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7.岐路の章_21
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いったいどれ程の時間が経過したであろうか。
徐々に下がる水位と共に、三百メートルを超える船底はゆっくり地面に近づき―――船は隣接するビルをつっかえ棒にして、壊滅した町のアスファルトに静かに船底を着けた。
「終わったぁ~~~~~~~~~」
腹の奥から安堵の声を漏らす操舵長。全身汗だく、疲労困憊の顔。
しかしマリアは休む事なく、いつの間に、スポンサーの男と共に柱へ括り付けた船長を激しく揺さぶり、
「船長さん! 船長さん! 動けるスタッフに船内への出入り口の警備と、食糧庫の警備を指示して下さいですわ! それと怪我人の手当ても!」
「出入り口と、倉庫の警備? 総出で「怪我人の手当て」と「現状把握」をすべきでは?」
転覆の危機を脱し、緊張の糸が切れかかっているのか、若干呆け気味の船長。
その考えはブリッジクルー達も同様だったようで、
「警備は後回しで良いんじゃないですかぁ?」
誰かが気の抜けた声を上げると、
「この船は豪華客船なのでしょ! モタモタしていますと、忌むべき最悪の、本当の敵が来てしまいますわァ!」
((((((((((略奪者か!))))))))))
マリアの一喝に、ハッとする船長やブリッジクルー達。
災害時、ここぞとばかりに現れる、非情な「ならず者」達である。
略奪する事しか頭にない彼等彼女等に、道理の一切は通用しない。
船長はすぐさま立ち上がり、
「機関長! 電源は!」
「生きてます! 蓄電池は現在フルの状態です!」
船長はヘッドセットを手に取ると、
「食糧庫の警備員はそのまま警備を続行! 全男性スタッフは他の警備員と共に武器を携行し、外と繋がる全ての入り口をロック! 施錠しきれない箇所はバリケードを作り、救助が来るまで不要な輩の侵入を絶対に許すなァ!」
『食糧庫担当、了解!』
『客室担当、了解!』
『巡回班、了解!』
続々と、各部署の担当者から元気な返事が返った。
マリアの船内放送を真摯に受け止め、身の安全を確保していたようである。
一通り返事が返ると船長は続けざま、
「女性クルーは、船内の状況把握と怪我人の手当てを!」
小さく一息つくと、傍らに立つマリアを、尊崇の念を以って見つめ、
「アナタは、いったいどれ程先を見越しておいでなのですか?」
微笑むマリアは賛辞を誇示する素振りも見せず、
「それより万が一に備え、幼児、女性、高齢の方には船内中央に集まっていただいた上で負傷者の手当の手伝いのご依頼を、それと動ける男性の方には警備のお手伝いをお願いしませんと、救助が来るまでクルーの方の体がもちませんわぁ」
「た、確かに……」
船長は一考し、
「副長! 今の話を各クルーに通達! それと救難信号を! 通信員は無線で救助の呼び掛けを続ける様に!」
「分かりました!」
「了解です!」
返る声に船長は頷き、
「何か他に気付いた事はありますか? ミス……」
振り返ったそこに、マリアの姿はなかった。
「彼女は?」
首を横に振るブリッジクルー達。
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
キツネにつままれた様な面持ちで、周囲を見回した。
徐々に下がる水位と共に、三百メートルを超える船底はゆっくり地面に近づき―――船は隣接するビルをつっかえ棒にして、壊滅した町のアスファルトに静かに船底を着けた。
「終わったぁ~~~~~~~~~」
腹の奥から安堵の声を漏らす操舵長。全身汗だく、疲労困憊の顔。
しかしマリアは休む事なく、いつの間に、スポンサーの男と共に柱へ括り付けた船長を激しく揺さぶり、
「船長さん! 船長さん! 動けるスタッフに船内への出入り口の警備と、食糧庫の警備を指示して下さいですわ! それと怪我人の手当ても!」
「出入り口と、倉庫の警備? 総出で「怪我人の手当て」と「現状把握」をすべきでは?」
転覆の危機を脱し、緊張の糸が切れかかっているのか、若干呆け気味の船長。
その考えはブリッジクルー達も同様だったようで、
「警備は後回しで良いんじゃないですかぁ?」
誰かが気の抜けた声を上げると、
「この船は豪華客船なのでしょ! モタモタしていますと、忌むべき最悪の、本当の敵が来てしまいますわァ!」
((((((((((略奪者か!))))))))))
マリアの一喝に、ハッとする船長やブリッジクルー達。
災害時、ここぞとばかりに現れる、非情な「ならず者」達である。
略奪する事しか頭にない彼等彼女等に、道理の一切は通用しない。
船長はすぐさま立ち上がり、
「機関長! 電源は!」
「生きてます! 蓄電池は現在フルの状態です!」
船長はヘッドセットを手に取ると、
「食糧庫の警備員はそのまま警備を続行! 全男性スタッフは他の警備員と共に武器を携行し、外と繋がる全ての入り口をロック! 施錠しきれない箇所はバリケードを作り、救助が来るまで不要な輩の侵入を絶対に許すなァ!」
『食糧庫担当、了解!』
『客室担当、了解!』
『巡回班、了解!』
続々と、各部署の担当者から元気な返事が返った。
マリアの船内放送を真摯に受け止め、身の安全を確保していたようである。
一通り返事が返ると船長は続けざま、
「女性クルーは、船内の状況把握と怪我人の手当てを!」
小さく一息つくと、傍らに立つマリアを、尊崇の念を以って見つめ、
「アナタは、いったいどれ程先を見越しておいでなのですか?」
微笑むマリアは賛辞を誇示する素振りも見せず、
「それより万が一に備え、幼児、女性、高齢の方には船内中央に集まっていただいた上で負傷者の手当の手伝いのご依頼を、それと動ける男性の方には警備のお手伝いをお願いしませんと、救助が来るまでクルーの方の体がもちませんわぁ」
「た、確かに……」
船長は一考し、
「副長! 今の話を各クルーに通達! それと救難信号を! 通信員は無線で救助の呼び掛けを続ける様に!」
「分かりました!」
「了解です!」
返る声に船長は頷き、
「何か他に気付いた事はありますか? ミス……」
振り返ったそこに、マリアの姿はなかった。
「彼女は?」
首を横に振るブリッジクルー達。
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
キツネにつままれた様な面持ちで、周囲を見回した。
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