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第十章

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 天技を用いた仮想空間での会議が幾度か開かれてのち――

 妖艶な笑みを浮かべて座席にしなだれ掛かる女帝フルール。
 その傍らに凛と立ち、

「スパイダマグ氏から御報告のありました「元老院の監視強化」に伴う、反抗勢力との「秘匿通信の途絶」は気になる所でありますが、本日予定しておりました議題は以上となります」

 理路整然と進行役を果たし、深々と頭を下げるのは彼女の最側近のリブロン。
 会議に同席していたエルブ王、カルニヴァ王、スパイダマグが小さく頷き応えると、アルブル国代表兼、バーチャル会議の運用監視役としても参加していたニプルウォートが、ヤレヤレ顔して大きく背伸び。

「やっとこ終わったさぁ~疲れ方は違っても、疲れるのは一緒さぁ~」

 こぼした愚痴に一同から同意の笑いが起こり、会議は滞りなく終わりを迎えかけたが、

《アタシが居ない間に随分と面白そうな事を始めてるじゃないさねぇ~♪ 発案者は大方ラディさねぇ♪》

 嫌と言うほど聞き覚えのある声が。

『『『『『『ッ!』』』』』』

 驚愕の一同が振り向くと、そこにはいつの間に同席したのか、

『『『『『『ラミウムゥ!』』』』』』

 宝石アメジストのような美しき瞳と、艶やかな薄紫の髪を持った彼女が。
 人々の尊崇を一身に集め、百人の天世人の序列一位にまで登り詰めた容姿で。

 その彼女は驚きと怒りの合唱を愉快げに「キッシッシッ」と笑い、皮肉たっぷり、
「アタシをもぅ呼び捨てさぁねぇ~♪ せっかく「懐かしき天世様の姿」で来てやったのにさねぇ♪」
「「「「「「…………」」」」」」
 からかいに絶句するニプルウォートたち。
 
 想定外から言葉を失う一同を前に彼女は悠然と、

『おぉ~とぉ「退席しよう」なんてぇ考えるんじゃないさねぇ♪ この空間の管理者権限はアタシが握ってるさねぇ♪』
「「「「「「!」」」」」」
「信じられないさねぇ? けどぉアラート無しにアタシがここ居るのが、何よりの証拠さねぇ♪」
「「「「「「…………」」」」」」

 反論できない一同の姿に「キッシッシッ」と彼女は再び愉快げに笑い、

「理解が早くて助かるさねぇ♪ 誰だって意識だけが戻らない肉人形にはなりたかぁないだろさぁねぇ~♪」
「「「「「「…………」」」」」」

 セキュリティーは完璧な筈であった。
 天技に特化したフルール国の最新技術を惜しみ無く使った上で、中世人の誰もが持つ「地世の微細な汚染」までフィルターにかけて除去し、ニプルウォートの直接監視までも就け、更に完璧を期する為、アクア国やパラジット国のような準加盟国の脆弱な接続を許さず。
 悪意ある侵入や破壊などを目的としたクラッキング、まして乗っ取りを気付けず受けるなど、技術的にあろう筈が無かったのである。

 しかし目の前に居るのは紛れもなく、地世のチカラの権化たる「地世の魔王ラミウム」。

 驚きを隠せぬ一同を前に、
「それでも「解(げ)せぬ」と言いたげな顔してるさぁねぇ~♪」
 彼女は不敵にニヤリと笑うと、

「せっかくの再会さねぇ~キッシッシッ♪  種明かしを一つしてやるさぁねぇ♪」
((((((!?))))))

「アンタ達も脇が甘いのさぁねぇ~♪」
((((((?))))))

「目の前にデカイ敵でも居りゃぁ「一枚岩になれる」と思ってるのがぁ、そもそもの間違いなのさねぇ♪」
((((((まさか!))))))

「気付いたさねぇ?! その通りさぁねぇ♪ 新参の加盟国の中にぁ地世に対する安全保障上、仕方なく参加した国もあるのさねぇ♪ アクア国のように恩義に感じて従順な国ばかりと思ってる所がぁ何とも甘々なのさぁねぇ~キッシッシッ♪」
「「「「「「…………」」」」」」

 敵は身内に在り。
 獅子身中の虫。

 中世人を守る為、延(ひ)いては「中世を守る為の結束」を促したにも拘らず、協調の裏の顔で「後足で砂をかけている国がある」と知らされ、腹立たし気に苦虫を嚙み潰したような顔をするニプルウォート達。
 悔しさを隠せぬ一同を前に、彼女は再び「キッシッシッ♪」と笑い、

「まぁソイツ等を擁護する訳じゃぁないが「コッチに加担した訳じゃない」ってのぁ付け加えてやるさぁねぇ~♪」
((((((?!))))))

「連中ぁアンタたち四大だけで取り決めるのが、よほど腹に据え兼ねたんだろうさねぁ~渋々加盟した国ん中にぁ「一泡吹かせよう」と、事あるごとにこの会議への侵入を謀っていて、アタシ達ぁソイツをちょいと踏み台にさせてもらったのさぁねぇ♪」
((((((!))))))

 手段はどうであれ、四大の威信を懸けた一大プロジェクトがいとも容易く侵入、乗っ取られたのは疑いようも無く、その足掛かりを作ったのが「身内の新参国」と知らされ、

((((((クッ!))))))

 四大大国の面目は、アドバイザーとして構築にも参加したニプルウォート、スパイダマグのプライドはズタズタであった。
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