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第十章

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 魔王城内を駆ける中世の七草ラディッシュ、パストリス、ターナップ――

 上階へ続く階段を駆け上がりながら、
(これで何度目だろ……)
 不思議な感覚に囚われていた。

 リアルでのラスボスとの対峙は一度きりが普通であり、一度きりであるが故に「ラスボス」なのだが、それが今回で何度目か。

 まるでネトゲにおける「レベリング」や「アイテム集めの周回」のような、同じ行為の繰り返しに、
(無限ループみたいだな……どれがいつの記憶なのか分からなくなる……)
 同じ体験を何度も何度も際限なく繰り返し体験しているような感覚、デジャヴェキュ(既体験感)にも似た感覚に囚われるラディッシュであったが、

(これを最後にしなきゃ!)

 決意を新たにした。
 仲間にさえ打ち明けていない「とある覚悟」を以て。
 やがて、

「!」

 目に飛び込んで来たのは見慣れてしまった豪華な扉。
 謁見の間の入り口を示す物であり、勢いそのまま跳ね開け飛び込み玉座の足元まで続く長い長い赤絨毯の先に、

『キッシッシッ♪ ラディだけを招いた筈なんだが、仕方の無いグランさぁねぇ~♪』

 小馬鹿にした余裕の半笑いを浮かべる、

(((ラミウムッ!)))

 ドス黒い赤紫の髪に、瞳。
 時に無邪気な、時に聖母のような輝きを纏っていた彼女は消え失せ、今や眼前に居るのは、人の怨念を貪り生きているかの如き、拒絶と嫌悪を抱かせる佇まい。
 そのような形容に変わり果ててしまった彼女は玉座に座って片肘ついて踏ん反り返り、真上から見下ろすように、

「まぁイイさぁねぇ♪ 元よりアタシが招いた失策さねぇ~♪ それにしても、」

 緊張を以て慎重に近付く三人に不敵な笑みを向け、

『ドロプはどうしたのさねぇ~♪』
『『『!?』』』

 そして白々しくも、

「あぁ~そうだったさねぇ~♪」
 たった今気付いた風な口振りで、

『アンタが痴話喧嘩の末に、半殺しにしちまったんださぁねぇ♪』
『『ッ!』』

 激しい怒りを覚える、パストリスとターナップ。
 心無いからかいに。
 足を止めてうつむき、沈黙してしまったラディッシュが、どれほど心を痛めて来たか、その辛さを間近で見て来たから。

 昔から「からかい好きな彼女」ではあったが、人の心を傷付けるようなからかいはせず、容姿と同等の「心根までも」の変わりように二人の怒りは、
(((この人・コイツ)は(ラミィじゃ・姐さんじゃ)ナイッ!))
 彼女の軽はずみな言動は、侮蔑は、決別を決意させるに十分であった。

 それは傷口に塩を塗られ、悲しき過ちをフラッシュバックしてしまったラディッシュも同じ。
 単に落ち込んでいるかに見えたが、彼は怒りに満ちた顔をバッと上げ、

『ドロプまで馬鹿にした言い方をするなァ!』
「「!」」
「!」

 溜めに溜めた鬱積を一気に爆発。
 自身の事より、

《誰かの尊厳を守る為に怒る》

 何とも彼らしい怒りようを、玉座のラミウムは愉快げに「キッシッシッ♪」と笑い、
「アンタは変わらないさぁねぇ~♪」
 懐かしんでいるのか、馬鹿にしているのか。

 皮肉っているようにも聴こえたが、斜に構えた笑顔からでは、その言葉の真意を知る事は出来ない。
 そして、

「だがねぇ」

 彼女は笑顔の眼の端だけギラリと光らせ、

『アタシがアタシである為に、ラディ!』
「「「!?」」」

「アンタにはアタシの軍門に下ってもらうさねぇえ♪」
「「「!」」」

 指先をパチンと打ち鳴らすと、彼女の背後に十体の合成獣が。
 人に近い雰囲気を醸し出す佇まいから、階下で遭遇した精鋭合成獣たちと同等のチカラを有しているのは容易に推察できたが、

(((何か違う!)))

 それは三人が、数々の過酷な戦場で磨き上げた直感。
 反射的に警戒心を増す姿にラミウムは「キッシッシッ♪」と愉快げに、

「流石ぁさぁねぇ♪」

 素直に感心した上で、

「コイツ等ぁ、百体近くの合成獣からグランが選んだ「アタシの為の選りすぐり」なのさねぇ♪」
(((百体?!)))

 不穏なキーワードが三人の耳に残る。
 目の前に現れた、より強大なチカラを持った合成獣たちから感じる脅威よりも。
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