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続章_62

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 M市の大手鉄道会社の駅から歩いて五分程の所にある、病床数六百を超える病院―――
 正面入り口に急停車する黒塗りのフォードアセダン。
 後部座席の扉が勢いよく開き、血相を変えたヒカリとサクラが飛び出して来て、病院の中へ駆け込んだ。
 面会時間はとうに過ぎ、薄暗い廊下を走るヒカリとサクラ。
 案内板を目にしたヒカリは、
「サクラちゃん、コッチ!」
 直進しようとするサクラを呼び止め角を曲がると、ベンチに座る見慣れた影を見つけ、
「何があったんだい!」
「!」
 ヒカリの悲痛な声に振り返り立ち上がったのは、ハヤテであった。
「ハーくんどう言う事なんだい!」
「ハヤテくん何があったのォ!」
 今にも泣き出しそうな顔で、ハヤテにしがみ付くヒカリとサクラ。
「す、すまない……」
 悲痛な表情で、言葉少なにうつむくハヤテ。
 三人が居るのは赤ランプの灯る『手術室』の扉の前であった。

 数時間前―――
 トキに呼び出されたハヤテは職員室にいた。
「上越先生、用件は何ですか?」
 ぶっきらぼうなハヤテに、自席に座るトキは困った様な笑みを浮かべ、
「もう少し愛想よくしたらどうだ?」
「すみません。コレが俺の素なんで」
「別にアタシには構わないけど、東海林達に見せてる様な顔を、クラスメイト達にもしてやれば良いモノを」
「……先生、俺はツバサを家まで送ってやらないといけないんで、用が無いなら、」
「待て待て待て待てぇ!」
 立ち去ろうとするハヤテを、トキは半ば呆れた顔して制し、小さな咳払いを一つすると、
「なぁ、東。クラスメイトと馴染もうとは思わないのか?」
「別に」
 即答するハヤテ。
 トキはため息交じり、
「百歩譲ってオマエはそれで良いとして、東海林達はどうなる?」
「?」
「九山や山形が、人付き合いが苦手なのは知ってる。しかし、いつまでもオマエの背に隠れてる訳にはいかないだろ? 一生面倒見てやる気なのか?」
「!」
「アイツ等は、いやオマエも含めて、もっとクラスの連中と関わりを持つべきなんじゃないのか?」
「…………」
「幸いウチのクラスは気のイイ奴が多い。世間に出る前に練習するには、うってつけだと思うがなぁ?」
「…………」
 確かにトキの言う事は一理ある。
 自分の事は一先ず脇に置くとして、サクラとツバサがヒカリ以外のクラスメイト達と、ヒカリと接する様に笑顔を見せる姿を想像すると、ハヤテは反論する事が出来なかった。
「突き放せとは言ってない。ただ、オマエ自身のこれからも含めて、アイツ等の将来を考えるなら、少し距離を置く事も必要なんじゃないのか?」
「俺は……」
 うつむき、答えを見い出せないハヤテ。
(俺はどうするべきなんだ……俺は、心に傷を負っているアイツ等を守ってやりたい……でもそれは一方的で、過保護な思い上がり……でしかないのか?)
 顔を上げると、ふと壁掛け時計が目に留まった。
「ご、五時四十五分!?」
 ギョッとするハヤテ。
「わ、悪い先生ぇ、話の続きはまた今度ぉ!」
「ちょっと待て東! 話はまだ!」
「ツバサが待ってんだ! アイツ、今日は急ぎの用事があるんだ!」
「東ぁーーーーーー!」
 ハヤテはトキの制止を振り切り職員室を飛び出すと、教室へ急いだ。
 廊下を駆け、階段を駆け上がり、引き戸をガラッと開け放ち、
「悪いツバサ! 待たせたぁ!」
 夕闇に染まり始めた教室内は……無人であった。
「ツバサ……」
 ツバサの座っていたサクラの席に視線を落とすハヤテ。
 そこには一枚のメモが貼られ、
 『同時発売の「特典付き設定画集」の初版が売れてしまいそうなので先に帰るであります。何事も起きてないので大丈夫です。ではまた明日♪ ~ツバサより~』
 奇しくも遠くに夕立の近づきを知らせる雷鳴が轟き、教室内は急速に暗さを増す。
 言い知れぬ胸騒ぎを感じるハヤテ。
(ツバサァ!)
 自席のカバンを手早く担ぎ、教室を飛び出した。
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