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青木 森

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3.旅立ちの章-23

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 対峙しているのは航海長クリストファーと、調査班ブレイク。
 日頃からソリが合わず犬猿の仲の三人が、三つ巴の様相を呈していたのである。
 相当酔っているのか、赤ら顔でフラつく三人。
 ブレイクはソフィアの胸倉を掴み、
「「恩人」を~、「恩人」と呼んでぇ~、何が悪いってんだ副長さんよォ~!」
「お止めなさぁい、お二人ぃ共ぉ。祝いのぉ席でぇすのよぉ」
 クリストファーがフラつきながら、ブレイクを後ろから羽交い絞めにすると、
「「イイ子ぶってんじゃ(ねぇ・ないわ)!」」
「何ですぇのぉ!」
 大人の女性三人、子供の様な絡み合い。
 困惑するヤマトは艦長をチラリと見て、、
「と、止めなくて良いんですかぁ?」
 しかし艦長は短く一言、
「構わん」
 言い切って、
「互いの膿を出し切るに良いい機会だ。なぁに心配に及ばん。本当にマズイ時は、私が責任を以て止める」
 武骨な男が不器用ながらに微笑んだ。
「航海長さんよぉ~アンタは、んなクソ真面目だから男が出来ねんだよぉ~!」
「なっ!? わぁたくしはぁ!」
 言いかけたクリストファーが悔し気に奥歯を噛み締めると、すかさずソフィアが、
「そぅ~んな事を言ってぇ、隊長もぉ~経験値は航海長と変わらないのではなくてぇ~?」
「だ、黙れぇブリッ子ぉ~! 男嫌いのコイツと一緒にするなぁ~!」
 指差すと、怒れるクリストファーはテーブルの上に置かれた、アルコール度数の異常に高い酒の入ったグラスを一気飲み。
「お、おい……」
「ちょっとぉ……」
 アルコールに強い方ではない彼女の無謀に、酔いながらも戸惑うと、
「ぷふぁぁ!」
 クリストファーはグラスをダンと置き、二人の胸ぐらを両腕で掴み上げ、
「男嫌いにもなりますわぁ! 何も知らないクセにぃ、二人して悲劇のヒロイン気取って、お笑い草ですのぉ!」
「「!?」」
 酔いの回った座った目をしつつ、かつてない怒りを見せるクリストファーに驚く二人。
「人質の中に、わたくしも居りましたの……」
「なぁ!?」
「えぇ!?」
「あなた方は、まだ良いですわよォ!」
 この一言に、並々ならぬ苦労を重ねて来た二人は激怒。
「良かったですってぇーーー!」
「テメェ、クリストファー! 世の中にぁ言って良い事と悪い事があんだよォ!」
 二人して、逆にクリストファーの胸ぐらを掴み上げると、
「外部の目に守られて(体育館の)中で何が起きていたか知らないクセにィ!」
「「!?」」
 クリストファーは驚く二人の胸ぐらから手を離し、うつむき、涙を溢れさせた。
「どう言う意味?」
「アンタ、何を知ってんだい?」
 二人もクリストファーから手を離し、
「「「…………」」」
 一瞬沈黙の後、長年かけて積もりに積もった怒り、悲しみ、悔しさが、クリストファーの中から一気に溢れ出し、
「少年兵達の蹂躙行為ですのぉーーーーーー!」
「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」
 驚くクルー達。
 同じ国の者ならば、誰しも一度は耳にした事がある程の大事件。しかしその様な事実があった事は、ソフィアとブレイクでさえ初耳で、
「そっ、そんな話聞いてないわァ!」
「何で訴え出なかった! そうすりゃマスター(ジェイソン)も苦悩を背負わずにィ!」
 驚きを、怒りが凌駕するも、
「政府高官や財界人の娘ばかりですのよ! 徹底した箝口令が敷かれたに決まっているじゃないでのォ!」
「「!」」
 事件を速やかに風化させる裏工作に、自分の両親も加担していたかも知れない事実に絶句した。
「……わたくしは、少年兵の手に掛かる事はありませんでした……でも……一緒に囚われた同級生たちが……悲鳴が……今も耳に残って離れませんの……」
 涙をとめどなく流れ落すクリストファーに、
「「………」」
 二人は両肩を支える様に寄り添い、三人で静かにソファーへ座ると、
「……あのテロの後、私と家族はどこへ行っても「奇跡の乙女」と好奇の目に晒されて……私のせいで家族は疲弊してしまったの……だから私は家族を守る為、「戦う為の知恵」をひたすら求め軍人になったの……」
「アタシはさ、ソイツ等から家族を守る為に、「戦う為のチカラ」をひたすら求め軍人になった……」
「わたくしが軍人になりましたのは、過去の忌まわしき記憶に立ち向かえる「戦う為の勇気」を求めたから……」
「私達」
「アタシ等」
「わたくし達」
「「「似て(るのねぇ・んだなぁ・ますのね)……」」」
 涙を浮かべて微笑み合う三人は酔いも手伝ってか、やがてもたれ掛かり合いながら深い寝息を立て始めてしまった。
 秘めた想いを曝け出し合い、縛られた心が解放されたのか、少女の様な穏やかな寝顔で眠るソフィア、ブレイク、クリストファーの三人。
 ガルシアクルー達が温かな眼差しで見つめる中、艦長が一枚の上掛けを三人にそっと掛けた。

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