ以上に本当に大切に育てて下さいましたわぁ。学校にも行かせていただいて、ご学友まで出来て……」
懐かしみ、笑みを浮かべて語るマリア。
「わたくしは大学卒業と同時に、当時、情勢不安を背景に新設された、警察のフットワークの軽さと、軍の戦闘力兼ね備えた特殊部隊に、両親を説得して入隊しましたの。わたくしを受け入れてくれた、この国の方々に少しでも恩返ししたいと……」
しかし微笑んでいたマリアの顔は、急激に不機嫌になっていき、
「そこであの男、ウィリアムに出会い、コンビを組むことになりましたの……言っておきますが当時はまともな取締官でしたのよぉ。それがまさか、あんな闇を抱えた男でしたとはぁ……」
ため息交じりに嘆くと、ジャックが「ケッケッケッ」と小馬鹿にした笑いをし、
「オマエを貶めようとした『カート・ブラウン』だったかぁ~? アイツの事も含め、テメェはつくづく「男運」がねぇんだよぉ。残念だったなぁ~」
愉快そうに笑うジャック。
((見事なブーメランだ……))
呆れたジト目で見つめるヤマトとジゼ。
すると二人の意図する所を感じ取ったジャックは、
「こ、コッチ見てんじゃねぇ! 俺は関係ねぇだろうがぁ!」
八つ当たり気味に逆切れ。
その姿に、マリアも物言いたげな表情で大きなため息。
「て、テメェも、コッチ向いてため息吐いてんじゃねぇぞ! コラァ! 死神ィ! 何か文句でもあるのかぁ!」
ただただ喚き散らすジャックであった。
その頃、ガルシアサードは新たな仲間となるスティーラーの情報を求め、アフリカ大陸に進路を取っていたが、そちらでも問題が発生していた。
マリアの姿は入国管理局の収容所にあった。
当初、大量殺人の罪で軍から警察へ引き渡されたマリアは黙して何も語らず、拘禁は長引くかに思われた。
しかしマリアの行いを妥当とする圧倒的世論が政治を動かし、世論と政治、そしてマリアが救ったセレブ階級の人々の圧力に遭った警察は四面楚歌で対応に苦慮していたが、マリアにパーソナルデータが無く、身分証を持っていなかった事に着目。それを口実に、不法入国者として即座に入国管理局送りにした。
いわゆる『丸投げ』である。
押し付けられる形となった入国管理局は、当然頭を抱える事になった。
これまでと同様、マリアがいっさい何も話さなかったからである。
長引く拘留に批判が高まる中、強制送還しようにも、どこの誰とも分からない者を送る事は出来ず、まして何も語らない者を移住者として扱う訳にもいかない。
どうしたものかと苦悩する中、彼らの下に救世主が舞い降りた。
「入りなさい」
職員に促され、面談室へ入るマリア。
「…………」
仕切られた強化ガラスの向こうには、見覚えのある顔が二つ並んでいた。
「やぁ、こうして直接会うのは初めてだね。私達の事は覚えているかな?」
「…………」
笑顔のミスターウィルソンに小さく頷いて見せ、席に座るマリア。
「(黙秘して)職員達を困らせているらしいねぇ」
からかう様な笑みを浮かべるも、
「…………」
マリアは応えず無表情。
ウィルソン夫妻は困った笑顔を見合わせ、
「そこで、私達からの提案だ」
「?」
「私達の養女にならないかい?」
「!?」
笑顔の申し出に、ギョッとするマリアはおずおすと、
「素性の知れないわたくしを養女にして、貴方方に何の得がありますのぉ……?」
「やっと話してくれたぁ」
ミスターウィルソンは嬉しそうな笑顔を見せ、
「交換条件さぁ」
「交換条件?」
「なぁに難しい話じゃない。私達は上院議員をしていてね、次も当選するには支持票がいる。君がココを出るには身元引受人が必要で、私達は君を娘にすれば国民から圧倒的支持票が得られる。お互いに損はない話だと思うんだけどねぇ~」
にこやかなウィルソン夫妻に対し、マリアは硬い表情を崩さず、
「理屈は分かりましたわ。ですがわたくしは、身の上を明かすつもりはありませんですわ」
「構いませんわぁ」
憂い無く微笑むミセスウィルソンと、
「記憶を失くした事にでもしておけば、良いんじゃないかい?」
軽やかに笑って見せるミスターウィルソン。
「あ、貴方方はそれで構いませんですの?」
戸惑うマリアを前に、ミスターウィルソンは小さな笑みを浮かべ、
「ここから先の話は私の勝手な妄想、独り言だから、笑ってくれて構わないよ」
「?」
「あの船のセキュリティーは万全で、外部から不審者が侵入するとスグに分かるようになっていてね、乗員、乗客全てのデータも管理されていた。なのに君のデータだけは、どれだけ探しても出てこなかった」
「…………」
「その話を念頭に置いた上で不思議なのが、好事家があの船に乗せていた棺型のオーパーツさ」
「!」
「聞いた話によると、外見は普通の石棺なのに、どんな物理的外力にも破損する事無く、またMRIやエックス線などの透過装置でも中身を確認する事が出来なかったそうなんだ。それがあの事故後、保管庫を調べてみたら石棺は壊れ、中身は空だったそうなんだ」
(この方達は……)
顔や態度には出さず、心で身構えるマリアに、
「そうそう、君が横たわるには丁度良い大きさだよねぇ~」
(騒ぐつもりはありませんでしが……この二人は危険ですわぁ! 二人を消し、この施設も破壊して逃走を)
腹を括った途端、
「イタズラもほどほどになさってぇ」
ミセスウィルソンが、夫を笑顔でたしなめた。
「ごめんごめん、彼女の反応が可愛くて、つい」
(え?)
照れ笑いに、毒気を抜かれるマリア。
ミスターウィルソンは笑顔で小さく一呼吸置き、
「君が何者だって構わないさ。私達夫婦は、君の事が気に入ったんだ。信用出来ないならそれでも良いよ。先ほども言った通り、交換条件と思って私達を利用すれば良い」
二人の笑顔に、嘘は感じられなかった。
※ ※ ※
「それからわたくしは二人の申し出を受け入れ、娘となりましたの。お二人はわたくしを実の娘の様に、いえそれ以上に本当に大切に育てて下さいましたわぁ。学校にも行かせていただいて、ご学友まで出来て……」
懐かしみ、笑みを浮かべて語るマリア。
「わたくしは大学卒業と同時に、当時、情勢不安を背景に新設された、警察のフットワークの軽さと、軍の戦闘力兼ね備えた特殊部隊に、両親を説得して入隊しましたの。わたくしを受け入れてくれた、この国の方々に少しでも恩返ししたいと……」
しかし微笑んでいたマリアの顔は、急激に不機嫌になっていき、
「そこであの男、ウィリアムに出会い、コンビを組むことになりましたの……言っておきますが当時はまともな取締官でしたのよぉ。それがまさか、あんな闇を抱えた男でしたとはぁ……」
ため息交じりに嘆くと、ジャックが「ケッケッケッ」と小馬鹿にした笑いをし、
「オマエを貶めようとした『カート・ブラウン』だったかぁ~? アイツの事も含め、テメェはつくづく「男運」がねぇんだよぉ。残念だったなぁ~」
愉快そうに笑うジャック。
((見事なブーメランだ……))
呆れたジト目で見つめるヤマトとジゼ。
すると二人の意図する所を感じ取ったジャックは、
「こ、コッチ見てんじゃねぇ! 俺は関係ねぇだろうがぁ!」
八つ当たり気味に逆切れ。
その姿に、マリアも物言いたげな表情で大きなため息。
「て、テメェも、コッチ向いてため息吐いてんじゃねぇぞ! コラァ! 死神ィ! 何か文句でもあるのかぁ!」
ただただ喚き散らすジャックであった。
その頃、ガルシアサードは新たな仲間となるスティーラーの情報を求め、アフリカ大陸に進路を取っていたが、そちらでも問題が発生していた。
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