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第十章

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 リンドウとヒレンに対する気遣いに、むしろ辟易顔を向けられたラディッシュ。

「だってさぁ~」

 走りは止めずに戸惑いを隠さず、
「二人は「百人の天世人」なワケでぇ、地世のチカラの影響を受けるワケでぇ、そんな二人を戦いに巻き込んでぇ何かあったら、僕は二人に、天世で反抗を続けてる皆に、どう償えば良いのかぁ」
「「…………」」
 グジグジとした物言いに、二人は走りながらもため息交じり、

「何度も言ってるしぃ~。何があっても「責任を感じる必要は無い」のしぃ~」
「そうよ。これは私たちの勝手なの。地世のチカラの影響を防ぐ首飾りもあるし、何より、」

 ヒレンは一瞬言葉を呑むと、言葉を選んだ様子で改めて、
『ドロプにあんな献身を見せ付けられて、いつまでもお客様で居られる筈が無いでしょ』
((((((!))))))
 その言葉は、現状を作ってしまったラディッシュのみならず、新参のリンドウを含めた仲間たちの心にも響く一言であった。

 問われる決意。

 緩んだ気持ちを引き締め直すに「絶好の言葉」とはなったが、汚染獣の群れ程度の討伐を前に、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 過剰に重みを増す空気。

 戦(いくさ)に臨むにあたり覚悟と緊張感は大事だが「力み過ぎ」は思わぬ失態を招くこともあり、
(これじゃ「負け戦(いくさ)」に行くみたいさぁ)
 懸念したニプルウォートは一考すると、先頭を行く背に「ニヒッ♪」とイタズラっぽい笑顔を向け、

『そう言えばさぁラディ、ゴゼンから贈られて来た「新婚祝い」ってぇ何なのさぁ♪』

 からかい声に、

「新婚ってぇ」

 走りながらも思わず苦笑で振り返るラディッシュ。
 困惑笑いを浮かべながら、

「贈られて来たのは「新婚祝い」じゃなくて「新居祝い」でしょぉ」

 気の置けないやり取りに、一瞬にして過度な硬さが取れる仲間たち。
 自身の「イレ込み過ぎ」に気付かされたのか、汚染獣討伐と言う戦地に向かっているにも拘らずの明るい口調で、

「アーシも気になるのしぃ♪」
「そうね。元老院の眼を盗んでまで、わざわざ手間暇かけて送って来た物が何のか、まだ聴いて無かったわね」

 他の仲間たちも走りながら興味津々。
 答えを待つと、彼はリンドウとヒレンの代表質疑に「あははは」と、再び困惑した様子の笑顔を見せながら、

「小さいゴミ箱が一つだった」

『『『『『『ごっ、ゴミ箱ぉを?!!!』』』』』』

 慄きと嘆きの大合唱。
 天世の世界の表側を支える百人の天世人の、それも序列上位に君臨する人間からの贈り物に対し。

 予想通りの反応を見せた仲間たちに、
(ヤッパリそう思っちゃうよねぇ~)
 苦笑のラディッシュは更に、

「手紙も一応は添えてあったけど一言だけで「新築祝い」だって」
『馬鹿じゃないのしぃ!』

 即ギレするリンドウは、

『何が「新築祝い」なのしぃ!』

 同胞の無作法に憤慨。
 するとヒレンも、

『相変わらずイイ加減な男ね!』

 同調、憤慨しながら、

『「新築」じゃないんだから、そこは「入居祝い」か「転居祝い」じゃない!』

((((((え?!))))))

 彼女のツッコミどころに、戸惑いを覚える仲間たち。
((((((そこじゃない気が……))))))
 内心に違和感を抱きながらも、

((((((指摘したら後が面倒臭そう……))))))

 逆ツッコミを入れられた彼女からの《羞恥を誤魔化す為の反撃》の後処理を懸念した仲間たちは、乾いた笑いで「あはは」と笑ってお茶を濁すにとどめ、戦地に向かってひた走った。
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