CLOUD(クラウド)

青木 森

文字の大きさ
上 下
178 / 535

5.愁嘆の大地の章-66

しおりを挟む
 両手にレイピアを持つ者同士、合わせ鏡の様に対峙する二人。
 二人の間に、静寂と言う名の緊張が走った次の瞬間、
「行きますですわよ、御姉様ァ!」
 ナムクスの左の切っ先が一瞬のうちに鼻先数センチ。
(はっ、早いですわ!!)
 咄嗟に半身逸らしつつ、右で弾くマリア。
「遅いでございますですわねぇ、御姉様ァ!」
 弾いた左のレイピアは一瞬にして戻り、そこから高速の連突き。
「クッ!」
 逸らし、弾き、受け流し、辛うじて致命傷をしのぐも、止まらぬ矢の様な連突きに、勝負服のピンクドレスごと徐々に削られて行くマリア。
 距離とタイミングを計る為の左の連突きの後に「止めの右が来る」と分かっていても、左の連突きを処理するので精いっぱい。
 左の攻撃は徐々に精度を増して行き、
(なんて厄介な攻撃でございますのぉ! わたくしを敵に回していた方々は、こんな攻撃を……)
 自嘲気味に苦笑いすると、
「回転を上げますですわよぉ、御姉様ァ!」
「なっ!?」
 驚く間もなく、連撃の速度と精度は更に鋭さを増し、
(だ、ダメですわぁ……もう……限界……)
 ナムクスの攻撃がマリアの捌きを凌駕した途端、
 ドスドスドスドスドスッ!
 マリアの細身に切っ先が幾度となく突き刺さり、
「キャ!」
 堪らずマリアは大きくバックステップ。
 追撃するナムクスが狂気じみた笑みを以て、
「終わりでございまですわぁ、御姉様ァ!」
 止めの「右の一撃」をマリアの心臓目がけて放ち、切っ先が、今正に、マリアの豊かな胸を貫こうかと言うその刹那、
「!」
 ナムクスは咄嗟に身を翻し、大きく飛び退いた。
 剣風逆巻き空を切る大鎌。
 マリアは倒れかけた背を何者かに抱き支えられ、少し照れ臭そうに、
「よ、余計なお世話でございますわぁ。ここから、わたくしの「華麗な逆転劇」をお見せしたモノを」
「ほざけぇ、ジリ貧がぁ」
 支えたのはジャックであった。
「相変わらず「可愛げのねぇ女」だぜぇ。強がる余裕あんなら、サッサとテメェで立てや!」
「あらぁ? 「可愛げのある」わたくしの方がよろしくてぇ?」
「ケぇ。寒気がするぜぇ」
 優位性が逆転した訳でもない中、ニヤリと笑い合うマリアは、ジャックの腕から幾分ダメージを感じさせながらも立ち上がり、
「なら、よろしいのではなくてぇ?」
「ケッ。言ってろぉ」
 二人の気の置けないやり取りに、ナムクスはギリギリ奥歯を噛み鳴らし、
「イチャついてんじゃねぇよ!」
「「誰がイチャついて(んだ・ますの)!」」
「黙れぇ! 一人が二人になった所で所詮スティーラー! 大した問題じゃねぇよ!」
 言葉遣いが激変したナムクスにジャックはニヤリ。
「お上品な言葉遣いはどうした! 腐った性根と同じ下品が、すっかり顔出してんじゃねぇかヒス女ァ!」
 小馬鹿にした顔を見せたが、急に両眼をギラリと光らせ怒り満面、
「姉にエモノ向けて、はしゃいでんじゃねぇぞ、カスがァ!」
「貴方のソレ(発言)、見事なブーメランですわぇね、ジャック」
「う、うっせぇ、死神ぃ! 背中から撃つマネ言ってんじゃねぇ!」
「きゃあぁ、怖いですわぁ♪」
 憤慨するジャックに、おどけて見せるマリア。
 見ようによっては、町で見かけるバカップル。
「蚊帳の外」状態のナムクスは、怒りでワナワナ打ち震え、
「シカトしてんじゃねぇわよぉ!」
 地面を激しく蹴り飛び、ジャックとマリアとの距離を一瞬にして縮め、
「死に晒せぇーーー!」
 醜く歪んだイキ顔で、両手のレイピアの切っ先を二人目がけて振り下ろした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

我慢できないっ

滴石雫
大衆娯楽
我慢できないショートなお話

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...