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青木 森

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5.愁嘆の大地の章-16

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 全方位、一斉放射される無数の蒼いレーザー光線。
 無数のレーザーが波打つ様に弧を描くガルシア改の姿は、蒼き翼を羽ばたかせる蝶が如き。
 迫るミサイル、魚雷、駆逐艦、哨戒艇、嫌悪感を抱かせる満面の笑みで迫る海賊達、はたまた静止衛星軌道上の軍事衛星、ガルシアに害をなす全ては瞬くうちに灰燼に帰し、耳をつんざく喧騒に包まれていた海域は、一瞬にして静寂の海へと戻った。
 波間に漂う「無数の残骸」と、鼻を衝く「焦げた異臭」だけが、激戦であった事を物語る。
「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」
 言葉を失ガルシアクルー達。
 目の前で起きた非現実的で、人知を超えた光景に、語る言葉を見出せにいたのである。
 ガルシア改には、クルー達にも知らされていない特殊兵装が、幾つか新たに実装されていたのである。今回使用された物は、その一つ。
 曲線を描き追尾攻撃が可能な、半誘導レーザー。
 シセの体の中には特殊兵装を使用可能とする為の「キーコード」が封印されていて、使用にはシセの同意が必須であり、強制的に使用する事は、実装を指示したナクアにでさえ不可能であった。
 ジゼ、マリアを含めクルー達が唖然とする中、シセは何事も無かったかの様に「ふぅ」と一息吐いて着席し、パネルを操作、艦内の異常をチェック。
「回路の一部がショートした様ですが、想定の範囲内でぇす。バッテリーが回復するまで、通常レーダーしか使用は出来なくなりましたが」
 一方ナクアも、いつも通りの無表情ながら、若干見て取れる不満を滲ませ、
「これで回路ショート、ふむぅ貧弱、弱い、電池も、ユルイ」
 通常運転の二人に対し、不穏な空気を漂わせるクルー達。
 ジゼは、チカラを見せ過ぎた為に船を降りる羽目になった過去の苦い経験を思い起こし、
(まずいわぁ……)
 周囲の空気を窺ったが、ジゼより先に、
「貴方たち、やり過ぎですわ!」
 マリアが静寂を破った。
 しかしシセは、どこ吹く風。
 平静な様子で振り向きもせずパネルを操作、残務処理をこなしつつ、
「なら、あのまま沈めば良かったのですか? ジゼ姉様の乗る「この船」を沈めるなど、神が許しても私が許しません」
「同意。マシューとルーク、イジメる。絶対、許さない」
 表情少はなくも、膨れっ面するナクアに、苦笑いのマシューとルーク。
「それにママムナムクア(マリア)さん、アナタだってオーストラリアにオーバーテクノロジーを提供してるじゃないでぇすか」
「そ、それは国民の皆様を護る為に、必要最低限……」
 痛い所を突かれて口ごもるマリアと、クルー達との不和再燃を危惧するジゼであったが、二人の不安を余所にガルシアクルー達の反応は意外なモノであった。
 呆然と半立ちだったアイザックは、残骸漂う海域を呆気に取られ見ていたが、操り糸が切れた様にドサリと自席に腰を落とし、
「アハ、アハ、アハハハハ……」
 自嘲気味に笑い出すと、
「慣れって怖いよなぁ」
「「え?」」
 操舵長ジョシュアも自身の額をピシャリと手で叩き、
「まったくだなぁ」
「「えぇ!?」
 武器管制長クルスも、何事も無かったの様に無言で十字を切り、神経質な航海長クリストファーでさえ、
「なんかもう、異常が日常……ですのぉ」
 平然と笑い合うクルー達。
「「…………」」
 鳩が豆鉄砲を食ったような顔して立ち尽くすマリアとジゼに、ナタリーも笑顔を見せ、
「もう慣れちゃったっス」
 そう言っては貰えたが、未だ不安を拭いされずにいると、ソフィアがクスリと笑い、
「今更「天使と悪魔」が姿を見せても驚かないわぁ」
 艦長も帽子のつばで表情を隠しつつ頷き、それがクルー達の総意である事を、無言で語って見せた。
 戸惑いつつも安堵し、笑顔を見合わせるジゼとマリア。
 二人の心配を余所に、結果としてガルシア側が今回の激戦で被った被害は軽微なモノで、重篤な怪我人も出さずに済み、その日のうちに警戒海域を無事に抜け、南極へと転進。
 ニュージーランドを右手に南下し、その日の夜は慰労を含めた祝勝会が催された。

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