188 / 535
6.聞知と修練の章-8
しおりを挟む
どれ位の時間が経ったであろうか、
(ひ、酷い目に遭いましたですわぁ……)
ヴァイオレットが薄目を開けると、
「大丈夫ですかぁ!?」
目の前に、空を背にして見下ろすコーギーの不安気な顔があった。
(コーギー……)
次第に意識がハッキリしてくると、後頭部に柔らかく、ほのかな温もりが。
それはヴァイオレットが膝枕されている光景に他ならず、
(町なかで殿方にぃ!?)
恥ずかしさから半身飛び起きるも、頭がクラリ。
「あぁ……」
貧血でも起こしたかの様に、フラフラと再びコーギーの膝の上。
もはや起き上がる事も出来ず、
「ふ、不本意でございますですわぁ……あたくし……動けませんですのぉ……」
「いきなり無茶するからぁ」
呆れ笑いのコーギーに、
「こ、公衆の面前で、殿方に膝枕……あたくし……ハレンチ女でございますですわぁ……」
両手で顔を隠すと、
「人目につかないベンチを選んだから大丈夫ですよぉ」
「……本当……ですの……?」
指の隙間からそっと周囲を窺うと確かに周囲に人影は無く、まばらに樹木が立っている事から、公園の様である。
一先ずホッとするヴァイオレットであったが、
「そ、それでも未婚の女子が殿方の膝枕なんて、恥ずかしいんでございますですのぉ!」
ツンと、横向いた。
クスリと小さく笑うコーギー。
「それだけ元気なら大丈夫ですねぇ」
「まったく……酷い目に遭いましたでございますですわぁ」
「あははは、あの悪乗りさえ無ければ、イイ人なんですけどねぇ。コレ、お詫びの品だって」
二人分のドリンクとデザートを、横たわるヴァイオレットに見える様に差し出すと、
「うっ……」
露骨な警戒顔。
「そ、それは……大丈夫なんですわよねぇ……」
「定番の人気商品だから大丈夫ですよ。新作だけ、ヘンなスイッチが入っちゃうみたいなんです」
するとヴァイオレットは横になったまま、少し赤い顔しておずおずと、
「その……あ、あたくし、まだ起き上がれませんで……」
コーギーは飲ませて欲しい事を察しつつ、イタズラっぽい笑みを浮かべ、
「飲ませて欲しいんですか? 膝枕より恥ずかしい姿ですよねぇ?」
「う、動けないのですから仕方ないではありませんかぁ!」
「あははは、冗談ですよぉ。ハイ、どうぞぉ」
ストローを口元まで差し出すと、
「ま、まったくぅ」
憤慨しつつストローにパクリ。
唐辛子でヒリつく口の中に、芳しい紅茶の香りが広がった。
「落ち着きますですわぁ~~~これは昨日のレディ・グレイと違いスッキリめの紅茶ですのねぇ」
「『イングリッシュブレックファースト』です。オジサンが選んでくれた物ですよ」
「うふふ。腕は確かの様ですわねぇ」
二人は顔を見合わせ、思わず吹き出した。
人けが無く、都会の喧騒とも無縁な公園の昼下がり。
ヴァイオレットは池の対岸を見つめて、ゆっくり起き上がり、
「こんな時間も、悪くないですわねぇ……」
「ですね……」
「(こんな時間が)ずっと続けば良いですのに……」
遠い何かを見つめる目をすると、コーギーが改まった口調で、
「あ、あの……ヴァイオレット……」
「何ですの?」
何の気なしに振り向くと、
「ヴァイオレットの行こうとしてる「アジア」って、もしかして……「西アジア」……」
「!?」
ギョッとするヴァイオレット。
「「…………」」
しばし無言で見つめ合う二人。
(貴方も「クローザー」ですの?)
(君も「クローザー」なの?)
口に出してしまえば穏やかな今が壊れてしまいそうで、二人は何も言えなかった。
(ど、どうしましょう……あたくし、何を言えば良いのか……)
返す言葉が見つからず思わず視線を逸らすと、コーギーがおもむろに立ち上がり背を向け、
「帰りましょうか?」
「え……」
(どこへですの……まさか、あたくし達の「果たすべき務め」に……)
思わず不安気な顔して向けられた背中を見つめると、コーギーが笑顔で振り返り、
「僕達の家に、ですよぉ!」
右手を差し出し、ヴァイオレットは笑顔を弾けさせ、
「はい!」
手を取り立ち上がった。
しかしその頃、二人の住むアパートの周囲には、物陰から建物の様子を窺う幾つもの人影が。
不穏な空気は足音も無く、二人の「ひと時の穏やかな生活」に迫りつつあった。
(ひ、酷い目に遭いましたですわぁ……)
ヴァイオレットが薄目を開けると、
「大丈夫ですかぁ!?」
目の前に、空を背にして見下ろすコーギーの不安気な顔があった。
(コーギー……)
次第に意識がハッキリしてくると、後頭部に柔らかく、ほのかな温もりが。
それはヴァイオレットが膝枕されている光景に他ならず、
(町なかで殿方にぃ!?)
恥ずかしさから半身飛び起きるも、頭がクラリ。
「あぁ……」
貧血でも起こしたかの様に、フラフラと再びコーギーの膝の上。
もはや起き上がる事も出来ず、
「ふ、不本意でございますですわぁ……あたくし……動けませんですのぉ……」
「いきなり無茶するからぁ」
呆れ笑いのコーギーに、
「こ、公衆の面前で、殿方に膝枕……あたくし……ハレンチ女でございますですわぁ……」
両手で顔を隠すと、
「人目につかないベンチを選んだから大丈夫ですよぉ」
「……本当……ですの……?」
指の隙間からそっと周囲を窺うと確かに周囲に人影は無く、まばらに樹木が立っている事から、公園の様である。
一先ずホッとするヴァイオレットであったが、
「そ、それでも未婚の女子が殿方の膝枕なんて、恥ずかしいんでございますですのぉ!」
ツンと、横向いた。
クスリと小さく笑うコーギー。
「それだけ元気なら大丈夫ですねぇ」
「まったく……酷い目に遭いましたでございますですわぁ」
「あははは、あの悪乗りさえ無ければ、イイ人なんですけどねぇ。コレ、お詫びの品だって」
二人分のドリンクとデザートを、横たわるヴァイオレットに見える様に差し出すと、
「うっ……」
露骨な警戒顔。
「そ、それは……大丈夫なんですわよねぇ……」
「定番の人気商品だから大丈夫ですよ。新作だけ、ヘンなスイッチが入っちゃうみたいなんです」
するとヴァイオレットは横になったまま、少し赤い顔しておずおずと、
「その……あ、あたくし、まだ起き上がれませんで……」
コーギーは飲ませて欲しい事を察しつつ、イタズラっぽい笑みを浮かべ、
「飲ませて欲しいんですか? 膝枕より恥ずかしい姿ですよねぇ?」
「う、動けないのですから仕方ないではありませんかぁ!」
「あははは、冗談ですよぉ。ハイ、どうぞぉ」
ストローを口元まで差し出すと、
「ま、まったくぅ」
憤慨しつつストローにパクリ。
唐辛子でヒリつく口の中に、芳しい紅茶の香りが広がった。
「落ち着きますですわぁ~~~これは昨日のレディ・グレイと違いスッキリめの紅茶ですのねぇ」
「『イングリッシュブレックファースト』です。オジサンが選んでくれた物ですよ」
「うふふ。腕は確かの様ですわねぇ」
二人は顔を見合わせ、思わず吹き出した。
人けが無く、都会の喧騒とも無縁な公園の昼下がり。
ヴァイオレットは池の対岸を見つめて、ゆっくり起き上がり、
「こんな時間も、悪くないですわねぇ……」
「ですね……」
「(こんな時間が)ずっと続けば良いですのに……」
遠い何かを見つめる目をすると、コーギーが改まった口調で、
「あ、あの……ヴァイオレット……」
「何ですの?」
何の気なしに振り向くと、
「ヴァイオレットの行こうとしてる「アジア」って、もしかして……「西アジア」……」
「!?」
ギョッとするヴァイオレット。
「「…………」」
しばし無言で見つめ合う二人。
(貴方も「クローザー」ですの?)
(君も「クローザー」なの?)
口に出してしまえば穏やかな今が壊れてしまいそうで、二人は何も言えなかった。
(ど、どうしましょう……あたくし、何を言えば良いのか……)
返す言葉が見つからず思わず視線を逸らすと、コーギーがおもむろに立ち上がり背を向け、
「帰りましょうか?」
「え……」
(どこへですの……まさか、あたくし達の「果たすべき務め」に……)
思わず不安気な顔して向けられた背中を見つめると、コーギーが笑顔で振り返り、
「僕達の家に、ですよぉ!」
右手を差し出し、ヴァイオレットは笑顔を弾けさせ、
「はい!」
手を取り立ち上がった。
しかしその頃、二人の住むアパートの周囲には、物陰から建物の様子を窺う幾つもの人影が。
不穏な空気は足音も無く、二人の「ひと時の穏やかな生活」に迫りつつあった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる