ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

第十章

10-53

　統率が取れておらず、単身で真っ先に辿り着いた一体の合成獣が放つ大上段からの一刀を軽々かわすターナップ。

『んなぁモンに当たるかよォオ！』

　反撃の一撃を横っ面に喰らわそうとしたが、

（んなっ？！）

　あえなくかわされ、

（んなぁ馬鹿な？！　重てぇ剣の振り下ろしの最中によけられるモンかぁ！？）

　物理法則を無視した動きに驚かされたが、驚いてばかりは居られない。
　逆に「空打ち」となって体の動きが流れてしまい、物理法則に縛られる番に回ってしまった彼へ別の合成獣が振り下ろしの一刀を。

（やべぇ！）

　咄嗟に体をよじる。
　辛うじてかわしたものの不自然な態勢になってしまった所へ容赦なく、三体目、四体目の連続攻撃が。
　堪らず、

（クッ！）

　地を蹴り一旦大きく距離を取る。
　そんな彼の眼の端に留まったのは、

『お嬢ォオオオッ！？』

　エリート合成獣五体に取り囲まれるパストリスの姿。
　逃げ場無く、危機的状況を目の当たりに、

『クソがぁああぁあッ！』

　助けに向かおうとしたが、合成獣の名の上に「エリートの冠」をいただく敵がその様な暇を与えてくれる筈も無く、気を逸らしてしまった所へ容赦なく、

『『『『『ギャワァーーーッ！』』』』』
『そこどけぇヤァクソ共がぁあッ！』

　ここぞとばかりに波状攻撃を仕掛けて来て、焦りの滲んだ荒い動きで攻防を繰り返しながらパストリスの下へ向かおうと試みた。

　しかし集中力を欠いた攻撃など「元百人の勇者」であるエリート合成獣たちに通用する筈も無く、手間取り、思うように助けに迎えず、時間ばかりが浪費される中、彼女を取り囲む合成獣たちは、

『お嬢ォオーーーッ！』

　叫び虚しく、小柄な少女の体に剣を一斉に突き立てた。
　その惨劇を、

『先ずは一人さねぇ♪』

　悦に不敵に笑うラミウム。
　神速と呼ぶに相応しい素早さで、ラディッシュと幾度も剣を交えながら。
　彼の心に対する揺さぶりも兼ねての勝利宣言であったが、

『やっぱり貴方はラミィじゃない♪』
「？！」

　返された笑顔からは余裕すら感じられ、
（どう言う意味の笑いさぁねぇ……）
　彼女にとっての不穏な空気を感じると、剣山の如くに剣を突き立てた合成獣たちの輪の真ん中から、

《我を護りし天世の光より、真実の扉を今開かぁん！》

　声が上がると同時に爆裂するような黒きチカラが。
　その威力は並みでなく、

『『『『『ギャワァーーーッ！』』』』』

　踏み止まろうと踏ん張るエリート合成獣たちを根こそぎ弾き飛ばし、稲光を含んだ黒き地世のチカラを光背に、

『ここからはボクも本気で行くのでぇす！』

　明王の如き眼光で立つは、中世の七草パストリス。
　ケモ耳と尻尾が生え、ロリな容姿はより愛らしく、凛々しい表情とのギャップ萌えを抱かせる立ち姿ではあるが。

　彼女の柔肌に、剣先の一つも届いてはいなかったのである。

　むしろ情け容赦のない攻撃が、同情から攻撃に躊躇いを覚えていた彼女を本気にさせてしまった。
　体勢を立て直し始めた合成獣たちに間を与えず、

『行くのでぇすぅ！』

　両拳を固めて真っ向勝負。
　ロリな少女は獣の群れに立ち向かって行く。