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5.愁嘆の大地の章-9
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ブリッジでは艦長、ブリッジクルー達がクリストファーの席に集まり、「海図を映すモニタ」を難しい顔で見つめていた。
「いかがなさいましたの?」
マリアの声に振り返り、
「お待ちしていました、ミスマリア。本艦はこれよりニュージーランドの北方を横断するのですが、この近海は鎖国しているオーストラリアの海域。我々ダイバーズのメンバーも迂闊に近づかず、故に世事に疎く、ルートを決めあぐねておるのですよ」
「なるほど……でしたら……」
マリアはモニタに映る海図を眺め、
「コチラのルートを提案いたしますわ」
ニュージーランドの北方にあるノーフォーク島と、ニューカレドニアの間を指差した。
「しかしミスマリア、それではニューカレドニアのフランス駐留軍と、事を構える可能性が……。やはり我々の案としては時間と距離も稼げますし、南寄り、ノーフォーク島とニュージーランドの間を航行する方が無難なのではと……」
「艦長は、ニューカレドニアのレーダー基地を懸念されておいでなのでしょ?」
「仰る通り。位置を把握されるのはあまり得策とは……」
「申し訳ありませんが、ニュージーランド寄りのルートは、より危険ですの」
「しかしニュージーランドは、イージスシステムを搭載した艦艇を持っておりませんし、」
「本来は、そうでございましたが……」
「「本来は」と、申されますと?」
マリアは「ノーフォーク島」と、ニュージーランド北東の「ラウール島」を一つ一つ指差した。
「その島々が何か?」
「鎖国のレーダー監視網を構築する為、イージスシステムを搭載したミサイル駆逐艦ホバート級を一隻ずつと、護衛に哨戒艇アーミデール級を二艇ずつ配備しておりますの。当然、ニュージーランドのアンザック級フリゲート艦とはデータリンク済み」
「……貴国の事です、スペックはカタログ通りではないのでしょうな?」
艦長が訝し気な眼を向けると、マリアは静かに頷きため息交じり、
「まさかその刃が自身に向くとは思ませんでしたが……強化型ECM搭載のイージスレーダーで、好天ならば捕捉距離は五百キロ以上、対艦ミサイルは精度と距離を上げる為、ハープーンの発展型の対地ミサイルSLAM 84Kを艦載用に独自改良しましたので、三百キロを優に超えますわ」
レーダー監視長アイザックは驚きを隠せず、
「ば、化物かよ……ニュージーランドに居ながらにして、ニューカレドニアを監視出来て、攻撃も出来る距離だ……」
「なるほど……ミスマリアは、オーストラリアとニュージーランドが描いた、レーダー監視によるトライアングルを通過するより、ニューカレドニアのルートの方がまだましと」
「で、ございますわ。それと元身内の恥を晒す様でございますが、フィジーとトンガ一帯は海賊に奪われてしまっておりますの。本国(オーストラリア)と隣国(ニュージーランド)に手出ししないので、藪を突くよりはと放置していたのですが……」
「…………」
「ですから尚の事、ニューカレドニア軍は、オーストラリア、ニュージーランド連合と、海賊の双方に神経をすり減らし、しかも兵装は核大戦前のまま」
ソフィアは記憶を辿り、
「艦長、確か、かの国の常駐艦はフロレアル級フリゲート艦一隻と、哨戒艇が二隻かと……シセ、フリゲート艦の兵装はデータベースにありますか?」
「ありますよ。西側製の対艦ミサイルと、単装主砲が一門、後は機銃、哨戒艇は機銃のみの様でぇす」
「ミサイルの射程は?」
「データベースでは三十八キロですが、万が一にスペックアップしていても仕様上、百八十キロでぇす」
「艦長、ニューカレドニアとノーフォーク島の間は百十キロほど。最大射程としては届く可能性はありますが……」
「うむ。秤にかけるまでもなく、ニューカレドニア寄りを通る事が安全策と言える。因みにミスマリア、フィジーやトンガで奪われた兵装はどの様な物ですかな?」
「機関銃を備えた哨戒艇ばかりですわ。ただ数が……」
艦長はしばし黙考すると腹が決まったらしくバッと顔を上げ、
「本艦は領域侵入後、ステルスモードとスラスターモードで微速前進し、ニューカレドニアとノーフォーク島の間を通過、そのままトンガとラウール島の間を直進した後、南進。スラスター高速モードに移行し、南極を目指すものとする!」
「「「「「「「アイサァ!」」」」」」」
ガルシアはマリアの案を採用し、ニュージーランドを右手に見送ると、そのまま北進、一路ノーフォーク島とニューカレドニアの間を目指した。
最善のコースを選択したガルシア改にマリアも納得はしていたが、会議中一言も発しなかった「情報通のナクア」の態度に一抹の不安を覚えていた。
「いかがなさいましたの?」
マリアの声に振り返り、
「お待ちしていました、ミスマリア。本艦はこれよりニュージーランドの北方を横断するのですが、この近海は鎖国しているオーストラリアの海域。我々ダイバーズのメンバーも迂闊に近づかず、故に世事に疎く、ルートを決めあぐねておるのですよ」
「なるほど……でしたら……」
マリアはモニタに映る海図を眺め、
「コチラのルートを提案いたしますわ」
ニュージーランドの北方にあるノーフォーク島と、ニューカレドニアの間を指差した。
「しかしミスマリア、それではニューカレドニアのフランス駐留軍と、事を構える可能性が……。やはり我々の案としては時間と距離も稼げますし、南寄り、ノーフォーク島とニュージーランドの間を航行する方が無難なのではと……」
「艦長は、ニューカレドニアのレーダー基地を懸念されておいでなのでしょ?」
「仰る通り。位置を把握されるのはあまり得策とは……」
「申し訳ありませんが、ニュージーランド寄りのルートは、より危険ですの」
「しかしニュージーランドは、イージスシステムを搭載した艦艇を持っておりませんし、」
「本来は、そうでございましたが……」
「「本来は」と、申されますと?」
マリアは「ノーフォーク島」と、ニュージーランド北東の「ラウール島」を一つ一つ指差した。
「その島々が何か?」
「鎖国のレーダー監視網を構築する為、イージスシステムを搭載したミサイル駆逐艦ホバート級を一隻ずつと、護衛に哨戒艇アーミデール級を二艇ずつ配備しておりますの。当然、ニュージーランドのアンザック級フリゲート艦とはデータリンク済み」
「……貴国の事です、スペックはカタログ通りではないのでしょうな?」
艦長が訝し気な眼を向けると、マリアは静かに頷きため息交じり、
「まさかその刃が自身に向くとは思ませんでしたが……強化型ECM搭載のイージスレーダーで、好天ならば捕捉距離は五百キロ以上、対艦ミサイルは精度と距離を上げる為、ハープーンの発展型の対地ミサイルSLAM 84Kを艦載用に独自改良しましたので、三百キロを優に超えますわ」
レーダー監視長アイザックは驚きを隠せず、
「ば、化物かよ……ニュージーランドに居ながらにして、ニューカレドニアを監視出来て、攻撃も出来る距離だ……」
「なるほど……ミスマリアは、オーストラリアとニュージーランドが描いた、レーダー監視によるトライアングルを通過するより、ニューカレドニアのルートの方がまだましと」
「で、ございますわ。それと元身内の恥を晒す様でございますが、フィジーとトンガ一帯は海賊に奪われてしまっておりますの。本国(オーストラリア)と隣国(ニュージーランド)に手出ししないので、藪を突くよりはと放置していたのですが……」
「…………」
「ですから尚の事、ニューカレドニア軍は、オーストラリア、ニュージーランド連合と、海賊の双方に神経をすり減らし、しかも兵装は核大戦前のまま」
ソフィアは記憶を辿り、
「艦長、確か、かの国の常駐艦はフロレアル級フリゲート艦一隻と、哨戒艇が二隻かと……シセ、フリゲート艦の兵装はデータベースにありますか?」
「ありますよ。西側製の対艦ミサイルと、単装主砲が一門、後は機銃、哨戒艇は機銃のみの様でぇす」
「ミサイルの射程は?」
「データベースでは三十八キロですが、万が一にスペックアップしていても仕様上、百八十キロでぇす」
「艦長、ニューカレドニアとノーフォーク島の間は百十キロほど。最大射程としては届く可能性はありますが……」
「うむ。秤にかけるまでもなく、ニューカレドニア寄りを通る事が安全策と言える。因みにミスマリア、フィジーやトンガで奪われた兵装はどの様な物ですかな?」
「機関銃を備えた哨戒艇ばかりですわ。ただ数が……」
艦長はしばし黙考すると腹が決まったらしくバッと顔を上げ、
「本艦は領域侵入後、ステルスモードとスラスターモードで微速前進し、ニューカレドニアとノーフォーク島の間を通過、そのままトンガとラウール島の間を直進した後、南進。スラスター高速モードに移行し、南極を目指すものとする!」
「「「「「「「アイサァ!」」」」」」」
ガルシアはマリアの案を採用し、ニュージーランドを右手に見送ると、そのまま北進、一路ノーフォーク島とニューカレドニアの間を目指した。
最善のコースを選択したガルシア改にマリアも納得はしていたが、会議中一言も発しなかった「情報通のナクア」の態度に一抹の不安を覚えていた。
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