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4.偽りの新天地の章-14
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捜査が開始されて数日、マリアが浮かない顔で逮捕者リストを眺めていると、
「不服そうだな、マリア。たまった膿は大分出てると思うけど?」
ヤマトの声に顔を上げ、
「見れば見るほど政官民揃って軍事関連。ですのに、一番の大物に、どうしても辿り着きませんの。まるで見えない壁に阻まれ、外を一周歩かされているみたいに……」
すると捜査が一区切りつき、チームから外れたジゼが、
「マリアが気にしてるのって、よくテレビに出てる、上院のタカ派大物議員、カート・ブラウンのこと?」
頷くマリア。
かねてよりマリアの平和主義とは一線を画し、軍備の拡充、領土拡大の為の戦争と、それに伴う徴兵制度の再開を訴え続けている人物である。
軍曹は不愉快そうに眉間にシワを寄せ、
「国民の為とは言っていますが、ヤツのやっている事は単なる武器商人です」
「他国が安定する前に打って出て領土を拡大すれば、今も混乱する国で生きる人達を救う事になるし、この国にとっては資源と仕事が増えて、国民の生活が潤うって話だったよなぁ」
「でもヤマト……それって……」
「えぇ。ジゼがお感じの通り、手前勝手な言い分ですわ。それに戦争をすれば、必ず死傷者が出ますわ。国造りは道半ば。表向き政治に口出しは出来ませんが、その様な非道、認めるつもりは毛頭ありませんわ!」
立ち上がる姿は神々しく「女王とはかくあるべき」と言う、オーラさえ放っていた。
軍曹は拍手し、
「素晴らしいですマリア。人の嫌がる顔見たさにイタズラする人物の発言とは思えません」
「ソレとコレとは別ですわぁ!」
わざとらしく憤慨して見せるマリアに笑いが起こった。
突如鳴り響く、アンティーク調の固定電話。
軍曹は受話器を取り二言三言話をすると、次第に笑顔を曇らせた。
「どうしましたの軍曹?」
「こ、交換手からで……上院議員のブラウン氏が個人的に話をしたいと……」
驚き、顔を見合わせるヤマトとジゼ。
しかしマリアは意外なほど平静に、軍曹から受話器を受け取り、
「お繋して」
交換手に穏やかな物言いで指示を出した。
彼女は道徳に反しない相手なら誰に対しても等しく接し、この様なマリアの姿勢が国民の指示を集める要因の一つともなっていた。
「……お久しぶりで御座いますわ、ブラウン上院議員。いえ、とんでも御座いませんわ」
傍から聞く分には穏便な会話がしばし続いた後、
「はい。では御免あそばせ」
静かに受話器を置いた。
捜査で、ブラウンの法律スレスレの悪行を散々目にしていたジゼは不安気に、
「何を言って来たの?」
「ただの世間話ですわぁ。捜査に対する探りでも入れたおつもりなのでしょ」
「そんな訳ないだろ!」
激昂する軍曹に、マリアは茶化してしまった自身を小さく笑い、
「ありがとう、軍曹……これ以上は手を引けと、恫喝されましたわ」
怒れる軍曹はテーブルを殴りつけ、
「この国のガン細胞がァ!」
怒りを露わにするも、マリアは笑顔を絶やさず、
「考え方は違えど、あの方の愛国心もまた、わたくしと同様本物。「立ち位置」と「やり方」の違いだけですわ」
どこまでも真っ直ぐなマリアの姿勢に怒りは何処へやら、毒気の抜かれた顔をし、
「マリア様……」
「「さま?」」
ヤマトとジゼが言葉尻に食い付いた。
「え? あっ!? イヤこれはッ!」
慌てふためき赤面すると、
「軍曹ぉ~目がハートだぞぉ~」
ヤマトが追い打ちをかけ、
「じゅ、准尉殿ォ! 違ッ! わ、私は、ただァ!」
「「ただ」なぁ~にぃ~~~?」
ジゼが悪い顔して更に追撃。
するとマリアが身をよじらせ、妙に艶っぽい顔して軍曹にしな垂れかかり、
「本当でございますのぉ~? 実は、わ、た、く、し、もぉ……」
耳まで真っ赤な軍曹がうつむき黙り込むと、
「ウフッ」
いつもの悪戯っぽい笑顔を見せた。
「!」
からかわれた事に気付く軍曹。
恨めしそうな顔して、
「マぁ~ッ、リぃ~ッ、アぁ~~~ッ!」
「キャッ、でございますわぁ!」
わざとらしい悲鳴を上げて逃げるマリアを追い掛ける軍曹に、再び笑いが起こった。
穏やかな夜は、時間と共に更けて行く。
「不服そうだな、マリア。たまった膿は大分出てると思うけど?」
ヤマトの声に顔を上げ、
「見れば見るほど政官民揃って軍事関連。ですのに、一番の大物に、どうしても辿り着きませんの。まるで見えない壁に阻まれ、外を一周歩かされているみたいに……」
すると捜査が一区切りつき、チームから外れたジゼが、
「マリアが気にしてるのって、よくテレビに出てる、上院のタカ派大物議員、カート・ブラウンのこと?」
頷くマリア。
かねてよりマリアの平和主義とは一線を画し、軍備の拡充、領土拡大の為の戦争と、それに伴う徴兵制度の再開を訴え続けている人物である。
軍曹は不愉快そうに眉間にシワを寄せ、
「国民の為とは言っていますが、ヤツのやっている事は単なる武器商人です」
「他国が安定する前に打って出て領土を拡大すれば、今も混乱する国で生きる人達を救う事になるし、この国にとっては資源と仕事が増えて、国民の生活が潤うって話だったよなぁ」
「でもヤマト……それって……」
「えぇ。ジゼがお感じの通り、手前勝手な言い分ですわ。それに戦争をすれば、必ず死傷者が出ますわ。国造りは道半ば。表向き政治に口出しは出来ませんが、その様な非道、認めるつもりは毛頭ありませんわ!」
立ち上がる姿は神々しく「女王とはかくあるべき」と言う、オーラさえ放っていた。
軍曹は拍手し、
「素晴らしいですマリア。人の嫌がる顔見たさにイタズラする人物の発言とは思えません」
「ソレとコレとは別ですわぁ!」
わざとらしく憤慨して見せるマリアに笑いが起こった。
突如鳴り響く、アンティーク調の固定電話。
軍曹は受話器を取り二言三言話をすると、次第に笑顔を曇らせた。
「どうしましたの軍曹?」
「こ、交換手からで……上院議員のブラウン氏が個人的に話をしたいと……」
驚き、顔を見合わせるヤマトとジゼ。
しかしマリアは意外なほど平静に、軍曹から受話器を受け取り、
「お繋して」
交換手に穏やかな物言いで指示を出した。
彼女は道徳に反しない相手なら誰に対しても等しく接し、この様なマリアの姿勢が国民の指示を集める要因の一つともなっていた。
「……お久しぶりで御座いますわ、ブラウン上院議員。いえ、とんでも御座いませんわ」
傍から聞く分には穏便な会話がしばし続いた後、
「はい。では御免あそばせ」
静かに受話器を置いた。
捜査で、ブラウンの法律スレスレの悪行を散々目にしていたジゼは不安気に、
「何を言って来たの?」
「ただの世間話ですわぁ。捜査に対する探りでも入れたおつもりなのでしょ」
「そんな訳ないだろ!」
激昂する軍曹に、マリアは茶化してしまった自身を小さく笑い、
「ありがとう、軍曹……これ以上は手を引けと、恫喝されましたわ」
怒れる軍曹はテーブルを殴りつけ、
「この国のガン細胞がァ!」
怒りを露わにするも、マリアは笑顔を絶やさず、
「考え方は違えど、あの方の愛国心もまた、わたくしと同様本物。「立ち位置」と「やり方」の違いだけですわ」
どこまでも真っ直ぐなマリアの姿勢に怒りは何処へやら、毒気の抜かれた顔をし、
「マリア様……」
「「さま?」」
ヤマトとジゼが言葉尻に食い付いた。
「え? あっ!? イヤこれはッ!」
慌てふためき赤面すると、
「軍曹ぉ~目がハートだぞぉ~」
ヤマトが追い打ちをかけ、
「じゅ、准尉殿ォ! 違ッ! わ、私は、ただァ!」
「「ただ」なぁ~にぃ~~~?」
ジゼが悪い顔して更に追撃。
するとマリアが身をよじらせ、妙に艶っぽい顔して軍曹にしな垂れかかり、
「本当でございますのぉ~? 実は、わ、た、く、し、もぉ……」
耳まで真っ赤な軍曹がうつむき黙り込むと、
「ウフッ」
いつもの悪戯っぽい笑顔を見せた。
「!」
からかわれた事に気付く軍曹。
恨めしそうな顔して、
「マぁ~ッ、リぃ~ッ、アぁ~~~ッ!」
「キャッ、でございますわぁ!」
わざとらしい悲鳴を上げて逃げるマリアを追い掛ける軍曹に、再び笑いが起こった。
穏やかな夜は、時間と共に更けて行く。
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