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2.邂逅と別れの章-14
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その頃地上では四人が大切に育てた畑や、家族の一員の様に世話をして来た飼育小屋の動物達を巻き込みながら、激しい戦闘が繰り広げられていた。
その一方的な戦況に変わりは無かったが。
海兵はサーモグラフィーに映らない特殊なスーツを着込み、森の闇に身を紛れ込ませゲリラ戦を展開するも、パワードスーツ部隊はゲリラ戦の奇襲攻撃をものともせず、視界を塞ぐ大木ごと、人の背を越す高さに育った畑の野菜ごと、ガトリング砲と火炎放射器で全てを薙ぎ払っていった。
大切に育てた野菜が、動物達が、施設ごと赤々と燃え上がり灰となって行く。
そんな蹂躙行為が続く中、海兵の一人が武器も携えずパワードスーツの前に歩み出た。
茂みに潜み、チャンスを窺っていた中尉は兵士の奇行に血相を変え、
「貴様何を考えているーーーッ! さっさと隠れんかァーーーーーーッ!」
叫び声を上げたが、兵士は恐怖で気でも違えたのか、パワードスーツの前から動こうとしなかった。
ガトリング砲の銃口を、海兵の頭部に定めるパワードスーツ。
中尉が堪らず茂みから飛び出そうとした刹那、海兵が何かを呟き、目にも留まらぬ速さで右腕を大きく振るった。
キィンッ!
夜空に響く高い金属音。
同時に、パワードスーツはいとも容易く、真ん中から縦一文字、パイロットごと真っ二つになって左右に割れ、轟音を立て倒れた。
「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」
驚愕し、硬直する全ての兵士達。
集まる視線の先、海兵が死神の持つ大釜の様な武器を携え立っていた。
『三番機が海兵の一人にやられました!』
オーストラリア軍艦艇の真っ暗な「CIC(戦闘指揮所)」に響き渡る、パイロットの悲痛な叫び声。
破壊される直前にパイロットが見た映像がVRモニタにリプレイされるや、陛下と呼ばれた女性は跳ねる様に立ち上がり、
「全軍即時撤退! 武装は放棄、パージしても構いませんわ! 急ぎ、お戻りなさい!」
指揮官である艦長を差し置き大絶叫。
「し、しかし陛下、お言葉ですが撃破されたのは一機のみ。誤差の範囲内では」
「馬鹿を言わないでぇ! このままですと敵味方問わず、あの島にいる全員死にますわ!」
女王の焦慮を初めて目の当たりにしたのか、背筋に冷たいもの感じる艦長。
しかしその間にも、女王の危惧は現実の物となって行く。
ヘルメットで顔を隠す謎の海兵は口元に薄笑いを浮かべ、援護に回ろうとした海兵隊員も、パワードスーツ部隊ごと次々と切り刻み破壊、殺害していったのである。
「化物めぇーーーーーーッ!」
銃やレーザーで攻撃すれば目に見えない青いフィールドで防御され、距離を取っての攻撃は、どこから出したのか分からない飛び道具で迎撃される。
「ニヒッ、ニヒヒヒヒヒヒヒヒヒィ! ヒャハハハハハハハァーーー!」
島は、たった一人の海兵の薄笑いと共に地獄絵図と化していった。
やがて海兵は最後のパワードスーツの兵装、両腕を切り落として動きを封じると、もはや立っているだけのパワードスーツの顔、メインカメラを見上げ、
「おい「ママムナムクア(二面の死神)」見てんだろぉ~? いんやぁ、今は女王マリア様ってかぁ~? ちょっとコッチ来て俺の相手しろやぁ」
口元が、不敵にニヤリと笑った。
見知った人物であるのか、CICで女王は口惜し気に奥歯をギリギリ噛み締め、
「アナムクアァ! 下位の「狂気神」の分際でぇ!」
その頃ジェイソンは地下三階オペレーションルームで、謎の海兵の鬼神の如き戦いを、ただただ唖然と見ていた。
モニタを見つめる彼の足は、あまた苛酷な戦場を生き抜いて来た歴戦の猛者であるにかかわらず、生まれた小鹿の様にガタガタと震え、
「ば、化物かよ! 俺達の大事な子供達を、あんなのの餌食にさせてたまるかァ!」
チラリと腕時計を見て、
「よし!」
脱出に要する時間を稼げた事を確認すると、制御盤に二本のカギを差し込み、二本同時に右回し。
二つの写真たてを胸に抱き、せり上がって来たボタンを静かに押下。
「ハハハ……あの世で、エマのダンナともめっちまうかもなぁ」
小さく笑うと島のあちこちらで爆発が起き始め、肌にヒリつく危険を察知した女王は再び艦長より先に、
「各艦シールド展開! 回頭せず全速後進ッ! 海域から緊急離脱! お急ぎなさい!!」
オーストラリア軍の艦艇は高速後進。
同時に各艦六機のドローンが格納庫から飛び出し、艦を取り囲むような位置につき、薄いオレンジ色の幕の様なエネルギーシールドを展開した。
一方アメリカ海軍の艦艇では、
「艦長! 島で大規模な連鎖爆発です!」
「何だと! スグに兵を引き上げさせろ! 撤退信号弾を上げても構わん! 急げぇ!」
「艦長! オーストラリア軍が当海域から緊急離脱していきます!」
「次から次へと、いったい何が起きてる!」
艦長が苛立ちを露わにする中、島では薄笑いを浮かべる「狂気神」と呼ばれた謎の海兵が、爆発と振動を気にする風もなく、
「テメェにも飽きた」
最後のパワードスーツを大鎌でパイロットごと真っ二つに切り裂き、抵抗する者がいなくなった、死屍累々たる戦場の真ん中で満足気にニヤリ。
今更の様に「爆発音と振動」に気付き、
「ったぁく、ウッセェなぁ!」
騒音程度に苛立ち周囲を見回した瞬間、島全体が一気に大爆発。
島の周辺一帯は激しい爆光で一瞬にして白一色に包まれ、謎の海兵も気化するが如く「白の世界」に飲み込まれ、アメリカ海軍の艦艇も激しい爆風と熱で上甲板から上が消し飛んだ。
その一方的な戦況に変わりは無かったが。
海兵はサーモグラフィーに映らない特殊なスーツを着込み、森の闇に身を紛れ込ませゲリラ戦を展開するも、パワードスーツ部隊はゲリラ戦の奇襲攻撃をものともせず、視界を塞ぐ大木ごと、人の背を越す高さに育った畑の野菜ごと、ガトリング砲と火炎放射器で全てを薙ぎ払っていった。
大切に育てた野菜が、動物達が、施設ごと赤々と燃え上がり灰となって行く。
そんな蹂躙行為が続く中、海兵の一人が武器も携えずパワードスーツの前に歩み出た。
茂みに潜み、チャンスを窺っていた中尉は兵士の奇行に血相を変え、
「貴様何を考えているーーーッ! さっさと隠れんかァーーーーーーッ!」
叫び声を上げたが、兵士は恐怖で気でも違えたのか、パワードスーツの前から動こうとしなかった。
ガトリング砲の銃口を、海兵の頭部に定めるパワードスーツ。
中尉が堪らず茂みから飛び出そうとした刹那、海兵が何かを呟き、目にも留まらぬ速さで右腕を大きく振るった。
キィンッ!
夜空に響く高い金属音。
同時に、パワードスーツはいとも容易く、真ん中から縦一文字、パイロットごと真っ二つになって左右に割れ、轟音を立て倒れた。
「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」
驚愕し、硬直する全ての兵士達。
集まる視線の先、海兵が死神の持つ大釜の様な武器を携え立っていた。
『三番機が海兵の一人にやられました!』
オーストラリア軍艦艇の真っ暗な「CIC(戦闘指揮所)」に響き渡る、パイロットの悲痛な叫び声。
破壊される直前にパイロットが見た映像がVRモニタにリプレイされるや、陛下と呼ばれた女性は跳ねる様に立ち上がり、
「全軍即時撤退! 武装は放棄、パージしても構いませんわ! 急ぎ、お戻りなさい!」
指揮官である艦長を差し置き大絶叫。
「し、しかし陛下、お言葉ですが撃破されたのは一機のみ。誤差の範囲内では」
「馬鹿を言わないでぇ! このままですと敵味方問わず、あの島にいる全員死にますわ!」
女王の焦慮を初めて目の当たりにしたのか、背筋に冷たいもの感じる艦長。
しかしその間にも、女王の危惧は現実の物となって行く。
ヘルメットで顔を隠す謎の海兵は口元に薄笑いを浮かべ、援護に回ろうとした海兵隊員も、パワードスーツ部隊ごと次々と切り刻み破壊、殺害していったのである。
「化物めぇーーーーーーッ!」
銃やレーザーで攻撃すれば目に見えない青いフィールドで防御され、距離を取っての攻撃は、どこから出したのか分からない飛び道具で迎撃される。
「ニヒッ、ニヒヒヒヒヒヒヒヒヒィ! ヒャハハハハハハハァーーー!」
島は、たった一人の海兵の薄笑いと共に地獄絵図と化していった。
やがて海兵は最後のパワードスーツの兵装、両腕を切り落として動きを封じると、もはや立っているだけのパワードスーツの顔、メインカメラを見上げ、
「おい「ママムナムクア(二面の死神)」見てんだろぉ~? いんやぁ、今は女王マリア様ってかぁ~? ちょっとコッチ来て俺の相手しろやぁ」
口元が、不敵にニヤリと笑った。
見知った人物であるのか、CICで女王は口惜し気に奥歯をギリギリ噛み締め、
「アナムクアァ! 下位の「狂気神」の分際でぇ!」
その頃ジェイソンは地下三階オペレーションルームで、謎の海兵の鬼神の如き戦いを、ただただ唖然と見ていた。
モニタを見つめる彼の足は、あまた苛酷な戦場を生き抜いて来た歴戦の猛者であるにかかわらず、生まれた小鹿の様にガタガタと震え、
「ば、化物かよ! 俺達の大事な子供達を、あんなのの餌食にさせてたまるかァ!」
チラリと腕時計を見て、
「よし!」
脱出に要する時間を稼げた事を確認すると、制御盤に二本のカギを差し込み、二本同時に右回し。
二つの写真たてを胸に抱き、せり上がって来たボタンを静かに押下。
「ハハハ……あの世で、エマのダンナともめっちまうかもなぁ」
小さく笑うと島のあちこちらで爆発が起き始め、肌にヒリつく危険を察知した女王は再び艦長より先に、
「各艦シールド展開! 回頭せず全速後進ッ! 海域から緊急離脱! お急ぎなさい!!」
オーストラリア軍の艦艇は高速後進。
同時に各艦六機のドローンが格納庫から飛び出し、艦を取り囲むような位置につき、薄いオレンジ色の幕の様なエネルギーシールドを展開した。
一方アメリカ海軍の艦艇では、
「艦長! 島で大規模な連鎖爆発です!」
「何だと! スグに兵を引き上げさせろ! 撤退信号弾を上げても構わん! 急げぇ!」
「艦長! オーストラリア軍が当海域から緊急離脱していきます!」
「次から次へと、いったい何が起きてる!」
艦長が苛立ちを露わにする中、島では薄笑いを浮かべる「狂気神」と呼ばれた謎の海兵が、爆発と振動を気にする風もなく、
「テメェにも飽きた」
最後のパワードスーツを大鎌でパイロットごと真っ二つに切り裂き、抵抗する者がいなくなった、死屍累々たる戦場の真ん中で満足気にニヤリ。
今更の様に「爆発音と振動」に気付き、
「ったぁく、ウッセェなぁ!」
騒音程度に苛立ち周囲を見回した瞬間、島全体が一気に大爆発。
島の周辺一帯は激しい爆光で一瞬にして白一色に包まれ、謎の海兵も気化するが如く「白の世界」に飲み込まれ、アメリカ海軍の艦艇も激しい爆風と熱で上甲板から上が消し飛んだ。
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