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3.旅立ちの章-33
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次第に凪に戻る洋上を走り、「浮島」を目指す戦艦ガルシア。
二本で一組の「無数の桟橋」のうちの一組に、挟まれる様に進入して停船したが、桟橋には船を係留する為の綱を受け取る「陸上作業員」も居なければ、綱を引っ掛ける為の突起物である「ビット」や「ボラード」もない。
ガルシアが錨さえ下ろさずにいると、二本の桟橋の間隔が徐々に狭まりアームを出し始め、船体を挟み込んで固定した。
「艦長、船体の固定、完了しました」
振り向くソフィアに、艦長が頷き応えると、
「本艦はこれより補給に入り、のち、船体消磁処理に入ります」
※船体消磁処理:世界大戦時代から行われている、レーダに発見されにくくする処理。
「うむ」
「それで、艦長……あの……先程申し上げた件なのですが……」
「構わん。副長に一任する」
帽子のツバの下で短く頷くと、ソフィアはパッと笑顔を弾けさせ、
「ありがとうございます、艦長! ではクリストファー航海長! ナタリー通信長! ジゼ通信員! 以上の三名は通常任務から外れ、特別任務に当たって下さい!」
するとクリストファーとナタリーが慌てて立ち上がり、
「ちょっとソフィア! ナタリー通信長とわたくしの二人でですのぉ!?」
「いや、ちょっと副長ぉ! 航海長と二人は、正直キツイっスぅ!」
「そ、それはコチラのセリフですのぉ!」
生真面目なクリストファーと、どちらかと言えばブレイクに近い大雑把な性格のナタリー。当然の如く、仲が良いとは言い難く、今回ジゼの心のケアを機に関係改善を画策していたソフィアであったが、むしろ不和が浮き彫りになってしまった。
「繊細さを要求される本任務に通信長では、うまく行くモノも行きませんの!」
「そもそも、お堅い航海長には荷が重過ぎる任務じゃないっスかねぇ!」
嫌味を言い合う二人に、苦笑いのソフィアがどうしたものかと考えあぐねていると、
「副長、君にも同行を頼む」
「え? あ、しかし艦長、それでは作業の取りまとめが……」
「艦長の私が居る。それに……シセ君にも、頼めるかね?」
「勿論です艦長殿。それでジゼ姉様の憂いが晴れるのなら喜んで。ただ、お邪魔虫(ヤマト)との仲を取り持つ感が否めないのが、いささか腑に落ちませんが」
不愉快そうなシセの声に、困り顔で笑うブリッジクルー達。
数分後―――
胸にガルシアクルーの証明であるIDカードを下げ、ソフィア達と下艦したヤマトとジゼは、町の入り口で驚嘆し、立ち尽くしていた。
二人の目の前に広がる街並みと人々の営みは、活気に満ち溢れ、巨大なドームで覆われていたとは言え、先程まで海中に沈んでいたとは思えない光景であった。
ソフィアは呆然と立ち尽くす二人の傍らに立ち、
「この島はダイバーズの移動簡易補給基地、通称『浮島』よ」
「「浮島……」」
「この島は海中を移動しながら日に一度、不定期で一定時間浮上しているの。今回は予定航路の近くで、本当に助かったわぁ」
するとヤマトが何かに気が付いた。
「でもなんか……島民のガラがやたら悪い気が……」
指摘通り、一癖二癖ありそうな輩が目立つ。
「「そりゃそうだろ、本来この島に島民なんかいないんだぜぇ」」
ニヤつくマシューとルークに二人が首を傾げると、ダニエルが自慢気に前髪をたなびかせ、
「犯罪者まがいの連中が、不法に住み着いてるのさ。取締官が居ないからね」
「軍の横流し品や、盗品を格安で売ってやがんだ」
「まぁ粗悪品ばっかだけどなぁ」
ケラケラと笑って見せるマシュー達に、ヤマトとジゼは怪訝な表情を浮かべ、
「そんなの買うのか?」
「無駄にならないの?」
しかしソフィアは、二人の不安を吹き飛ばす様にニコリ。
「安心してぇ。私達が補給するのは、ダイバーズが販売する正規品だけよ」
「無論ですのぉ! あんな汚らわしい品々を船(ガルシア)の中に入れるなんてぇ、もぅ考えただけでゾッとしますの!」
眼鏡の端を持ち上げつつ身震いするクリストファーに、ナタリーは呆れ顔。
「安くて使えれば、何でもいいじゃないっスかぁ~」
「あ、貴方には「節操」や「誇り」はありませんの! あの品々は犯罪まがいの品ばかりで、」
「そこまでよ!」
ヒートアップする二人の間にソフィアが割って入り、
「目的を忘れていませんか!」
二人をたしなめると、
「ココからは作戦通り、男性陣と女性陣で分かれましょう。二時間後に再びこの場所で」
一同頷き、二手に分かれた。
女性チーム、ソフィア、クリストファー、ナタリー、ジゼ。
男性チーム、双子、もといマシューとルーク、ダニエル、ヤマト。
今回の作戦概要は、まず男女二チームに分かれ、ジゼとヤマトのファッションをコーデ。
後にデートをさせて関係改善を図ろうと言う、幾分おせっかい染みた作戦である。
その中には自身のショッピングやナンパなど、私的要素も多分に含まれてはいるが。
二本で一組の「無数の桟橋」のうちの一組に、挟まれる様に進入して停船したが、桟橋には船を係留する為の綱を受け取る「陸上作業員」も居なければ、綱を引っ掛ける為の突起物である「ビット」や「ボラード」もない。
ガルシアが錨さえ下ろさずにいると、二本の桟橋の間隔が徐々に狭まりアームを出し始め、船体を挟み込んで固定した。
「艦長、船体の固定、完了しました」
振り向くソフィアに、艦長が頷き応えると、
「本艦はこれより補給に入り、のち、船体消磁処理に入ります」
※船体消磁処理:世界大戦時代から行われている、レーダに発見されにくくする処理。
「うむ」
「それで、艦長……あの……先程申し上げた件なのですが……」
「構わん。副長に一任する」
帽子のツバの下で短く頷くと、ソフィアはパッと笑顔を弾けさせ、
「ありがとうございます、艦長! ではクリストファー航海長! ナタリー通信長! ジゼ通信員! 以上の三名は通常任務から外れ、特別任務に当たって下さい!」
するとクリストファーとナタリーが慌てて立ち上がり、
「ちょっとソフィア! ナタリー通信長とわたくしの二人でですのぉ!?」
「いや、ちょっと副長ぉ! 航海長と二人は、正直キツイっスぅ!」
「そ、それはコチラのセリフですのぉ!」
生真面目なクリストファーと、どちらかと言えばブレイクに近い大雑把な性格のナタリー。当然の如く、仲が良いとは言い難く、今回ジゼの心のケアを機に関係改善を画策していたソフィアであったが、むしろ不和が浮き彫りになってしまった。
「繊細さを要求される本任務に通信長では、うまく行くモノも行きませんの!」
「そもそも、お堅い航海長には荷が重過ぎる任務じゃないっスかねぇ!」
嫌味を言い合う二人に、苦笑いのソフィアがどうしたものかと考えあぐねていると、
「副長、君にも同行を頼む」
「え? あ、しかし艦長、それでは作業の取りまとめが……」
「艦長の私が居る。それに……シセ君にも、頼めるかね?」
「勿論です艦長殿。それでジゼ姉様の憂いが晴れるのなら喜んで。ただ、お邪魔虫(ヤマト)との仲を取り持つ感が否めないのが、いささか腑に落ちませんが」
不愉快そうなシセの声に、困り顔で笑うブリッジクルー達。
数分後―――
胸にガルシアクルーの証明であるIDカードを下げ、ソフィア達と下艦したヤマトとジゼは、町の入り口で驚嘆し、立ち尽くしていた。
二人の目の前に広がる街並みと人々の営みは、活気に満ち溢れ、巨大なドームで覆われていたとは言え、先程まで海中に沈んでいたとは思えない光景であった。
ソフィアは呆然と立ち尽くす二人の傍らに立ち、
「この島はダイバーズの移動簡易補給基地、通称『浮島』よ」
「「浮島……」」
「この島は海中を移動しながら日に一度、不定期で一定時間浮上しているの。今回は予定航路の近くで、本当に助かったわぁ」
するとヤマトが何かに気が付いた。
「でもなんか……島民のガラがやたら悪い気が……」
指摘通り、一癖二癖ありそうな輩が目立つ。
「「そりゃそうだろ、本来この島に島民なんかいないんだぜぇ」」
ニヤつくマシューとルークに二人が首を傾げると、ダニエルが自慢気に前髪をたなびかせ、
「犯罪者まがいの連中が、不法に住み着いてるのさ。取締官が居ないからね」
「軍の横流し品や、盗品を格安で売ってやがんだ」
「まぁ粗悪品ばっかだけどなぁ」
ケラケラと笑って見せるマシュー達に、ヤマトとジゼは怪訝な表情を浮かべ、
「そんなの買うのか?」
「無駄にならないの?」
しかしソフィアは、二人の不安を吹き飛ばす様にニコリ。
「安心してぇ。私達が補給するのは、ダイバーズが販売する正規品だけよ」
「無論ですのぉ! あんな汚らわしい品々を船(ガルシア)の中に入れるなんてぇ、もぅ考えただけでゾッとしますの!」
眼鏡の端を持ち上げつつ身震いするクリストファーに、ナタリーは呆れ顔。
「安くて使えれば、何でもいいじゃないっスかぁ~」
「あ、貴方には「節操」や「誇り」はありませんの! あの品々は犯罪まがいの品ばかりで、」
「そこまでよ!」
ヒートアップする二人の間にソフィアが割って入り、
「目的を忘れていませんか!」
二人をたしなめると、
「ココからは作戦通り、男性陣と女性陣で分かれましょう。二時間後に再びこの場所で」
一同頷き、二手に分かれた。
女性チーム、ソフィア、クリストファー、ナタリー、ジゼ。
男性チーム、双子、もといマシューとルーク、ダニエル、ヤマト。
今回の作戦概要は、まず男女二チームに分かれ、ジゼとヤマトのファッションをコーデ。
後にデートをさせて関係改善を図ろうと言う、幾分おせっかい染みた作戦である。
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