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2.邂逅と別れの章-13
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「なっ!? 何のだコレは!」
然もの胆の据わった中尉も驚きを隠せずにいたが、取り囲まれていた海兵は更なる危機を楽しむかの様に口元を緩め、「ヒューッ」と口笛を一つ。
すると浮上して来たパワードスーツ部隊は、海兵達から離れた浅瀬で立ち止まり、
『我々はオーストラリア軍女王陛下直属部隊である。貴君らには、この島から速やかに退去していただきたい。ただし攻撃の意思ありと判断した場合、女王陛下の名の下、全力を以て排除させていただく』
一機の外部スピーカーから、威厳を感じさせる中年男性と思しき声がした。
「クッ!」
次から次へと起きる不測の事態に、中尉が苦虫を噛み潰したような顔で悔しさを滲ませていると、
「中尉殿、女王の名を冠した部隊です! 「張りぼて」ではないと思われます!」
「そんな事は分かっている!」
歴戦の猛者であるが故、むざむざ敵に背を見せ撤退する事を恥と思い、指示をためらっていると、
パァンッ!
夜空に一発の銃声が鳴り響いた。
一斉に集まる視線の先、ハンドガンを構え、銃口から煙をたゆらせる、あの謎の海兵。
わざわざ手持ちの中で最も威力の弱いハンドガンを使うのみならず、小馬鹿にした様に一発だけ撃ち放ち、
「あぁ~~~ん、怖くてぇ、つい撃っちゃったぁ~~~」
台詞棒読みで口元をニヤリと歪め、森の中へと逃げ込んで行った。
「き、きぃ、貴様ァアァアァァァアァァァァ!」
中尉が怒髪天を衝くが如く形相で怒りを露わにするも、内輪モメなど関係ないパワードスーツ部隊は、
『はぁ~仕方ありませんなぁ……抵抗の意思ありと判断! 遺憾ながら、排除行動に移行させていただく!』
ガトリング砲を一斉に構え、耳障りな駆動を上げ再び上陸を開始した。
暗闇の海上から目も眩むほどのライトを点灯させ迫る巨人は、SF映画さながらの光景。海兵達は思わず後退り、冷静さを失った一人の海兵が半狂乱でライフルを構え、
「デク人形が! なめるなァーーー!」
下部に装備された簡易型グレネードを発射しようと銃口を向けた途端、武器に自動反応する兵装なのか、肩部から音も無くレーザーを発射、グレネードを発射しようとした兵士の胸に文字通り、風穴を開けた。
声も無く倒れる兵士。
と、同時に中尉は大絶叫。
「全員散開ィ! 森の中へ走れぇーーーーーー!」
魂の叫びに、海兵達は一斉に漆黒の森を目指し乱れ走ったが、
ボォドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥッ!
パワードスーツ部隊のガトリング砲は容赦なく火を噴き、耳をつんざく連射音を絶え間なく鳴らし、森へと走る海兵達を背中から次々撃ち抜いて行く。
砂を跳ね上げ、木をへし折り、海兵を撃ち抜く光景は、もはや排除ではなく蹂躙行為。
鳴り止まぬ銃声の中、中尉は懸命に走りながら、
「走れ走れ走れぇ! 振り返るなぁーーー! 全力で走れぇーーーーーー!」
一方、地下三階オペレーションルームでは、ベンチに横たわる重篤なヤマトを前に、ジゼとジェイソンが悲痛な面持ちで立ち尽くしていた。
「ハハ……ジェ、ジェイソン……撃たれるって……やっぱ痛いねぇ……」
「しゃべるなヤマトォ! とっ、とりあえず傷口を!」
ショットガンの一撃を至近距離で全弾受けたヤマトの腹部は、服の上からでもズタズタである事が分かった。
最悪の状況がジェイソンの頭をよぎるも、苦悶の表情で服をめくり、傷口を見つめ、
「やっぱりか……」
違った意味で、得心がいった様に呟いた。
露わになったヤマトの体内は、構成こそ人間に似てはいたが、有機体と機械体の中間の様な構造をしていたのである。
(サイボーグ……)
「どうしたら良いんだ……」
予期していたが故にさほど驚きはしなかったが、どう治療すれば良いのか分からず途方に暮れると、ハッと急に何かを思いたち、
「ジゼちゃん! 前さ、崖から落ちて大怪我した時あったろ? そん時、体の中の「何とかマシン」が直したよな? ヤマトに、それ出来ないのか?」
「ナノマシン。構造を見る限りヤマトと私の体は同じ仕様みたいだけど……ヤマトにはOSとドライバがインストールされていないみたい。ナノマシンが活動していないの」
「じゃあ、今までコイツが結構な怪我してもスグに治ったのは?」
「有機体の部分も強化されているから、自然治癒力も高いんだと思う」
「そんな……OSなんて、どうしたら良いんだ……」
(エマに誓っておいて、俺は息子を……)
苦しむヤマトを見ている事しか出来ない自分に、苛立つジェイソン。
そうこうしている間にも、ヤマトの容体は目に見えて悪化。
高い治癒力を以てしても補う事が出来ないダメージを、その身に受けていたのである。
傷つき横たわるヤマトを、自責の念に駆られ見つめるジゼは意を決し、
「ジェイパパ!」
「おわぁ!? ど、どうしたジゼちゃん、急に?」
「試してみたい事があるから……その……アッチを向いててもらえる……」
赤い顔してモジモジするジゼに訳が分からなかったが、ワラにもすがる思いのジェイソンは、
「わ、分かった……」
言われるがまま二人に背を向けた。
「…………」
しばしの沈黙。
気の逸るジェイソンは、
「まだか~まだのなかぁ~」
しかし返事が返らず、
(この緊急時に何してるんだ、全く……)
肩越しにチラリと振り返り、
「なぁ!?」
思わず驚きの声を上げた。
ジゼが、意識を失ったヤマトにキスをしていたのである。
ジェイソンの声に驚いたジゼは耳まで真っ赤に振り返り、
「スケベ! ヘンタイ! のぞき魔! 見るなって言ったでしょ!」
「パパにそこまで言うか!? それよりこの非常時に、ジゼちゃんこそ何してるんだよ!」
「わ、私の中のOSとドライバの圧縮ファイルをコピーペーストしてたの! インストール出来るかも知れないと思ってぇ!」
「ほっ、本当かよジゼちゃん!! それで上手くいったのかぁ!?」
急くジェイソンに、ジゼは赤面したまま静かに頷いた。
「じゃあ、ヤマトは助かるんだな!」
しかしジゼは顔色を曇らせ、
「インストールとナノマシンの活性化に……時間が足りないの……」
大画面モニタを見上げた。
モニタに映る、海兵とオーストラリア軍ロボット兵による激戦。
と、突如、共にモニタを見上げていたジェイソンが急に激しく咳き込み、屈み込んだ。
「ジェイパパァ!?」
駆け寄ろうとするジゼに、ジェイソンは「大丈夫だ」と言わんばかりのジェスチャーを見せ、ゆっくり立ち上がると一呼吸。意を決した様に、
「ジゼちゃんは、ヤマトを抱えて島を出るんだ。ボートと装備一式は洞窟のを使うと良い」
「ジェイパパは?」
不安気な表情で見つめるジゼに、ジェイソンは小さく笑い、
「時間稼ぎが、必要だからなぁ。それに……」
掌を開いて見せ、
「そんな……」
ジゼは二の句を失った。
ジェイソンの掌が、自身の血で赤く染まっていたのである。
「ハハハ……除染作業の時、エマも俺も、かなりの量の放射線を浴び続けたからな……」
「ジェイパパ!」
涙を流し抱き付くジゼに、
「悪いな……」
自分のドッグタグ二つを首から外すと、申し訳なさげな笑みを浮かべてジゼの首にかけ、
「こんな物しか残せてやれなくてゴメンな。ひとつはヤマトに渡してくれ」
個人識別の為のドッグタグは二枚で一組。
通常は戦場で兵士が戦死した時に一枚だけ外して持ち帰り、一方は遺体に残して置く物である。
しかしエマ同様、生きていた痕跡を隠す為と、いつまでも二人を見守っている事を伝えたかったジェイソンは二枚とも外しジゼに託したのである。
全てを理解したジゼは、苦悶の表情で未だ意識の戻らないヤマトを抱え、
「ジェイパパ……」
声を詰まらせうつむくと、大粒の涙を流しながらも笑顔をパッと見せ、
「大好き!」
ジェイソンをその場に残し、走り去った。
フッと小さく笑うジェイソンは、四人で撮った写真と、亡き娘の写真を並べ置き、
「少しはオヤジらしい事して逝かねぇと、エマにも、娘にも怒られッちまうからなぁ」
然もの胆の据わった中尉も驚きを隠せずにいたが、取り囲まれていた海兵は更なる危機を楽しむかの様に口元を緩め、「ヒューッ」と口笛を一つ。
すると浮上して来たパワードスーツ部隊は、海兵達から離れた浅瀬で立ち止まり、
『我々はオーストラリア軍女王陛下直属部隊である。貴君らには、この島から速やかに退去していただきたい。ただし攻撃の意思ありと判断した場合、女王陛下の名の下、全力を以て排除させていただく』
一機の外部スピーカーから、威厳を感じさせる中年男性と思しき声がした。
「クッ!」
次から次へと起きる不測の事態に、中尉が苦虫を噛み潰したような顔で悔しさを滲ませていると、
「中尉殿、女王の名を冠した部隊です! 「張りぼて」ではないと思われます!」
「そんな事は分かっている!」
歴戦の猛者であるが故、むざむざ敵に背を見せ撤退する事を恥と思い、指示をためらっていると、
パァンッ!
夜空に一発の銃声が鳴り響いた。
一斉に集まる視線の先、ハンドガンを構え、銃口から煙をたゆらせる、あの謎の海兵。
わざわざ手持ちの中で最も威力の弱いハンドガンを使うのみならず、小馬鹿にした様に一発だけ撃ち放ち、
「あぁ~~~ん、怖くてぇ、つい撃っちゃったぁ~~~」
台詞棒読みで口元をニヤリと歪め、森の中へと逃げ込んで行った。
「き、きぃ、貴様ァアァアァァァアァァァァ!」
中尉が怒髪天を衝くが如く形相で怒りを露わにするも、内輪モメなど関係ないパワードスーツ部隊は、
『はぁ~仕方ありませんなぁ……抵抗の意思ありと判断! 遺憾ながら、排除行動に移行させていただく!』
ガトリング砲を一斉に構え、耳障りな駆動を上げ再び上陸を開始した。
暗闇の海上から目も眩むほどのライトを点灯させ迫る巨人は、SF映画さながらの光景。海兵達は思わず後退り、冷静さを失った一人の海兵が半狂乱でライフルを構え、
「デク人形が! なめるなァーーー!」
下部に装備された簡易型グレネードを発射しようと銃口を向けた途端、武器に自動反応する兵装なのか、肩部から音も無くレーザーを発射、グレネードを発射しようとした兵士の胸に文字通り、風穴を開けた。
声も無く倒れる兵士。
と、同時に中尉は大絶叫。
「全員散開ィ! 森の中へ走れぇーーーーーー!」
魂の叫びに、海兵達は一斉に漆黒の森を目指し乱れ走ったが、
ボォドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥッ!
パワードスーツ部隊のガトリング砲は容赦なく火を噴き、耳をつんざく連射音を絶え間なく鳴らし、森へと走る海兵達を背中から次々撃ち抜いて行く。
砂を跳ね上げ、木をへし折り、海兵を撃ち抜く光景は、もはや排除ではなく蹂躙行為。
鳴り止まぬ銃声の中、中尉は懸命に走りながら、
「走れ走れ走れぇ! 振り返るなぁーーー! 全力で走れぇーーーーーー!」
一方、地下三階オペレーションルームでは、ベンチに横たわる重篤なヤマトを前に、ジゼとジェイソンが悲痛な面持ちで立ち尽くしていた。
「ハハ……ジェ、ジェイソン……撃たれるって……やっぱ痛いねぇ……」
「しゃべるなヤマトォ! とっ、とりあえず傷口を!」
ショットガンの一撃を至近距離で全弾受けたヤマトの腹部は、服の上からでもズタズタである事が分かった。
最悪の状況がジェイソンの頭をよぎるも、苦悶の表情で服をめくり、傷口を見つめ、
「やっぱりか……」
違った意味で、得心がいった様に呟いた。
露わになったヤマトの体内は、構成こそ人間に似てはいたが、有機体と機械体の中間の様な構造をしていたのである。
(サイボーグ……)
「どうしたら良いんだ……」
予期していたが故にさほど驚きはしなかったが、どう治療すれば良いのか分からず途方に暮れると、ハッと急に何かを思いたち、
「ジゼちゃん! 前さ、崖から落ちて大怪我した時あったろ? そん時、体の中の「何とかマシン」が直したよな? ヤマトに、それ出来ないのか?」
「ナノマシン。構造を見る限りヤマトと私の体は同じ仕様みたいだけど……ヤマトにはOSとドライバがインストールされていないみたい。ナノマシンが活動していないの」
「じゃあ、今までコイツが結構な怪我してもスグに治ったのは?」
「有機体の部分も強化されているから、自然治癒力も高いんだと思う」
「そんな……OSなんて、どうしたら良いんだ……」
(エマに誓っておいて、俺は息子を……)
苦しむヤマトを見ている事しか出来ない自分に、苛立つジェイソン。
そうこうしている間にも、ヤマトの容体は目に見えて悪化。
高い治癒力を以てしても補う事が出来ないダメージを、その身に受けていたのである。
傷つき横たわるヤマトを、自責の念に駆られ見つめるジゼは意を決し、
「ジェイパパ!」
「おわぁ!? ど、どうしたジゼちゃん、急に?」
「試してみたい事があるから……その……アッチを向いててもらえる……」
赤い顔してモジモジするジゼに訳が分からなかったが、ワラにもすがる思いのジェイソンは、
「わ、分かった……」
言われるがまま二人に背を向けた。
「…………」
しばしの沈黙。
気の逸るジェイソンは、
「まだか~まだのなかぁ~」
しかし返事が返らず、
(この緊急時に何してるんだ、全く……)
肩越しにチラリと振り返り、
「なぁ!?」
思わず驚きの声を上げた。
ジゼが、意識を失ったヤマトにキスをしていたのである。
ジェイソンの声に驚いたジゼは耳まで真っ赤に振り返り、
「スケベ! ヘンタイ! のぞき魔! 見るなって言ったでしょ!」
「パパにそこまで言うか!? それよりこの非常時に、ジゼちゃんこそ何してるんだよ!」
「わ、私の中のOSとドライバの圧縮ファイルをコピーペーストしてたの! インストール出来るかも知れないと思ってぇ!」
「ほっ、本当かよジゼちゃん!! それで上手くいったのかぁ!?」
急くジェイソンに、ジゼは赤面したまま静かに頷いた。
「じゃあ、ヤマトは助かるんだな!」
しかしジゼは顔色を曇らせ、
「インストールとナノマシンの活性化に……時間が足りないの……」
大画面モニタを見上げた。
モニタに映る、海兵とオーストラリア軍ロボット兵による激戦。
と、突如、共にモニタを見上げていたジェイソンが急に激しく咳き込み、屈み込んだ。
「ジェイパパァ!?」
駆け寄ろうとするジゼに、ジェイソンは「大丈夫だ」と言わんばかりのジェスチャーを見せ、ゆっくり立ち上がると一呼吸。意を決した様に、
「ジゼちゃんは、ヤマトを抱えて島を出るんだ。ボートと装備一式は洞窟のを使うと良い」
「ジェイパパは?」
不安気な表情で見つめるジゼに、ジェイソンは小さく笑い、
「時間稼ぎが、必要だからなぁ。それに……」
掌を開いて見せ、
「そんな……」
ジゼは二の句を失った。
ジェイソンの掌が、自身の血で赤く染まっていたのである。
「ハハハ……除染作業の時、エマも俺も、かなりの量の放射線を浴び続けたからな……」
「ジェイパパ!」
涙を流し抱き付くジゼに、
「悪いな……」
自分のドッグタグ二つを首から外すと、申し訳なさげな笑みを浮かべてジゼの首にかけ、
「こんな物しか残せてやれなくてゴメンな。ひとつはヤマトに渡してくれ」
個人識別の為のドッグタグは二枚で一組。
通常は戦場で兵士が戦死した時に一枚だけ外して持ち帰り、一方は遺体に残して置く物である。
しかしエマ同様、生きていた痕跡を隠す為と、いつまでも二人を見守っている事を伝えたかったジェイソンは二枚とも外しジゼに託したのである。
全てを理解したジゼは、苦悶の表情で未だ意識の戻らないヤマトを抱え、
「ジェイパパ……」
声を詰まらせうつむくと、大粒の涙を流しながらも笑顔をパッと見せ、
「大好き!」
ジェイソンをその場に残し、走り去った。
フッと小さく笑うジェイソンは、四人で撮った写真と、亡き娘の写真を並べ置き、
「少しはオヤジらしい事して逝かねぇと、エマにも、娘にも怒られッちまうからなぁ」
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