上 下
639 / 706
第九章

9-45

しおりを挟む
 大司祭は僧侶の身でありながら心は常在戦場、常に体内に戦闘用の天法を蓄積していた。
 それが詠唱無しに天技を発動させたからくりであり、蓄積する天法を消費しながら天世の恩恵も受ける、言わばエンジンを二つ搭載したかの状態で戦うのが彼の戦闘スタイルであった。

 故に戦闘力は単純計算で二倍。

 しかも大司祭は「七草」である。
 七草のチカラが二倍ともなれば、そのチカラは強大。

 とは言え、今回は戦っているのを周囲に悟られないようにする為に施した結界があり、その内側では天世からの恩恵が受けられない状態である。
 天技を発動させるに当たり蓄積した天法を消費するより他に無く、チカラは半減であったが、天技を発動させられる「七草の大司祭」と、天世からの恩恵を受けられず、天技を発動できないターナップ。

 戦いの行く末は「火を見るよりも明らか」の筈であった。
 筈であったが、実際は、

(天世の恩恵も纏わずワシを何故に上回れる!)

 防御に徹しながらも隙あらば反撃を繰り出しターナップを観察し、

(なんと!)

 とある事実に気が付いた。
 天世のチカラを纏っていないと思われたターナップが、天法を使って身体能力の底上げを図っていたのである。
 しかも「天法のチカラの源」は「天世から降る恩恵」ではなく、

(周辺の全てからじゃとぉお?!!!)

 大地や草木、建物など、戦いの広がりに備え大きく取った結界内の、ありとあらゆる物たちから。
 天世からの恩恵を浴びているのは、人だけではない。
 動物、植物、水や建物、有機物無機物問わず、中世にある全てである。

 ターナップは、それら全てから少しずつ天法を分けてもらいながら戦っていたのである。

 会話を交わせない現時点で彼が、それを意識的、無意識的に行っているかは不明であるが、一か所から大量に奪わないのは恩恵を失ったことにより発生するであろう弊害を恐れてと思えた。

 その総量は如何な「七草」と言えど、個で保有できる蓄積を軽く上回り、

(長引かせてはワシの恩恵が枯渇してしまう!)

 戦いながら内心で慄くと同時、焦りを覚えた次の瞬間、
(!)
 体が急に、鉛を抱えたように重く。
 それは生きとし生ける物の全てが抱える宿命の、

(若い時宜(じぎ)であったら、この程度ぉ!)

 加齢による体力の衰え。
 緊張を過度に強いる戦いの中で、精神的にも、肉体的にも、疲労が首をもたげ始めたのである。

 戦士としてのブランクである「実戦からの遠ざかり」も二次的要因と言えたが、一級同士の戦いにおいて「その差」は致命的。
 動きが鈍った所へ容赦なく、

『ウゥラアァアァーーーーーーッ!』

 天法により底上げされたターナップの剛腕による直撃が、

『クゥッ!』

 反射的に両腕でガードするも、

 パァパアァキィーーーーーーン!

 付与した天法ごと両腕の骨を打ち砕かれ、

「ぐぁあぁ!」

 殴り飛ばされ地を転がる大司祭。
 勝敗は決し、ターナップも手傷は負いつつ仁王立ち。

 大地に伏す祖父を、
「…………」
 悠然と見下ろした。

 そこはかとなく、悲し気に。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

処理中です...