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第十章

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 想いがすれ違ってしまった天世の三人が開戦の口火を切った時――

 雑兵の合成獣たちを斬り倒しながら上階へ足を踏み入れるラディッシュたち。
 そこには新たな一団が待ち構えていて、

『こぉっ、この気配はまさかぁ?!』

 視線の先に居たのは合成獣、金狼と化したグラン・ディフロイス。

 彼が「合成獣化させられた」など知る由もないラディッシュたちではあったが、彼から感じられる懐かしき気配が、佇まいが、そして何よりラディッシュの両腰で彼の愛刀であった双刀、天世の剣「天流虚空丸」と地世の剣「地流閻魔丸」が、

(泣いている!)

 元主の変わりようを嘆き悲しむかの如くに小さく激しく震え、振動していた。
 しかし彼は魔王ラミウムに自身の口で語ったように、彼は彼であっても「以前の彼」ではない。

 当人いわく「記憶を引き継いだ別人」なのである。

 背後に二十体ほどの精鋭合成獣(元百人の勇者)を従えた彼は、勇者一行の慄きように、
(この者達までも、容姿まで変わってしまった私の中に「元の私」を見るのですか)
 今の自分を見てもらえていない感覚。

 そこに覚えたのは嫉妬にも似た苛立ちであり、彼は自身が別人であるのをあえて強調するように、

『貴方がたの事は「以前の私の記憶」から知っています』
(((((以前の私ぃ!?)))))

 衝撃を受ける勇者組。
 別人であると知らされ。

 彼の身に「何が起きたか」など今の五人に知る術はなく、懐かしき気配を放つ恩人の変わりように、
(((((…………)))))
 ただただ落胆を隠せなかった。

 今は亡き友サロワートと同様、地世の魔王軍幹部「地世の七草の一人」でありながら、理知的であり、言葉を直接交わす機会こそ少なかったが、我が身を顧みず命を救ってくれた「不思議な縁で結ばれた彼」は、もう居ないのである。

 敵を前にした緊張感は維持しつつも落ち込みを滲ませる勇者一行であったが、金狼グランは淡々と、複雑な心中を気遣うつもりも無いらしく、
「我が主より「勇者のみ」を、丁重に招くようにとは仰せつかっておりますが、」
(((((!)))))
 言い回しから新たな動きを即座に警戒する勇者組を前に、

『誠に僭越ながら貴方が真に「我が主の隣に立つに相応しい」か、見極めさせていただきます』

 それは開戦を告げる言葉であり、彼が右手を上げると、

 シャシャキィキィーーーン!

 背後に並び立っていた合成獣たちが一斉に、武器を手に身構えた。
 マスゲームの如き、美しき一斉動作で。

 今まで遭遇して来た数々の「無駄に吠えるばかりの合成獣」との違いに、
(やっぱりさぁ!)
(間違い無きにありぃんす!)
 とある確信を覚えるニプルウォートとカドウィード。
 
 それは、
((拉致された百人の勇者!))
 密かに抱いていた違和感。

 階下で初めて対峙した時、既に感じていた感覚であり、何故に二人は気付けたのか。
 
 ニプルウォートは天技に長けたフルール国の中でもトップクラスの、精神系天技の使い手であり、眼前の合成獣たちから滲み出る「中世人との合成獣化」とは違う地世のチカラの異質を敏感に感じ取っていたのである。

 そしてカドウィードは、形は違えど眼前の合成獣たちと同類の「造られた身」であったから。
 故に、この場にチィックウィードが居たら、気付けた一人に彼女もなっていた可能性は否定できない。
 それはさて置き、気付いた二人は無言で視線を交わし合い、

《ラディに「同胞殺し」をさせる訳にはいかない!》

 リンドウとヒレンの決意に続く互いの覚悟を、目と目で確認し合った。

 勇者としての自覚に欠けた未熟さゆえにドロプウォートを手に掛けてしまい、心が壊れる寸前までに至った彼の心が後に真実を知り、本当に壊れてしまうのを恐れ。

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