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第十章

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 背後から首元に小刀の刃先を当てられた監視男が過去の選択を悔いていると、その背後から、
{{そのまま動かず何もしゃべる(なんぉ・なんのぉ)}}
(ッ!?)
 声は明らかに一か所から発せられているにも拘らず、二重に重なった仄暗い子供の声が。

 その尋常ならざる異様さに、

(ふっ、普通じゃなぁあぁい!)

 かつてない恐怖を感じていると、背後の声は闇を纏った物言いのまま、
{{サンニンへのシュウゲキをくわだてたオマエのヤトイヌシはシマツした(なんぉ・なんのぉ)}}
(しっ、始末ぅうぅでぇすとぉ!?)
{{テサキとなってうごいていたオマエもタイショウ(なんぉ・なんのぉ)}}
(ヤッパリですかぁああぁぁ!)
 男は心の中で後悔を泣き叫んだが、

{{しかし}}
(?)
{{オマエはヨワイのにサンニンをまもった(なんぉ・なんのぉ)}}
(!)
{{だからコンカイは、みのがしてしてやる(なんぉ・なんのぉ)}}
(?!)
{{ころされなかったイノチをどうつかうか、よくカンガエル(なんぉ・なんのぉ)}}

 言い終わりと同時に首元から刃先が消え、
(!?)
 背に感じていた冷気も一瞬にして消え、聴こえていた筈なのに聴こえていなかった「大通りの喧騒」も耳に届き始め、

「た…………」

 男は脱出不可の仮想世界から現実世界に、無事に戻った帰還者のような心持ちで、

『助ぅ~かったぁあぁ~~~』

 大きな大きな安堵の息。
 極限の緊張から解放されて膝から崩れ落ち、その場にへたり込んだ。
 そして、

「…………」

 しばしへたり込んで後、決意を感じさせる勢いでスクッと立ち上がると、
「…………」
 憑き物が落ちたかのような毅然とした顔付きで、男は陽の当たる大通りに向かって歩き始めた。

 その背を、
(…………)
{{…………}}
 物陰の影から静かに見つめるチィックウィード、キーメ、スプライツ。

 三人に密かに見守られながら、男は村の警備隊詰所に入って行った。
 追われる恐怖から逃れる為にではなく、前向きに。

 再出発を誓うたくましい背に、
(♪)
 何処か得意げな笑みを浮かべるチィックウィードと、

{{…………}}

 少々悔しそうに黙るキーメとスプライツ。
 男の取った行動が「彼女の勘の正しさ」を証明して見せた結末になったから。

 しかしそれを大っぴらに認めるのは甚だ癇に障り、話の矛先を変えて優位性を保とうと企ててか、急に何の前触れもなく、
{{チィ、いく(なんぉ・なんのぉ)}}
 唐突な言葉に当然ながら、

(なぉ?)

 意味が分からず首を傾げると、二人は「勘が悪いな」とでも言いたげに、
{{パパたちにジジョウをはなして、ゲンケイのタンガンショをだしてもらう(なんぉ・なんのぉ)}}
(!)
 ハッと気付かされるチィックウィード。
 驚きと同時、二人が監視男を「善人と認めた」のを察し、嬉しいやら、喜ばしいやらニヤニヤが止まらず、

{{…………}}

 バツが悪いのか無言で居る二人に対し、満面の笑顔で、
(フタリともぉダイスキなぉ♪)
{{う……}}
 愛らしい天使からの告白にハートを射抜かれるキーメとスプライツ。

 彼女の想いは温かく、心安らぎ、心地よくもあったが、表の人格の彼女にそれを素直に告げるのは悔しくもあり、
{{ニヤニヤしてキモチワルイ(なんぉ・なんのぉ)}}
(きっ、キモぉ?!)
 素っ気なさを装ったお茶濁しにチィックウィードが慄くと、

{{あとはジブンでなんとかする(なんぉ・なんのぉ))}

 二人は心の奥に再び引き籠り、彼女の両眼は通常状態に戻った。
「…………」
 主導権は戻ったが、急ぎ足の交替は「照れ隠し」が透けて見え、

(すなおじゃナイなぉ♪)

 幼いながらも苦笑のチィックウィードはトロペオラム達の無事な帰宅を見届けた後、ラディッシュ達に嘆願書の作成と提出の協力を願って回った。
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