上 下
696 / 706
第十章

10-47

しおりを挟む
 話は「ラディッシュ達が如何にして魔王軍の裏をかくに至ったか」から現在に戻り――

 地世王ラミウムが座する居城を目指す新生勇者組。
 雑兵と呼ぶに相応しい汚染獣や合成獣を蹴散らしながら、地世の大地を駆け抜ける。

 天世人の身で地世の大地に降り立った「初めての天世人」であろうリンドウとヒレンの表情には些か硬さが見られたが、他のメンバーは幾度目かの城攻めであり、道に迷う事も、まして心の迷いは定まった表情から窺えなかった。

 しかし「天世の二人の緊張」は覚悟とは別の話で、止むを得ぬこと。

 普通であれば天世人が地世に降り立った時点で地世のチカラに魂まで蝕まれ、天世の生まれ変わりのシステムからも除外され、待っているのは真なる死。
 それを防いでいたのが二人が首から下げるペンダントであり、先人の失われた技術の結晶である。

 戦士として力量差による敗北ならば受け入れられもしようが、装飾品の一つに自身の命が左右される現状など「緊張するな」と言う方が無理な話なのである。
 当人たちは平気を懸命に装ってはいたが。

 それぞれがそれぞれに表立って顔や口には出さぬ思う所はあるものの、順調過ぎるほど順調で勇者組は魔王城へ歩(ふ)を進め、駆ける足を止めること無く城内に雪崩込み、

『奇襲は上手くいったみたいだねぇ!』

 気を抜きはしないものの、ラディッシュは一先ずの安堵を口にした。
 因みに中世や天世から来た彼ら、彼女たちが知る由もない話ではあるが、天世と繋がっていたゴミ捨て場は地世の中央政権の直轄地として城の近くにあり、その事も侵入を成功させた要因の一つとなっていた。

 天世から地世にとって有用なゴミが降って来た時、一般人に掠め取られないよう素早く回収する為の措置である。

 城内に侵入して安堵を口に出来たのも束の間、
『『『『『『『ッ!』』』』』』』
 上階を目指す七人の前に立ちはだかったのは、

{…………}

 新生グランともめた全身鎧を筆頭に、従来の合成獣たちと明らかに佇まいが違う、人間臭さまで感じさせる二十体ほどの多種多様な獣系合成獣の群れ。

 新生グラン直轄部隊の一部であり、グランがラミウムに相談なしに独自判断で残した部隊の一部であった。

 つまりは「元は人間」であった「百人の勇者」の一部。
 平たく言えば「ラディッシュの同期」であったが、勇者組がその事実を知る筈も無く、行く手を塞ぐ敵を前に、

『どかないなら斬りますよ! 時間が無いんです!』

 ラディッシュが先陣切って斬り掛かろうとした。
 しかし、

「?!」
「「…………」」

 無言のリンドウとヒレンに制され、

「どうして?!」

 古参の勇者組も戸惑いを覚える中、二人はあっけらかんと、

「時間が惜しいのし♪ ここはアーシとヒレンに任せるしぃ♪」
「そういう事よ。互いの手の内を知ってる私達が組んだ方が、戦いの連携も取り易いのよ」

 軽口のような物言いではあったが、もっともな話にも聴こえ、提案に乗るべきか、
(((…………)))
 悩むラディッシュ、パストリス、ターナップ。

 良く言えば「素直な気質の三人」は額面通りに受け取り悩んだが、物事を常に斜めから見る習性が沁みついて居るニプルウォートとカドウィードは違っていた。
 平時とは微妙に異なる二人の声の調子から何かを察し、

「確かにその通り時間が無いさ♪ まごまごしてたら、遠くに感じる本隊らしき部隊が来ちまうさ♪」
「げにぃ二人は「腕利き」にぃありぃんす♪ この場は二人に任せぇカディ達は急ぎ上階を目指しんしょぉえ♪ 手間取ってぁ裏をかいた意味まで失いんすぇ♪」

 リンドウ、ヒレンの考えを擁護した。

 説得された事ではあったが、
(((…………)))
 むしろ二人に決意にも似た「何かがある」と気付かされた三人。
 
 秘めた覚悟を表に曝すは「無粋な行い」と判断し、無言の頷き合いから同じ想いに至ったのを確認し合うと、ラディッシュは了承の意味を込め、
『最上階で待ってるよ!』
 ニプルウォート達と上階へ上がる階段を目指して走り出したが、走りながら、

(((((?!)))))

 五人は想定外の事態に気掛かりが。

 颯爽(さっそう)と行く手を阻むと思われた全身鎧が配下の合成獣ともども微動だにせず、遮る素振りの一つも見せなかったのである。

 それはリンドウ、ヒレンとの対戦を望んでいるかの如き姿であり、先を急がなければならない勇者組にとって好都合な話ではあったが。

 残す二人の身は気掛かりであったが、今は一分、一秒でも早くラミウムの下に辿り着かねばならず、遅れれば遅れるほど中世に危害が及ぶ可能性は高まり、以前と変わらぬ仄暗い城内を駆けながら、

(二人とも無事で!)

 祈らずには居られないラディッシュ達であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

処理中です...