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第十章

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 良心と保身の狭間で眠れぬ一夜を過ごした生真面目監視男――

 私室のベッドの上で、のっそり起き上がる。
 両眼の下に酷いクマを作り、

「一睡も出来なかった……」

 嘆き窓の外を見た。
 空は曇天顔とは真逆の、気持ち良いくらいの快晴。

 晴れているが故に、子供たちが今日も巡回に出るのは容易に想像でき、
「どうしよ……」
 答えが見付けられていない問いを、改めてこぼした。

 しかし見付けられていないからと言って「子供たちへの襲撃」を、黙って見過ごせる程の悪党ではない彼は、
「監視任務の終了を告げられた訳じゃないし……とぉ、とりあえず様子を見るだけでも」
 誰に言うでもなく言い訳を口に、身支度を始めた。

 何より今日は、七草の一人と知らされたチィックウィードが「同行しない曜日」であったから。
 自分が逃げ出した後、信奉者たちの間でどの様な話し合いがなされたか不明ではあるが、襲撃計画を完遂させるには絶好の日。
 
 襲撃を目の当たりにした時に「自身が何をすべきか」まで思い至っていなかったが、恐怖心を押さえ付けてまで見守る決意をしたのは「大人としての責務」からか、はたまた犯罪者集団に情報をもたらした事に対する「贖罪」か。

 身支度が終わった男は窓の外を眺め、
(そろそろ子供たちが出掛ける時間だ……)
 借り部屋を後にした。

 やがて物陰から、
「…………」
 トロペオラム、オキザリス、フリージア、三人の大人ぶった「背伸びな巡視」を、今日も密かに見つめる男。
 見つめながらも、
(信奉者たちが本当に来たら、どうしよう……)
 未だ答えは出ぬまま。

 そんな折、
『!』
 子供たちの行く手に立ち塞がったのは、不機嫌顔の大男。
 
 大男は、怯えた様子を見せながらもオキザリス、フリージアを背に守り対峙するトロペオラムに、
『ガキがチョロチョロしてぇんじゃねぇーーーッ!』
 よほど腹の虫の居所が悪いのか、それともこれこそ「信奉者たちの企て」の始まりか。

 しかし闇に蠢く思惑の可能性など知る由もないトロペオラムは懸命に、
『オレたちはガキじゃないし! オレタチなりに村を守ってるんだぁ!』
 年端のいかぬ子供からの反発に、大男は不機嫌であった顔をより不機嫌に、怒りで顔を真っ赤に、

『ガキが大人に舐めた口を利いてんじゃねぇえ!!!』

 大人げも無く、感情任せに太腕を振り上げた。
 殴られる恐怖から、身を縮めて体をこわばらせ両目を強く閉じるトロペオラムたち。
 そこへ、

『こぉっ、子供を相手に恥ずかしくないんですかぁ!』

 飛び出したのは、子供たちの動向を「密かに監視」していた筈の男。
 極度の恐怖の緊張から声は上擦り、両膝はガクガクと震えていたが、怯える子供たちを背で庇い、

『そぉ、それにぃこの子達は「中世の七草の方々」と縁(えにし)の深い子達なんですよ!』

 怒れる大男の血走った眼を、ありったけの勇気をかき集めて直視。
 すると守られたトロペオラム達も反撃開始とばかり、

「そっ、そうだぞ! 兄ちゃんたちはオレたちの友だちなんだぞ!」
「「そう(よ・だ)そう(よ・だ)!」」

 巣穴を突かれたアリ達の如き反攻に、苦虫を嚙み潰したような怒り顔を見せる大男であったが、
(そ、そう言えば、勇者組と関係のあるガキ共が村に居ると聴いた気が……)
 曖昧な記憶に基づく情報ではあったが、真偽はともかく「勇者一行の名」を出されてしまっては分が悪く、たじろぎを見せた所に、

『村で見た覚えの無い方ですが、貴方の顔は覚えましたよ! 今後、もし、子供たちに何かしたら通報しますよ!』

 男は格上を相手に大見得を切った。
 大見得は切ったが、その内心では、

(こ、この人が、信奉者の命で動いていたらどうしようぉ……)

 表沙汰に出来ない不安も。
 しかし男の心配をよそに両者の間に繋がりは無かったようで、大男は「通報する」との言葉がトドメに、

「けっ、ケェッ! 面白くもねぇ!」

 明らかな負け惜しみ、捨て台詞を残し、その場からすごすごと去って行った。
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