上 下
688 / 706
第十章

10-39

しおりを挟む
 いつから会議に参加していたのか、スパイダマグは筋骨隆々な巨漢を申し訳なさげに小さく縮め、痛々しく思えるその姿に、

「オマエさんは気にし過ぎなのさぁ、スパイダぁ♪」

 ニプルウォートが苦笑いを浮かべると、

「げにぃありんすなぁ。被害者でもありぃんすソナタがぁ、そこまで気に病む必要はありぃせぇんぇ♪」
「まったくじゃな。ヌシが架け橋となり各国への外遊を続けておらなんだら、中世における天世への心象はもっと悪くなっておったじゃろぅて」
「だな。各国王族も民衆から「天世に弱腰」と、責め立てられていたやも知れぬしな」

 同盟四国王からのねぎらいの言葉に、
「…………」
 スパイダマグは黙り、ほんの僅かに、ほんの微かに揺れる両肩からは、一枚布で隠した素顔での感涙を感じさせた。

 彼の陰ながらの苦労が報われた瞬間でもあり、そこへトドメを刺すが如くニプルウォートからの、

「リンドウが「民(みん)の架け橋」ならならぁ、さしずめオマエさんは「官(かん)の架け橋」で、その苦労と努力は誰もが認めてるのさぁ♪」

 からかいも含めた称賛ではあったがイタズラ好きな彼女の狙い通り、彼の涙の防波堤はついに決壊。
 想像以上に苦労の絶えない活動でもあったのか、

『ありがどうございまず皆様がたぁあぁぁ~~~!』

 男泣き。
 大泣き。
 少々子供っぽくも、それこそ苦労の表れか。

 スパイダマグの落ち着きを待っての閑話休題。

 しばし後、
『とぉ、取り乱し、大変失礼致しました』
 冷静を取り戻した彼は話しを本筋に戻すべく、

「主軸となる四国以外の同盟各国でも汚染獣の群れの散発的、かつ断続的活動が確認されていて、信奉者たちの勧誘工作も水面下で活発化しているようだとの事ですが……やはり今はその場しのぎの対処療法しか無いようでして……」
「「「「「…………」」」」」
 するとカルニヴァ王が『ならば』と声を上げ、

「来たる有事の際に我ら四国だけでなく、同盟諸国も中世を導けるよう連携を強める為に、今後はこの会議に参加させてはどうだろう?」
「なるほどのぉ。確かに一理あり」

 頷くエルブ王であったが、
「…………」
 黙して同意を示さない女帝フルール。

 天技の運用開発に関して頭一つ抜けている国の長であるが故に何事か懸念があるのか、同じく同意を示さなかったニプルウォートを妖艶な眼差しで見つめながら、

「今の話ぃ如何な思いんすぅ?」
「「「「「「…………」」」」」」

 問い掛けに視線が集まると、四大大国の「二王が示した案」にも拘らず、

『ウチは反対さ』

 彼女は平然と、昂然と却下。
 女帝フルールの傍らに立つリブロンも内心では彼女の意見に同意であったが、物怖じもせず切って捨てる物言いに、元同僚の諸王に対する不敬に、

(言い方ぁ言い方ぁ!)

 背筋に冷や汗をかいたが、ニプルウォートを未だ「実の娘と同じ」に思っている女帝は、彼女の肝の座りを、堂(どう)を、艶やかな笑みで以て称賛するように「ふっ」と小さく笑い、

「何故に否定にぃありぃんすかぇ? 「連(れん)を密に」はぁ悪き話でぇありせんぇ?」

 重ねて問うた。
 理由を承知の上で訊いているのを窺わせる、含みを持った笑みを浮かべ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...