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5.愁嘆の大地の章-62

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 即座にうつ伏せる、ナクアとマシュー、そしてヤマト達。
「何してるルークッ! 伏せろ!」
 マシューが叫ぶも、続けて鳴り響く数発の銃声と、数限りなく戦場で耳にした不快な着弾音。粘土にビー玉をぶつけた様な音。
「「ルークッ!?」」
 ドサァ!
 うつ伏せたナクアとマシューの目の前に、血と銃創にまみれたルークの躯体が倒れ、微かな雪煙を上げた。
「ルゥーーークッ!」
 悲痛なマシューの叫びに、うつ伏せたまま振り返るヤマト達。
「ルークが撃たれただとォ!」
 ジャックは青いフィールドを展開して駆けつけ、
「トロ助がァ! テメェ何してやがるぅ!」
 マズルフラッシュ(射撃時に銃口が光る発火炎)に向けて構え盾となり、ヤマトもフィールドを展開して二重の盾となり、
「ジゼェ! ルークを診てやってぇ!」
「分かった!」
 ジゼが頭を低くしてルークの下へにじり寄ると、ナクアは傍らで真っ青な顔して頭を抱え、パニック状態。
 目の焦点すら合わずに打ち震える姿に、ジゼはナクアの精神状態に危機感を覚え、
「マリア! ナクアをお願い!」
「分かりましたわ!」
 マリアも頭を低くしナクアの下へ身を寄せると、震えて身を縮めるナクアを抱きかかえ、
「しっかりなさい、ナクア! スティーラーの貴方が動じてどうしますのォ!」
 奮起を促すも、震えるナクアの耳にマリアの声は届かない。
 ジャックは苦々し気に舌打ち、肩越しチラリと振り返り、
「ケッ! 余計な時だけ感情出しやがって使えねぇ! ルークゥ! テメェは勝手に死ぬんじゃねぇぞォ!」
 ジャックなりの気遣いを見せると、ヤマトが敵の気配を察知、
「ジャック! 左から来る!」
「チッ!」
 闇夜の中を、場所を変えながら飛んでくる銃弾をフィールドで弾く。
 多量の血を流し震えるルークの傍ら、マシューはルークの途切れそうになる意識を繋ぎ止めようと、
「ルークゥ! ロン毛ぇ! 俺の顔をしっかり見やがれ!」
「どいてマシュー! 診れない! 艦長達に無線で連絡してぇ!」
「ジゼぇ! トロ助はどうなんだァ!」
「ジゼぇ! どう!?」
「黙ってて! 気が散る!」
 ジゼの眼の前には、虫の息で横たわるルーク。
 目の焦点は既に合わず、震えるルークは、
「……さ、さみいぃよ……何だ、これ……俺……撃たれ、」
「いいから黙って、ジッとしてぇ!」
 顔色を見ただけでも分かる、急速に悪化の一途をたどるルークの容態。
 しかし一刻を争う中、厚着の上からでは傷も確認出来ず、
(ダメ、これじゃ分からない!)
「マリア、お願い! フィールドを展開して冷気を遮断してぇ! これじゃ上着を脱がせられない!」
「分かりましたわぁ! マシューッ! ナクアを!」
「マリア、急いでぇ!」
 せかすジゼに、マリアはマシューにナクアを託し、フィールドを球形状に急展開。
 ヤマトとジャック以外、自身も含めてフィールドで包み込み、
「しっかりなさい、ナクア! ルークの命がかかっておりますのよぉ!」
 しかしナクアは小さな両手で頭を抱え、青い顔して震えるばかり。
 ヤマトは見えない敵に動きを封じられている現状を打破すべく腹を括り、
「ジャック! みんなを頼むよ!」
 得体の知れない敵に立ち向かおうとすると、
「ちげぇだろ、ヤマトォ!」
 ジャックがヤマトを制し、
「行くなら俺だぁ!」
「なっ!?」
「相手はクローザーかも知れねぇのに、腰巾着(シセ)にも勝てねぇレベルの今のテメェが行って、何が出来る?」
「クッ……」
 格闘のトレーニングの時でさえ、スティーラーでもないシセから一度も勝ちを取った事が無いヤマトは、返す言葉が無かった。
「行って来るぜ」
 フィールドを展開しつつ、闇夜の雪原の中へ消えて行くジャックと、その背を悔し気に見つめるヤマト。
 急くジゼは、ルークの分厚い上着を裂く様に脱がせながら、
「マシュ! ナクア! 二人でルークに声を掛け続けて意識を繋ぎ止めてぇ! 早く!」
「わっ、分かってる!」
 マシューはナクアの両肩を掴み、
「二人でルークを助けんだぁ!」
 あお向ける事しか出来ないルークの視界に二人で入る様に屈み、
「ロン毛ぇ! テメェ、俺等と三人で世界を旅すんだろォ! 約束をフラグにして、回収しようとしてんじゃねぇ!」
「る、るぅ……くぅ……」
 とめどなく大粒の涙をこぼすナクア。
 初めて見るナクアの涙に、ルークは途切れ途切れ、
「な……泣くな……よ……ナクア……」
 今にもこと切れそうな、微かな困り笑いを浮かべ、呼気も荒く、
「ジゼぇ! ルークはどうなんだよ! (医療に)詳しんだろぉ! 俺の相棒を何とかしてくれぇ! 何でもするから頼むよォ!」
 涙を堪え必死に懇願するマシュー。
 しかしルークの体に手を当て、ナノマシンによる検診をしていたジゼは、苦悶の表情でサッと眼を背けた。
「!?」
 治療を放棄したかの様な態度に、一瞬怒りを露わにするマシューであったが、露わになったルークの上半身に、ただただ絶句した。
 素人目に見ても分かる、話せている事が奇跡の様な状態。
 ルークは弱弱しく、焦点のぼやけた眼をして薄い笑みを浮かべ、
「た……助かんねぇだろ……俺……」
「ざけんなァ、ルーク! 死線なんて……二人でいくつも越えて来たろうがぁ!」
 二人の脳裏に甦る、いがみ合いながらも笑い合い、駆け抜けて来た激戦の日々。
「へへ……だった、よなぁ……」
「過去形にスンじゃねぇ! バカヤロォ……が……」
「ま、マシュー……」
「……んだよ」
「受け取れ……」
 ルークはブレスレットのはまる左手を、震えながら差し出し、
「(ナクアを)……頼むわぁ……」
 マシューは伸ばしかけた震える手を、苦悶の表情で咄嗟に引っ込めた。
 受け取ってしまうと安堵したルークの意識は途切れ、二度と目を覚まさない事が明白であったから。
 しかし受け取らなくともルークの意識が消えてしまうのは、もやは時間の問題。
 その事実は、虫の息のルーク自身が一番理解し、
「は、はやく……も、もう……」
 切れそうになる意識を懸命に繋ぎ止め、
「クソッタレがぁーーー!」
 マシューが雄叫びと共にルークの左手を握った瞬間、ルークは血まみれの顔でニコリと微笑み、
「サンキューな……相棒……」
「…………ルゥークゥ!?」
「イヤァァァァァ!」
 極点の闇夜にこだまするマシューとナクアの悲声に、前衛でフィールドを張るヤマトはルークの最期を知った。
(俺は何て無力なんだ! ただ黙って、壁として突っ立っている事しか出来ないなんて!)
 フィールドは張りつつも悔し気にうつむくと、
 ドザザザザァアァァァ!
 何かがヤマトの近くで、激しい雪煙を上げた。
「なんだ!?」
 目を凝らすヤマト。
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