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第十章
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突如現れた親衛隊副隊長を前にチィックウィードやトロペオラム達が歓声にも似た声を上げ、彼が子供たちに好感を持たれているのを窺わせ、
『外遊中の隊長に成り代わり! 緊急時には、この「私奴(わたくしめ)」が!』
代役に立つのを誇らしげに力強く高らかに宣言したが、急な困惑で、
「いえいえですからぁ何度も申しています通り「私の名前はフクタイチョウ」ではなく、」
呼称の訂正を促した。
ところが、
『フクタイチョウがそう言ってんだからアソビにいこうぜぇチィ♪』
『そうよチィちゃん♪ フクタイチョウが大丈夫って言ってくれてるのだわ♪』
『そうだよ、フクタイチョウが言ってくれてるんだよ♪』
聴く耳を貸す素振りもない子供たち。
他意無い笑顔で何度も「フクタイチョウ」と愛ある連呼をし、そんなトロペオラムたちの親しみに、
「あははは……」
素顔が見えぬ彼が苦笑していると思われる声を発するさ中、憂いを持たずに遊べる条件が整いつつあるチィックウィード。
母親(仮)ドロプウォートの為にと、大人ぶった我慢に揺らぎを覚え、
「ふ……フクタイチョウが、ママを、たすけてくれる……なぉ?」
『モチロンであります!』
愛らしい顔色窺いに、彼は全力肯定して見せたが、
「ですが、それはそれとして当方の名前は何度も申しています通り「フクタイチョウ」ではなく、」
呼称の訂正も改めて促した。
そこへ、
『フクタイチョウや親衛隊のみんなが助けてくれるから大丈夫なんだよ、チィちゃん♪』
割って入ったのはラディッシュ。
穏やかな口調で、あえてのからかいも交え。
思いも寄らぬ勇者の参戦にギョッとした親衛隊副隊長は思わず、
「勇者殿までもでぇ~ありますかぁ~」
ふざけ半分、ガックリ肩を落とす仕草を見せると笑いが起こった。
スパイダマグを支える「頼れる右腕の武人」にありながら、他人を気遣え、自分以外に優しいフクタイチョウ。
好人物(こうじんぶつ)であるのは言わずもがな「天は二物を与えず」と言うか、名は体を表すが如くに「長く難解で堅苦しい名」を、生真面目な気質が故に「正確に呼称する」のを強要するきらいがあり、フクタイチョウと言う呼び名はそんな彼を残念に思った村人たちが彼の肩書きを素に付けた「愛称」であった。
しかしそこは、融通の利かない彼である。
呼ばれ方に固執し過ぎている自覚はあり、村人たちの気遣いから生まれた愛称であるのも心では分かっていたが、分かっていても固い頭がそれを許さず「愛称呼びの村人」と「訂正を促す彼」とのやり取りは、この村においてもはや恒例、お約束の類となっていた。
お決まりのやり取りを済ませた後、大人たちに見送られながら、
『♪♪♪』
トロペオラム達と上機嫌で出かけるチィックウィード。
しかしいざ出掛けてみると彼女の胸中に素朴な疑問が湧き上がった。
《コドモってナニしてアソブなぁお?!》
だからと言って、
(どうやってアソブなぉってぇ、きくのはチョットヘンなぉ……)
天真爛漫が服を着て歩いているような彼女であっても、彼女なりの躊躇いが。
大人を意識した考え方が、思考が、足枷となってしまったが、そこは子供同士である。
妙に身構えたりせず、気軽に「何して遊ぶ」と訊けば良かったのだが、同年代の子供と遊ぶ経験値が過度に少ない彼女には「思い至る事が出来ない発想」だったのである。
(なぉ……)
悩めるチィックウィード。
三人と村の中を歩きながら悩んだ。
そうして悩んだ末に彼女は心の内にある二つの魂に、
(キーメ、スプライツ……)
{{ん?}}
(コドモってぇ、ナニしてアソブなぁお?)
答えを求めた。
{{…………}}
沈黙する二人。
それでも真顔の問い掛けに何かを答えようと、
{{それは……}}
試みたが声は次第に尻すぼみ、
{{…………}}
やがて無言となってしまった。
答える事が出来なかった。
当然である。
二人も世間一般の子供たちとは異なり、子供としての遊びを知らぬまま暗殺者として生かされ、知らぬまま肉体を失ったのだから。
『外遊中の隊長に成り代わり! 緊急時には、この「私奴(わたくしめ)」が!』
代役に立つのを誇らしげに力強く高らかに宣言したが、急な困惑で、
「いえいえですからぁ何度も申しています通り「私の名前はフクタイチョウ」ではなく、」
呼称の訂正を促した。
ところが、
『フクタイチョウがそう言ってんだからアソビにいこうぜぇチィ♪』
『そうよチィちゃん♪ フクタイチョウが大丈夫って言ってくれてるのだわ♪』
『そうだよ、フクタイチョウが言ってくれてるんだよ♪』
聴く耳を貸す素振りもない子供たち。
他意無い笑顔で何度も「フクタイチョウ」と愛ある連呼をし、そんなトロペオラムたちの親しみに、
「あははは……」
素顔が見えぬ彼が苦笑していると思われる声を発するさ中、憂いを持たずに遊べる条件が整いつつあるチィックウィード。
母親(仮)ドロプウォートの為にと、大人ぶった我慢に揺らぎを覚え、
「ふ……フクタイチョウが、ママを、たすけてくれる……なぉ?」
『モチロンであります!』
愛らしい顔色窺いに、彼は全力肯定して見せたが、
「ですが、それはそれとして当方の名前は何度も申しています通り「フクタイチョウ」ではなく、」
呼称の訂正も改めて促した。
そこへ、
『フクタイチョウや親衛隊のみんなが助けてくれるから大丈夫なんだよ、チィちゃん♪』
割って入ったのはラディッシュ。
穏やかな口調で、あえてのからかいも交え。
思いも寄らぬ勇者の参戦にギョッとした親衛隊副隊長は思わず、
「勇者殿までもでぇ~ありますかぁ~」
ふざけ半分、ガックリ肩を落とす仕草を見せると笑いが起こった。
スパイダマグを支える「頼れる右腕の武人」にありながら、他人を気遣え、自分以外に優しいフクタイチョウ。
好人物(こうじんぶつ)であるのは言わずもがな「天は二物を与えず」と言うか、名は体を表すが如くに「長く難解で堅苦しい名」を、生真面目な気質が故に「正確に呼称する」のを強要するきらいがあり、フクタイチョウと言う呼び名はそんな彼を残念に思った村人たちが彼の肩書きを素に付けた「愛称」であった。
しかしそこは、融通の利かない彼である。
呼ばれ方に固執し過ぎている自覚はあり、村人たちの気遣いから生まれた愛称であるのも心では分かっていたが、分かっていても固い頭がそれを許さず「愛称呼びの村人」と「訂正を促す彼」とのやり取りは、この村においてもはや恒例、お約束の類となっていた。
お決まりのやり取りを済ませた後、大人たちに見送られながら、
『♪♪♪』
トロペオラム達と上機嫌で出かけるチィックウィード。
しかしいざ出掛けてみると彼女の胸中に素朴な疑問が湧き上がった。
《コドモってナニしてアソブなぁお?!》
だからと言って、
(どうやってアソブなぉってぇ、きくのはチョットヘンなぉ……)
天真爛漫が服を着て歩いているような彼女であっても、彼女なりの躊躇いが。
大人を意識した考え方が、思考が、足枷となってしまったが、そこは子供同士である。
妙に身構えたりせず、気軽に「何して遊ぶ」と訊けば良かったのだが、同年代の子供と遊ぶ経験値が過度に少ない彼女には「思い至る事が出来ない発想」だったのである。
(なぉ……)
悩めるチィックウィード。
三人と村の中を歩きながら悩んだ。
そうして悩んだ末に彼女は心の内にある二つの魂に、
(キーメ、スプライツ……)
{{ん?}}
(コドモってぇ、ナニしてアソブなぁお?)
答えを求めた。
{{…………}}
沈黙する二人。
それでも真顔の問い掛けに何かを答えようと、
{{それは……}}
試みたが声は次第に尻すぼみ、
{{…………}}
やがて無言となってしまった。
答える事が出来なかった。
当然である。
二人も世間一般の子供たちとは異なり、子供としての遊びを知らぬまま暗殺者として生かされ、知らぬまま肉体を失ったのだから。
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